兄貴の奢り
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よって、本研究に必要なのは人体の実時間における超精密質量測定である。
本研究施設で開発している超精密人体質量測定器「はかる君2号」は、質量の測定精度が1号機に比べて格段と向上したが、仕様上の制約として被測定者に密着する必要がある。そのため、測定装置の形状を腕に通す腕輪形式から指に付ける形式に変更となる必要がある。
なおこの機械は、一般的な名称として「指輪」と呼ばれている宝飾品と同じ形状をしている。
今回被験者が学生である為、被験者のみにこの測定器の設置を依頼する場合に被験者に対するいわれのない圧力が学校側や同級生の間から生じる事は明らかである。
その場合、被験者の精神状態になんらかの歪みが生じてしまい、測定結果に不確実性を含んでしまう可能性が予見される。
そこで、その不確実性を出来る限り排除する為に以下の使用法を提案する。(試案)
試案
1.被験者とおなじクラスの人間に対して、被験者と同じ形状の指輪を装着させる。
2.被験者以外の指輪は形状のみ同じ模造品とする。
3.この状況を3か月続ける事で、指輪の装着を通常の学生生活と同化させる。
4.しかるのち、3か月の期間を解除し、任意継続とする。
5、その結果、被験者の指輪装着が日常経験として学生に認知される。
以上の提案により、今回の測定実験における追加予算の請求を行う事となった
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「っぷぅー。まあ、こんな感じかな?」
助教のタクヤさんは、今回の追加予算申請書を起票しながらため息をついた。
まあ、本当にうちの教授の力が強くて助かったよ。こんな申請、どんな理由を付けたって、普通は『お金が無い』!の一言で経理側から一蹴されるもんな……
パソコンで作成した申請書をプリンターで印刷する。
最初は、研究室のメンバーはみな、被験者にそこまで気を付かなくてもいいじゃないか?
っという話になったんだけどね、本当は。
ジー、ガチャガチャ!
印刷された紙がプリンターから出て来る。
でも、彼のお兄さん、ケンイチロウ君の話によると、彼は小さい頃に学校で虐めにあった事があるらしい。そのため、ケンイチロウ君は今回の件でまた虐められる事を非常に恐れている。普段は温厚な彼が、今回の件に限っては感情丸出しで僕達研究室のメンバーに対して反対意見をのべていたからなあ。まあ、結局は彼の熱意の結果として、プランBが考案された訳だし。
印刷された申請ををまとめてホチキスで止める。
確かに、僕が研修医だったころに、心療内科の先生に聞いた話では、一度でも虐めを受けると、次もターゲットにされやすいと聞いた事がある。人間て、一度負のスパイラルに入ると抜けられなくなるんだそうだ。だから、心療内科では、少しでもスパイラルを断ち切る方法を教えているんだという事を聞いた事があるからな……
最初は、僕達研究室のメンバーの自腹で行く予定だったけど、この件が教授の耳に入る処となったら、『学生の虐めのトリガになるのを防ぐのは、ワシら年配の人間の仕事じゃあないか。そのくらいの予算ならワシが経理を説き伏せておくから、、、』と言う話になったもんな。
その後で、大学の経理から、必要な予算は通してあげるから、形式的で良いので追加申請書を出して欲しいと言われたもんなア。ウチの教授って、どれだけ強力なコネを持っているんだかなあー。
ケンジ君今頃は、お兄さんに食事を奢ってもらっていると思うけど、今回のプランBも、お兄さんからの奢りだっていう事には、多分永遠に気が付かないだろうなー。
さて、じゃあサッサとこの申請書を経理に出してきて、ついでにフェイク品の作成費用の請求書も持っていくかな……
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