あなたは誰?
クラスのみんなが指輪を着けてから、数週間が経った頃、遂にその現象が現れた。
ケンジの質量が、21グラム下がったのだ。
ピー!
ピー!
ビー!
あ!たった今、ケンジ君の質量が下がりました!
研究室の赤色灯が勢いよく回転し、モニターの一部に「警報」の文字が踊っている。
「質量、正確に21.000.000グラム低下しました。既に5秒経過!」
ユミちゃんが大声で報告する。
「よーし! モモちゃんに連絡して! ところで、モモちゃんの方の質量はどう?」
タクヤさんは、少し興奮しながらユミちゃんに聞き返す。
「モモちゃん、変化無しです! ケンジ君の質量のみ急激な変化です!」
ユミちゃんも、少し気持ちが高ぶっているように答える。
「モモちゃんと連絡取れました、直ぐにケンジ君の所に向かうそうです!」
スマホでモモちゃんに連絡していたユミちゃんが答える。
「良し!頼んだぞ、モモちゃん」
タクヤさん、かなり興奮している。
「10秒経過、変化ありません。15秒経過、変化ありません。20秒経過……あ!質量戻ってきました!」
モニターを凝視していたユミちゃんが叫んだ。
「モモちゃん、ケンジ君の処に到着しました、研究室のスピーカーに繋ぎます」
ユミちゃん、色々な機械を操作する。
ザーッ
「研究室の方ですか?モモです。先程ケンジ君の肩に触れたら、正気に返った様です。質量の方はどうですか、元に戻りましたか?」
「モモちゃん? 助教のタクヤです。どう? ケンジ君の状態は変わった事無い?」
「あ! タクヤさんですか?」
モモちゃんの声がなんとなく変だ。
「実はなんか様子が変なんです。確かにケンジなんだけど、ケンジじゃない感じがするんです」
声に不安が入っている。
「だって、正気に戻った瞬間に私を見て『あなたは誰?』って言うんですよ! まるで記憶喪失になった人みたい。でも、その後で、やあモモちゃん! と言って薄ら笑いをするんです。まるで、記憶のノートをめくって、私のことを思い出した様な感じなんです。それに、ケンジは私の事をいつも『モモ』って呼び捨てにするのに、さっきは、『モモちゃん』てちゃん付けなんですよ。確かに姿形は、ケンジ君なんだけど、雰囲気はなんか別の人の様な気がするんです。気のせいかなー?」
「チョット、ケンジ君と変わってくれるかな?」
タクヤさんはそう言ってモモからケンジに通話相手を入れ替えた、それと共に、タクヤの横にはケンジの兄であるケンイチロウも来てもらった。
「やあ、ケンジ君」
「あ……、こんにちはタクヤさんですか」
ケンジの声がする。
「久しぶりだね? どう気分は悪くないかい? なんか記憶が曖昧になっているのかな? 一体どうしたんだい?」
タクヤさんはそう言いながら、ケンイチロウの方を向く。
「今ここに君のお兄さんがいるから、少し会話して記憶の整理をしたらどうかな?」
タクヤさんは何か心当たりがあるようで、ケンジの信ぴょう性を確かめようとしている。
「やあ、ケンジ。このあいだの飯は美味しかったよなー。また連れてってやりたいけど、私は良く覚えて無いんだよ?なんて店だっけ?」
「やだなあ兄貴、もうボケちまったのか? 一つ星レストランだろ! あそこはうまかったよな。
今度またモモちゃんも連れて行こうぜ!」
「おお、そうだな。ところで、今度申請書類を作りたいんだが、俺の名前ってかけるか?」
「おいおい、兄貴大丈夫かい、シンイチロウって名前欄に書けば良いんだろう? 兄貴も俺のことを疑っているんじゃ無いよな?」
その時、質量波形のモニターを見てるユミちゃんが、紙をそっとタクヤさんとケンイチロウの前に差し出した。
――― 質量の波形がケンジ君のそれと違います ―――
***




