プランB始動
「お兄様、ご馳走様でした!」
モモが幸せそうな顔をして兄貴にお礼を言っている。まあ確かに一流のレストランという感じで、俺的には落ち着かなかったが、味は保証する旨さだった。確かミシュランの一つ星をもらったかどうか、噂になってる店だよな、此処は。
「兄貴、ご馳走ありがとうな。俺からもお礼を言わせてもらうぜ」
レストランを後にして、大学の研究室に戻る道すがら、俺は奢りの件で兄貴にお礼を言った。
「ところでさあ、兄貴。なんで今回からモモにも、指輪、イヤ、「はかる君2号機」だっけ?を付けさせるんだ? あれは、突然感覚を失う俺の質量を測るための機械じゃ無いのか? モモには同じ様な経験が無いのだから、付けても無駄じゃ無いかな。まさか、本当は俺とモモの婚約指輪とかじゃ無いだろ?」
「ケンジ、何を寝ぼけた事を言ってるんだ?モモちゃんに聞こえたら大変な事になるんじゃ無いか!大丈夫だよ、そんな夢のある話じゃ無いから」
兄貴は驚いたように、お俺に小声で話しかける。
「まあ、モモちゃんが僕の義理の妹になってくれるのは嬉しいけどね……今回の2号機は、前回より質量の測定精度が1000倍以上向上している。それは、逆に言えば外部からのノイズを受けやすいという事でもある。それに未だ完成品では無いんだ、本当はね。完成するのはもう少し先の予定だったんだけど、今回ケンジの様な有力な被験者が現れたために、実戦配備のスケジュールが前倒しになった」
研究室までの道すがら、兄貴は楽しそうに話し続ける。
「そのために完全なチューニングが終わってないんだ。だけど、少しでも早く超高感度な機械でケンジの異常な状態をモニターしたいという研究スタッフの強い要望を受けて今回特別に試用品として2台だけ譲り受ける事が出来たという事さ。そのために、被験者であるケンジとほぼ同じ環境で生活するもう一人の人間に「はかる君2号機」を付けてもらい、その子から送られてくる質量の測定結果情報を基準情報として使うんだ」
ほぼ同じ環境、という処で、兄貴はモモに気が付かれないように、俺とモモをこっそりと指さす。
「もしも、モモちゃんの機械にも異常な数字が出れば、ケンジの測定値にも異常が出るはずなので、その数字を引き算すればいいんだ。今回は外部ノイズのキャンセラーとしてモモちゃんにケンジと対になる測定機を付けてもらう必要があるんだ」
兄貴の指が、横に流れている途中で突然跳ね上がる。
「本当ならば、測定機を付ける人間は日常生活を共有して欲しいのだけど、そんな事は無理だろう?まあせめて同じ学校に通って、通学路も同じで、住んでいるところも近いという事で、モモちゃんに白羽の矢が飛んで来たわけだ」
取ってつけたように、口元に人差し指を当てる。
「あ、それともう一つ大事な事だけど、今回の実験は口外出来る事では無いので、秘密を守れる人である事が一番の要件でもあるよ。その点でも、モモちゃんは最適だろ?」
人差し指と親指で指輪の形を作って、その裏側にあたる部分を指輪を作った手と反対側の指でなぞる。
「まあ、プランBでは、それぞれの指輪の裏には、お前たちの出席番号とイニシャルまで入れる事になっているので間違いようが無いけど、イタズラで交換される事が無いように、モモちゃん共々注意してくれよ。今回の奢りは、その迷惑料も込みだからね!」
うわー、そう来たか!ヤッパリ、タダより怖いもんはないなあー。
兄貴がこんな事で奢るとは思えなかったもんなあ。
まあ、俺は自分の体を調べてもらうから別に良いけど。良くモモが『ウン』と言ったなあ?
兄貴がまた何か魔法を使ったのか?俺は心の中で思った。
「イヤ、やだなあ、ケンジ。僕は魔法なんか使えないよ。ただ、コレを付けていればケンジの状態をいつもモニター出来るから、ケンジが何かあったら直ぐに駆けつけられるよ、と言っただけさ。このリングは測定機とレファレンスとして対になっているので、相手の状態がわかる機構が組み込んであるから、まあ僕がモモちゃんに言った事は嘘じゃないんだよ」
え?なんで俺が口にしていない質問に、兄貴は的確に答えるんだ!
俺の顔色をみて、俺が感じた疑問を読み取ったのか?
ウーン、兄貴を絶対「敵」に回したくないなあ。




