指輪のチカラ
クラス全員が指輪を付けて生活を始めて1週間が過ぎた。
人間は慣れる生物だ、とは良く言ったものだ。
最初の数日は落ち着かなかった男子も、今じゃあスッカリ慣れてしまって、誰も指輪の事に触れない。それこそ、入学した時から指輪をしているような雰囲気だ。
男子が落ち着いた分、今度は女子のテンションが上がり始めたのは想定外だった。
学校からの依頼は、「指輪をつけて」のただ一点だった。だから、つけている指輪をデコレーションする事は禁止されていないと言うのが、女子達の共通認識だ。
最初は、指輪が傷つかないようにカバーを付けるのが始まりだったのだが、やがて、リングにカラーバリエーションを求める女の子も出て来た。
イミテーションの指輪は、割と簡単に色が付いて、その色は中々取れなかった。そのせいか、カラーリングと化すのは時間の問題と思われた。
でも、当然俺とモモの純正品は特殊な素材のため、中々色は付かない。まあ、生徒によっては最初にもらった状態を保つのが好きだと言う子もいるわけで、モモと俺は「指輪の状態はもらった時と同じが好き」グループに属している事になっている。
当初の予定では数ヶ月すれば飽きる、との想定だったが、これは結構長引きそうな予感がする。
やはり、乙女心と秋の空っていう奴か?
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「やはり、これは故障じゃ無いですよ。モモちゃんの方にも、ケンジ君ほどでは無いですが細かい揺れが出ています」
大学院生のユミが、タクヤとケンイチロウにモニターの表示内容を見せながら説明する。
ケンジとモモがつけている、はかる君2号機からは、二人の質量が、1マイクログラム/1ミリ秒 の精度で送られて来る。初代のはかる君も1ミリグラム単位で質量を測定できたが、今はその1000倍の精度だ。
最初にこの現象に気が付いたのは兄貴と同じ大学院生のユミさんだった。細かい数字のばらつきを、数字ではなく波として捉えてみたのだ。
そうしたら、質量値がある時は緩やかに、ある時は激しく、大きい時も小さい時もある、波形として観測出来るのだ。脳波計や心電図のように、体と心の繋がり具合を波形としてモニター出来る可能性を示唆する発見だった。
それまでは、大きなモニターには数字しか並んでいなかったが、ユミが作ったプログラムのおかげでモニターには複雑な波形がリアルタイムでモニターされている。
ケンジの波形は絶えず激しい波として表示されているが、モモの方は緩やかな波になっている。
しかし、どちらにしても、体と心の繋がり具合が、当初想定していた様に、決して堅固で安定したものでは無い事を示していた。
今までの想定としては、心と体は非常に密に結合していて、何らかの原因でその結合状態が一時的に切れる事があり、その結合状態が永遠に切れる事が「死」であると考えれれていた。
しかし、その想定が怪しくなって来た。どうも原因と結果が逆なのではないか?と言うのが現時点の研究室メンバーの総意だ。
すなわち、心と体は元々不安定な状態で緩く繋がっているだけで、体(肉体)が死を迎えた時、心は繋がる体から自由になる。だから、普段でも、何かのキッカケで心が体から離れる事が起こり得る。通常は直ぐに再接続されるが、ごく稀に接続に時間がかかる。ケンジ君はこのパターンに属している可能性が高い、と言う事だ。




