助教のタクヤさん
「大変だー!」
大げさな声を上げながら助教のタクヤが研究室に併設された観測ルームから飛び出してきた。
まあ、観測ルームと言っても薄いパネルで研究室の一角を仕切って、超精密質量測定器「はかる君」
から送られてくる測定結果をモニターするだけの部屋なんだけどね。
「はかる君」を付けてくれている被験者は既に100人を超えているので、研究室の机の上にパソコンを一台置いて測定する訳にはいかなくなっていた。
研究室の一角を仕切って、何台ものサーバーを設置して、100台以上の「はかる君」からの測定結果を絶えず記録し続けている場所を、私たちは観測ルームと呼んでいる。
次回、予算が下りたら新しく部屋を一つ借りて専用のサーバーと専用のオペレータを置いて観測センターに昇格させましょうと企んでいるけど、まあ、文科省からそんな簡単にはお金はもらえないだろうなあ。
観測ルームから飛び出してきたのは、私、ケンイチロウの指導教官である助教のタクヤさん。
結構おっちょこちょいな処はあるけど、若いのにこの研究室をまとめてるだけあって、物事の本質を見抜く力は群を抜いている。
それに、なんか憎めないところがあってタクヤさんの言う事はとりあえず聞いてあげたくなっちゃうんだよね。
元々は、脳科学とは畑違いな世界で活躍していた人なんだけど、ひょんな事から脳の振る舞いに興味をもっていたところ、この研究室の教授と意気投合してここに移ってきた人なんだそうだ。
「ケンチャン、ケンチャン、!」
(助教のタクヤさん、いつも私の事をケンチャンて呼ぶんだよね。ケンイチロウという名前があるのにね。)
「大変だ、今日から測定を始めた被験者番号000106って誰なんだい?」
もう既に3回もリンク切れが起きてるぞ!!!
リンク切れと言うのは、肉体と心が切断された時に起こるであろう、人間の質量が21グラム減る現象の事なんだけど、研究室内では略してリンク切れと呼んでいる。
実は、この現象は「はかる君」を開発して最初に被験者に付けた時に、助教のタクヤさんが発見した。既に被験者は100人を超えているけど、この現象はほぼ全ての人に発現する現象だったんだ。
ただし、一人平均で一か月に一回程度でしか観測されない、まれな現象ではあるんだけれどね。
最初は測定器の故障か何かかと思って、徹底的にチェックしたけど異常らしいところは何処にも発見されなかった。
そこで被験者を増やしてサンプル数を増やしたのだけれど、「事実は小説より奇なり」を自で行ってる感じで、その事実が普遍的な現象らしいという事が見えてきて処なんだ。
ただし、こんな事学会で発表出来る事でもないし、現時点では研究室内での第一級極秘事項になっている。
だけど、どうも弟のケンジは研究室から家に帰る間に、無意識の内に3回もリンク切れを起こしているらしい。リンク切れ自体は、発現時間が一瞬(0.1秒以下)の場合が全てで、多分発言した瞬間を覚えている人はいないと考えられている。
結局、頻度が高い被験者を探し回っていたところへ、まんまとカモがネギを背負ってやってきた来た感じになってしまった。うーん。




