天然爆発!?ドジっ娘メイドと大騒ぎ
いつも読んでいただきありがとうございます。
今日は3連休の最終日です。今週も1週間よろしくお願いいたします。
「…ここは、どこだ?」
俺は、絶賛迷っていた。
城の中を探索するために、まずは外の景色でも見ようと窓を探し始めたのは、会議を行った部屋を出てすぐの事だった。
来た道を戻るように階段を昇れば帰れたが、別の部屋から外へ出る方法を探していた。
中々窓が見つからず、夢中で探していると場所がわからなくなった。
さらに問題は、窓を見つけるよりも人を見つける方が難しい事だった。
広い屋敷のような城の中で何十分も歩いたはずだが、誰にも出会っていない。
来た当初も思ったが、この中は静かすぎる。
ゲームで恐怖には慣れているため怖いとは思わないが不気味だとは思った。
そして俺は、やっとの思いで人と出会うことができた。
後ろ姿だが、メイド服だろうか?一生懸命に廊下を掃除している。
あの人に聞いてみよう。
「すみません。ちょっといいですか?」
「ほよ?私に用ですか?」
振り向くと、若い女のメイドだった。年は同じぐらいか、少し下か?
本物のメイドがいるとはやはり城か屋敷なのか…。
良く分かっていないのか俺の方を向いて指示を待っている。
「えっと、道に迷っちゃって…、魔王の部屋ってどこかな?」
「魔王様の部屋ですか?えーと、確か…」
左手にはホウキを持ったまま、右手の人差し指を顎のあたりに当てて考え始める。
すると何かを思い出したように、後ろに下がって距離を取る。
「…あっあなた、誰ですか!?侵入者ですか!?」
今気づいたのか!?天然?ドジっ娘メイドとかか?
弱そうだが、臨戦態勢を取ってホウキを構える少女。
「待ってくれ。俺はこれでも魔王なんだ。自分の部屋の場所がわからないのも変な話だけど…」
「ま…おう…様?」
今にも泣きそうな表情だが、俺もどうしたらいいのかわからない。
「そっそう!魔王。さっきなったばかりだけど、聞いてないかな?」
「…聞いてないです。やっぱり怪しいです!魔王様に会ったことは…ないですけど、きっと…、大きな角に牙も生えてて!大きなマントを付けた…、怖い感じです!」
わからなくもないけど、そんなthe魔王みたいなのはいないんじゃないかな?
一応、ハデスって冥王でもあるわけだし…。
でも、泣きそうな娘をこのままにするわけにもいかないし…。
「じっじゃあ、すぐ出ていくから出口まで案内してくれないかな?俺が何者でも、出ていけば問題ないだろう?」
我ながら何を言っているのか。でも、出口に出られれば誰かに会えるはずだ。
外の様子も見れるから、その時に考えればいい。
「…わかりました。変なことをせずに出て行ってくださいね」
交渉できたー!さすがに素直すぎるとは思うがここは黙って付いていこう…。
そして、涙を拭うと掃除道具を片付け始めた
「それでは、付いてきてくだ…、キャッ!」
意気揚々と歩きだす彼女だったが、片付け忘れた雑巾で盛大に転び、尻もちを付いた。
やはり、ドジっ娘メイドだったか。…でも、このパターンは不安だな。
「…大丈夫?」
俺は優しく手を差し伸べて起き上がらせる
「あっありがとうございます。…じゃなかった!悪者の手は借りません!私たちは一時休戦しているだけです。」
立ち上がったと同時に、手を離し俺から目を背けた。
…忙しい子だな。素直で努力家なんだろうな。和むわぁ
「あははっ」
俺は苦笑いを返して改めて後ろを付いていく。
~~~~~~
…後ろについていって数時間。全く目的地に着かない。
嫌な予感は的中した。彼女のおかげで、迷子は加速していた。
何度も置いてきたはずの掃除道具の場所を通ってグルグル回っていることは予想していた。
しかし、一生懸命な彼女を前に言えなかった…。
「おかしいですぅ…そろそろ着く頃なんですけど…。」
さすがに、気付いたのか言葉が漏れている。
視線もキョロキョロと落ち着かない雰囲気だ。
「あなたたち!ここで何をしているのですか?」
「「・・・ッ!!」」
俺たちは背後から聞こえた声に驚き、同時に振り替える。
そこには、険悪な顔でメガネを光らせる女性がいた。
「はぅぅ!・・・レヴィ様!いいところに来ていただけました。」
メイドは俺を払いのけレヴィと呼ばれたメガネの女性に抱き着いた。
「とっトリーナ!?ちょっ、やめなさい!」
必死に引きはがそうとするも離れない。
よほど、不安だったのだろう。まぁ悪者と何時間も歩いてたわけだし?
レヴィは、あきらめたのか「また迷子になったのね」と言って頭を撫でていた。
俺がどうしようかと戸惑っていると、レヴィが俺の方へと視線を向けた。
「・・・申し訳ありません。あなたが新しい魔王様ですね?」
「え?あっはい。そうみたいです」
俺はいきなりの事で驚いたので笑ってごまかすことにした。
だが、返ってきたのは予想とは違う返答だった。
「何をヘラヘラしているのですか?あなたは魔王なんです。威厳を持って行動してください!」
俺は怒られたことに驚き、反射的に気をつけの姿勢になった。
これは…、慰める女の子を片手に叱られるとは俺が泣かせたみたいになってる。
俺はどちらかというと、いじめられる側だったのに…。
「ま…おう…様?ほっ本物なんですか!?」
メイドのトリーナはうずめていた顔を上げ驚いた顔で俺を見た。
俺は、苦笑いをしてトリーナに改めて挨拶をする。
しかし、「ヘラヘラしない!」とまたレヴィに怒られてしまった。
そして、事情を説明してレヴィを説得するが、トリーナとともに正座をさせられて反省させられた。
俺は勝手に出歩いたこと、トリーナは知らない人と城を歩き回ったこと。
まるで、お堅い委員長のようだ。俺は、静かに説教を受けるしかなかった。
「…では、トリーナは仕事に戻ってください。あなたは私と一緒に来てください」
トリーナは解放され安心して息が漏れていた。
俺は、さらに睨みつけられ言うことを聞くしかなかった。
「…キャッ!はぅぅ。足がしびれて立てません…」
横で、立ち上がろうとしたトリーナは立ち上がれず女の子座りで崩れ落ちた。
レヴィは「まったく」と言って立つのを手伝ってあげていた。
この人は、口うるさいけど優しいみたいだ
「ありがとう…ございます」
「この人は任せて、あなたは仕事に戻りなさい。」
トリーナは黙って頷くと走って帰っていく
しかし、「廊下は走らない!」と一喝されて、トリーナはビクッと反応すると走るのを止めてゆっくり歩いて見えなくなっていった。
「では、改めて自己紹介させていただきます。私は魔王様に仕えさせていただくレヴィと申します。そして、先ほどの女の子はメイドのトリーナです。少し頼りないですが、身辺の世話は彼女がしてくれます。」
メガネをクイッと上げてドヤ顔で説明をするレヴィ
この態度、誰かに似ているような…。
「…それでは、お部屋まで案内いたします」
彼女は付いてこいと言わんばかりに廊下を歩き始めた。
ここでいなくなればまた説教が待っているだろう。おとなしく付いていく
すると、なぜかあっけなく魔王の部屋に着いた。
トリーナは気付かないうちに、出口ではなく魔王の部屋に近づいていたようだ。
逆にすごいな
「お入りください。あなたは魔王です。この部屋から、勝手な外出は避けていただくようにお願いいたします。」
「…はい」
俺は魔王の部屋に入れられ、扉は固く閉ざされた。
何も聞く暇もなく、魔王の部屋に一人になった。
部屋の中には青いランタンが囲むように並んでいて真ん中には玉座
グルっと一周してみたが何もない。寂しい部屋だな…。
「ここで、俺は何をすればいいんだ?」
とりあえず、俺は現状を整理するために玉座に座った。
この椅子は俺の身体には大きすぎて座っても落ち着かない…。
魔王はこの部屋で何をしていたんだ?やることなさすぎるだろう。
…まさか!?天井の魔法陣は暇つぶしで作った気まぐれじゃないだろうな?
やることがなさ過ぎて書き始めたら完成していたみたいな?
…まぁそれはないか。もしそうなら災難すぎる。考えないようにしよう。
それより、魔王になった訳だから命を狙われる可能性もあるな。
身体は鍛えたから何とかなるだろうが、武器も武術も心得はない。
魔法とか使えないかな?炎を操るとか。
やり方が分からないから難しいな…。
まずは情報が必要だ。誰かに聞かないとわからない
コンコンッ
広い部屋に扉をたたくノックの音が響く。
返事をした方が良いかな?と思っていると先に扉は開かれた。
「失礼します。お食事をお持ちしました。」
この声はメイドのトリーナか。食事を運んで来るなんて本当のメイドみたいだな。
食事と言われてお腹が反応するが、トレーニングの食事を思い出し唾を飲む。
あの時は、必死だったので気にしていなかったがロクなものを食べていない。
料理と言っても焼いているだけ。何の肉か聞いても「知らん!!」とベルゼには笑ってごまかされていた。…今思うと異世界。豚や鳥ではなかったかもしれない。
そして、豪華な銀の皿を簡易的に作られた机に並べていく。
椅子も人間サイズで、キャンプセットのようだった
俺は恐る恐る、玉座から降りて並べられた食事の方へ向かう。
すると、よだれが出そうな良い匂いが俺の鼻を刺激した。
油断しないように首を振って我に返す。
お皿を並べ終えたトリーナは少し下がって待機している。
そこに少しずつ近づいて覗き込む。こっこれは!?
そこにはフルコースとでも言うべき色とりどりの豪華な食事が並んでいた。
匂いは、さらに俺の鼻を刺激して食欲を掻き立てる。
「大丈夫ですよ?毒なんて入ってませんから。」
そう言って笑顔で手招きする姿に俺の食への欲望は抑えられなくなり飛びつくように席へと座った。席に座るのと手が動くまですぐだった。
俺は欲望のまま大量の食事を胃袋へ突っ込んだ。
なぜなら、まともな食事が久しぶりであること、トレーニング後に長い会議と長い迷子と長い説教。この間で何も口にしていなかった為である。
うっまい!!
これまでの人生では食べたことのない至極の料理の数々。
肉、魚、野菜、スープ。そして米!すべてが最高!
そして、目の前にあった食事は、ドンドンなくなっていきペロッと完食するに至った。
「ごちそうさまでした」
俺は手を合わせて料理に感謝する。
こんなに食事が嬉しいと思ったのは生まれて初めてだ
生きててよかった。
「喜んで貰えてうれしいです。腕によりをかけましたからね!」
満足げな笑顔でガッツポーズのように腕を前に出すトリーナ
「もしかして、この料理は君が作ったのか?」
「はい!私、料理には自信があるんです!喜んでいただけたのならまた頑張ります」
そう言って前に乗り出して元気いっぱいに俺に顔を近づける。
目はキラキラと輝いていて直視できない。俺は目をそらした。
それに反応して我に返ったのか、体を戻して恥ずかしそうにしていた
そして小さく呟いた。
「…それに、さっきは魔王様に失礼なことをしてしまって…、悪者なんて言ってしまったので…その…ごめんなさい!」
困ったような表情で深々と頭を下げるトリーナ
料理を頑張ったのも、迷子の時のことを気にしていたようだ。
「そんなにかしこまらなくていいよ。俺も魔王になったばかりで良くわかってないし、お互いの事もわからないから…。だから、少し話をしないか?」
「…お話ですか?」
頭を上げたトリーナの顔は不思議そうな表情だった。
怒られるとでも思っていたのだろうか、少し瞳が潤んでいた。
「前の魔王の話とか、君の事についてとか。」
「…わかりました。何でも聞いてください!私にわかることなら答えます!」
その後、得意げに話すトリーナにいろいろ聞くことができた。
彼女は元々、人間の屋敷でメイドをしていたそうだ。
その屋敷の主は暴力的で、毎日ビクビクしていたそうだ。
たまたま、得意だった料理のおかげで殴られることはなかったが、ドジをするたびに怒鳴られていたそうだ。
怖がりの性格は、その事がトラウマになっていそうだ。
そんなある日、買い出しをするため張り切って隣町に行こうとしたとき、迷子になってこの屋敷に迷い込んだそうだ。
その時に、メガネ委員長レヴィに事情を説明して助けてもらった。それでこの屋敷で働き始めたそうだ。それもつい最近らしい。
そのため、前の魔王にはほとんど仕えていなかったらしい。
人間の世界についても聞いてみた。
街の人たちの話では、昔は平和だったが王の圧政が強まり、街の貴族たちも乱暴になっていったそうだ。
「…色々と教えてくれてありがとう。楽しかったよ!」
「お役に立ててよかったですぅ。こんなにお話ししたのは久しぶりですぅ。」
そういって嬉しそうに立ち上がり食器を片付け始めた。
皿を割らないかとドキドキしていたが、さすがはメイドだと思える手慣れた手つきだった。
すると、片付けながらトリーナがおもむろに話し始めた。
「…でも安心しましたぁ。魔王様ってもっと怖い人かと思っていたので、今のご主人様は優しくてうれしいです。これからも頑張るので、よろしくお願いいたします!」
ガシャンっ!
…目の前で皿が割れた。
気を抜いてしまったのか話しながらだったのか、もう少しで片付けられたのに…。
「あわわわっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
慌てて何度も頭を下げるトリーナ。
予想道理の展開につい笑ってしまい、トリーナは顔を赤らめていた。
和むなぁ。
俺は食事も終わり手伝おうとしたが、断固として拒否された。
仕方なく落ち着かない玉座に戻り、落ち着く座り方を探したり、寝転んだり色々試していた。
すると、片付けも終わり落ち着いたトリーナが近づいてきた。
「この玉座、大きいですぅ。魔王様ってやっぱり大きかったんですかね?」
俺は言われて魔王を思い浮かべると、確かに大きかった。下敷きにしていたが…。
大きかったよ!と答えたい気持ちを押し殺し、どうだろう?と適当に返した。
下敷きにしていたとはさすがに言えないからな…。
「キャッ!」
トリーナの悲鳴に驚き声の方へ顔を向けると玉座前の段差に足を引っかけるトリーナが見えた。
ゴチンッ!
見事に玉座へ頭をぶつけて頭を押さえるトリーナ
俺は思わず吹き出してしまったが、悪いと思いすぐに口を押えた。
「…うぅ、痛いですぅ」
カチッ!ゴゴゴゴゴッ!
何かのスイッチのような音がしたと思うと、トリーナの頭をぶつけた辺りから青い魔法陣が浮かび上がると玉座が揺れ始めた。
「なななっ何ですか!?」
トリーナが驚いて慌て始めるが揺れは収まらない。
俺は反射的に玉座にしがみつき、トリーナも頭を押さえてしゃがみ込んだ。
すると、玉座が後ろに動きだす。
ゴゴゴゴゴッ!
ガコンッ!
数十m進んだあたりで玉座は止まった。
俺は恐る恐る、玉座から動いた場所を覗き込む。
すると…、地下への階段が姿を現した。
「なんなんだ!?」
俺は、吸い込まれるように階段に足を踏み入れる。
まだ何が起きたかわかっていないようなトリーナは黙って俺を見ていた。
俺が2、3段進んだあたりでトリーナが現状に気付いた。
「やめた方が良いですぅ。危ないですよ」
「大丈夫だよ。ちょっと進んだら戻ってくるから任せ…、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
階段を10段ほど進んで真っ暗になったあたりで足場がなくなった。
俺はギリギリで階段を手でつかみ、ぶら下がる状態で九死に一生を得た。
鍛えていたおかげで腕の筋肉で体を支えることは出来た。
「魔王様!?どうしたんですかぁぁ!?」
「大丈夫だ!すぐ戻る」
俺は手に力を入れて戻ろうとするが…
ゴゴゴゴゴッ!
玉座が再び動き出し、元の位置へと戻ろうとしていた
戻るにも間に合いそうにはないため、声が届かなくなる前に叫んだ。
「俺は大丈夫だから、後はうまくごまかしておいてくれ!」
「そんなこと、私にはできま…」
ドシンッ!
玉座の床は完全に閉じられた。中は真っ暗で目を開けているのか閉じているのかもわからない。戻ろうにも巨大な玉座は魔法で動いていた程だ。俺の力じゃ動かないだろう。
俺は、他に方法がないと悟り決死の覚悟で手を離した。
…助かる可能性は高かった。超再生能力の存在のためだ。
ただ、この先が脱出口なのか罠なのか、それによって結果は変わるだろう。
脱出経路であることを信じて飛び込んだが、地面に当たるより先にまばゆい光で魔法陣が展開された。
さっきと同じ青い魔法陣は俺を支えるように体の速度を落とした。
そこからは覚えていない。何かの拍子に気絶してしまったためだ。
まさかこれが、異世界生活を一変させる出来事だとは知る由もなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
個人的に気に入っているドジっ娘メイドのトリーナと、メガネ委員長のマキナの登場です。
次からは話が大きく動きます。ついに戦闘シーンも!?
以上、感想など貰えると助かりますので、今後ともよろしくお願いいたします。