魔王任命!?魔王と愉快な仲間たち
いつも読んでいただきありがとうございます。黒砂糖です。
今後も、このペースで投稿できるように努めていきます。
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アイギスに連れられて部屋を出た俺とベルゼはアイギスの後ろを静かについていった。
大きなエントランスは相変わらず誰もいない静かな空間になっている。
エントランスの突き当り、真ん中に周りの扉とは少し違う大きめの両扉前でアイギスの足が止まる。
フェゴールが扉を開き中へ招き入れる。
目は明るさにも慣れているため今度はすぐに中を確認できた。
高い天井が吹き抜けになっていてキレイなシャンデリアがつるされている。
突き当りには大きなガラス窓から外の様子が見える。外は暗く景色は楽しめそうにない。
中央には長いテーブルに椅子がいくつも並べられている。
貴族の会食が行われていそうな映像が頭に浮かんだ。
奥から順番に場所を指定してフェゴールがベルゼと俺を座らせる。
中でも豪華な、窓に一番近い椅子にはアイギスが座った。
フェゴールはアイギスの隣で立ったまま話が進むようだ。
「…お待たせしました。今回集まっていただいたのは、あなたの処遇についてです。」
アイギスは話し始めてすぐに俺に視線を向け、真剣な表情で話を進めた。
俺の処遇ということは…魔王代理の話か。
さらに、アイギスは話を続けた。
「ベルゼにも話は言っているかと思いますが、現魔王は行方不明です。安否も確認できてはおりません。」
「「・・・。」」
「しかし、この数日でわかったことがあります。それは魔王の失踪と異世界人…。つまりあなたがこの世界に来た理由についてです。」
「…ッ!!」
「詳しくはわたしがお話いたします。」
続けてフェゴールが資料を取り出し説明を始める。
「まず、ベルゼは魔王様の状態について知らぬでしょうからそこから…。」
「最初の始まりはおよそ2週間前、ベルゼを訪ねた日にさかのぼります。原因不明で倒れた魔王様と一緒にいる彼を見つけました。その時すでに、魔王様の脈はなく彼に事情を聞くため部屋を後にして別室に移動しました。」
「その後、一通りの話を終え1時間ほどで魔王様の部屋へ戻り、姿が消えた事を確認しました。また、部屋には転移魔法らしき跡が見つかり魔王様は転送されたと考えております。」
フェゴールは読み終えると資料をしまい、一歩引いてアイギスにもう一度、主導権を返した。
「そして、その後の調査により新たな真実がいくつかわかりました。」
「まず、あなたを呼び出したのは…どうやら父上のようです。」
「・・・ッ!?」
俺は聞きたいことが山ほど出てきたが、口を開こうとするアイギスを見て話が終わっていないことに気づき、まずは全てを押し殺した。
そして、またフェゴールが一歩前へ出て説明を始める。
「この件については確証がございます。転移魔法は使う術者の力量に比例いたします。
並の者では精々数メートル先にしか転移できません。それを異世界とつなぐとなれば莫大な魔力を使用します。」
「また、転移魔法には魔法陣と呼ばれる魔力を増幅する術式が必要になります。それが魔王様の部屋にあった魔法陣跡です。そして、あなたを異世界から転移させた魔法陣も探したところ驚くべきことがわかりました。」
話が急展開して話についていくのがやっとだ。
ゲームに詳しかったのが幸いして、魔力や魔法陣については自然と理解できた。
ベルゼはずっと険しい顔をしている。理解できていないのだろう
「…異世界と繋いだであろう魔法陣は、部屋の天井全体に張り巡らされており術式は数百年前の今は使われていないものです。詳細はわかりませんが、転移術と似た形式であり、あれだけ大掛かりな魔法陣であることから異世界干渉の可能性が高いと考えております。」
また説明を終えたフェゴールは一歩下がり資料をしまう。
確かに、あの時は暗い部屋で混乱していたこともあり天井なんて見なかったが、俺がここへ来た方法がまさか自分の上にあるとは思わなかった。
まぁ穴に落ちて来たのだから下に向いた魔法陣は予想できるか・・・
「…ここからは私の仮説ですが、あれだけの魔法陣を作るのには何年もかかったと思います。そんなことができるのは父上しかいません。」
確かに、何年もかかるのであれば部屋の主ぐらいしかできない。
いや、それなら椅子の横にあった魔法陣は誰が作ったんだ?
そんな疑問が頭をよぎった時、アイギスは核心を突いた結論を話し始めた。
「そして、あの魔法陣には何かをキッカケに作動する起動式の術式が含まれていました。起動のスイッチはかすれてわかりませんでしたが、父上に何かあった時に作動して転移させるものだと思います。そのため、あなたがここに来たことには意味があるはずです。」
「俺が来た・・・意味?」
「あなたはここに来る運命だった。自分に何かあった時、あなたを呼び寄せるために!」
期待のまなざしを向けてくるアイギス。
…ただ、俺は穴に落ちたのは偶然だった。俺は呼ばれたとは考えにくい
期待とは裏腹に黙る俺を見て、アイギスは話を続ける。
「…今は情報が少なく仮説にすぎません。都合のいいように解釈しているだけかもしれません・・・。ですが!私は父上がまだ生きていると信じています。そして、あなたが父上を殺したとも考えたくありません。」
今にも泣きそうな、そんな感情を必死にこらえて宣言するアイギス
俺も男ならこれに答えなくてはならない。
なんてイケメンなことを考えながら状況を整理する。
まず、俺を送り込んだのが魔王だとして俺に何をさせたいのだろうか?
超回復能力なる不思議な能力があるようだが詳細もわからない。
筋力も上がったとはいえただの人間。このままトレーニングを進めても限界があるだろう。
俺にできることは、ゲームの経験を活かした状況判断能力ぐらいだろうか。
ただ、魔王が俺を呼びだしたのであれば帰る方法も魔王に聞くのが早いだろう。
「…今の仮説が正しいとして魔王は今どこにいるんでしょうか?」
「それについては目星がついています。…人間の王ペンドラゴンです。」
「…ッ!!人間の王が魔王を!?何のために!」
「それについてはわかりません。ですが、ここは冥界。父上は魔王と呼ばれていますが、元は冥界の番人、冥王です。死者の魂を導き安定をもたらす神です。その力を悪用すれば、破滅を招くことも…」
何が起こってもおかしくないということか。
王様と言えば権力を行使し、力でねじ伏せる暴君がいてもおかしくはない。
これは、この世界について歴史を調べる必要がありそうだ。
「…説明が長くなりましたが、魔王代理としてあなたは、本日より冥王…もとい魔王ハデスとして生活していただきたいのです。」
「わかりました…。」
「…驚かないのですね。もう少し躊躇されるかと思っていました」
「私の目的は元の世界に帰ることです。そのためには魔王に事情を聞かないといけないので。…それに、こんな俺が役に立てるのなら魔王ぐらいなってやりますよ!」
「フフフッ。面白い人ですね。では魔王としてこれからお願いいたします。」
彼女の微笑みを見て、俺は決意を新たにした。
魔王って何してるんだろう?魔王の日常なんてゲームじゃ見なかったからな…。
「ベルゼ、あなたもそれで良いですか?」
アイギスがベルゼにも承諾を得るために話しかける。
「グワッ!はっ!何の話でしたかな?」
名前が呼ばれて慌てたように返事をする。どうやら寝ていたようだ。
「彼が新魔王として着任したのですよ。フフフッ」
「なんですと!?ガハハッ!お前の才能には期待しとったが、まさか魔王になるとはなぁ!」
寝起きで分かっていないのか、脳筋でバカなのか。この状況を理解していないだろう。
どこの誰かわからない俺が魔王になると聞いて普通は反対するはずだ。
「その話、僕は反対だ。」
話に割って入ったのはいつの間にか入り口に立っていたメガネをかけたとがった耳が特徴の男。特徴でみればエルフだろうか
「シフェル。調査から戻っていたのですね」
シフェルと呼ばれたエルフの男はメガネを中指でクイッと上げるとゆっくり歩いて近づいてきた。
「はい。その件は後ほど…。それよりも先ほどの話は本気ですか?」
シフェルの問いかけに、わかっていないのかアイギスは首を傾げている。
それに、「…はぁ」とため息をついてシフェルが話を続ける。
「…魔王の件ですよ。こんな奴が魔王では士気が下がる」
シフェルは目の敵とばかりに俺を睨む。よほど、気に食わないらしい。
だが、これが正常な反応だろう。
「ガハハハッ!そんな怖い顔をするな!こいつは良いやつだし見込みはあるぞ!」
睨みつけるシフェルに対して、いつもの陽気な笑顔で俺を庇うベルゼ。
それに呆れたシフェルは睨むのをやめてアイギスの方へ視線を戻す。
アイギスも楽しそうに微笑んでシフェルを説得する。
「あなたの気持ちはわかります。私も彼には荷が重いとは思いますが、彼ならやってくれると信じています。」
アイギスが熱い視線を送る。期待されているのはわかるが、俺をここまで信頼するのは父親の魔王が呼び寄せた男だからか?自分の事だが、シフェルの言い分が正しいと思ったことは口にせずに流れに身を任せた。
「…はぁ。こうなっては引かないのは知っています。…僕はまだ認めていないからな」
また睨みつけるシフェルの視線は鋭いが殺意は全く感じなかった。
意外とあの見た目でツンデレなキャラなのか?
その光景を相変わらずの高笑いで楽しむベルゼ。
それを見て呆れ顔のシフェルはアイギスと窓際に向かい、何か小声で話しているようだが良く聞こえない。調査から戻ってきたと言っていたからその報告だろう。
「…魔王…様?」
突然どこからか女の子の声が聞こえて声の主を探す。
すると、座っている椅子の横からヒョコっと顔を出している子供を見つけた。
黒いローブのフードを深くかぶっていて、顔はあまり見えないがキラキラと光る眼が物欲しそうに俺の顔を覗き込む。
俺は飼っていた猫を思い出して、気付くと頭を撫でていた。本当に猫を撫でているようだ。
くすぐったそうに身体をうねらせながらも、嬉しそうな顔がフードの中に見えた気がした。
そんなほほえましい光景に俺も自然と顔が緩んでしまっていた。
「…モナはもう魔王様を気に入ったようね。」
また不意に見知らぬ女の声が聞こえて緩んだ顔を焦って元に戻す。
猫のような女の子とは逆側へ振り返るとはだけた服装で目のやり場に困るような妖艶な女性が立っていた。
「…?モナって、この子の名前か?」
「えぇそうよ!…嬉しそうな顔しちゃって。誰かさんは、相手してくれないから…。」
そう言って嬉しそうなモナから視線はシフェルの方へと向く。
あぁ…真面目そうなあいつならこんなことしないだろうな。
「そ・れ・よ・り、あなた意外といい男ね。前の魔王様もよかったけど…」
そう言って俺のほっぺたに手を置いて顔を向け直す。顔が近い!
目の前には潤った唇。吸い込まれそうな紫の瞳。
俺は直視された瞳から目を離せず、そのまま顔が赤くなる。
「フフッ。かっわいい。…気に入ったわ。」
そう言って顔を離すと俺は緊張の糸が切れたように体の力が抜けた。
それを見て、また楽しそうに笑う女性。
俺は遊ばれているのだろう。…この人たちは何者だ?
「何を遊んでいる!お前たちもアイギス様に報告をしないか」
シフェルは話が終わったのか、こちらに気付き渇を入れる。
怒られたのはこの2人のようで、モナは怖そうにビクッとしている。
妖艶美女の方は、フンッと鼻を鳴らし俺から離れた。
そして、アイギスは元の席に戻り他の者も各々の席に着いた。
まるで会議でも始まるような雰囲気でさっきまでとは違い、全員が真剣な目に変わる。
緊張の空気が漂う。…沈黙を破ったのはアイギスだった。
「まず、今回は長い旅の調査ご苦労でした。…では、改めて調査結果と魔王代理についてお話いたします。」
本当に会議が始まったようだ。聞きたいことは山ほどあるが、報告事項を全てインプットしてから質問した方が良いだろう。俺は聞くモードに頭を切り替えた。
「魔王代理については仮決定とします。皆、思うところはあるでしょうが彼が新魔王となります。」
全員が俺を見る。一人睨みつけているが…。シフェルだ。
俺も新魔王の着任挨拶が必要かと立ち上がろうとしたがアイギスの話が続いた。
「ですが、魔王としての仕事は特にありません。普通に生活していただいて構いませんので安心してください。」
俺の気持ちを察してか気を利かせてくれたようだ。
特に仕事はないのか…。もっと軍事的な話とかあるかと思ったが…。
それに、普通に生活をしろと言われても普通がわからない
「あとは、皆さんの紹介も必要ですね。ベルゼの事は知っていますね?彼は防衛隊長として兵士たちの訓練をしてもらっています。」
「兵士?」
「ガハハハッ!気付かなかったか?お前が戦ってきた練習相手たちだ!俺が鍛えぬいたからな!戦いになれば頼りになるぞ!」
なるほど。だから、統率も取れていて日々訓練を積んでいるわけだ。
いや、ただの筋肉バカにしか見えなかったな。
「続いて、彼がシフェル。彼はエルフの一族で、高度な知能と判断力を併せ持っています。そのため偵察および作戦参謀を務めてもらっています。ちなみに弓の名手でもあるんですよ?」
「へぇー。」
俺が尊敬のまなざしをシフェルに向けてみたが、フンッと顔を背けられてしまった。
アイギスはその光景を微笑ましそうに見ている。
恥ずかしがっているのか?やっぱりツンデレだ。
「あとは…、あなたの隣の小さな女の子がモナです。先ほど少し話していましたね。彼女は猫族で天才の魔導士です。少々内気な所がありますが、彼女の魔法は冥界1なんですよ!」
「…よろしく…お願い…します。」
「よろしく」
俺は、またモナの頭を撫でて小さく呟いた。
本当に猫だったとは…。じゃあフードの下は猫耳なのかな?
「…最後に、向かいの席に座っている彼女が偵察および情報収集担当のマキナです。彼女は人間の街に溶け込むのが得意なので潜入や情報収集をお願いしています。こう見えても近接戦を得意として戦闘技術に優れています。」
「よろしくね」
マキナは俺に投げキッスを送ってきた。
また顔を背けてしまい、おもちゃにされているのは自覚していた。
多分、潜入や情報収集が得意なのもこういうことだろう…。
「あとは、直接話していただくのがいいと思いますのでお願いします。…続いて、調査報告に移ります。」
…その後は、調査報告や今後の方針などについて話し合われた。
調査内容は人間の王に関するものらしい。
そういえば、人間の王ペンドラゴンが黒幕でありそうな話をしていたな。
現在、人間の国では王都-ミレファス-を中心に4つの国がある。
中でも、ペンドラゴンが納めるミレファスは王の独裁国家で猛威を振るっていたそうだ。
欲しい者は奪い取る。王の圧政で民は苦しんでいる。
昨今は、資源が豊かな砂漠の東国-サラバーダ-と資源を狙って侵略を行っていた。
だが、サラバーダの民も防衛を行い戦争は拮抗していて長きにわたる戦いが行われていた。
しかし、2週間ほど前に突如均衡が破られサラバーダはペンドラゴンの支配下となった。
次は、北国-スプーバー-との戦争を前に準備を行っているようだ。
そして、追加調査のためにシフェルとマキナは調査に出掛けた。
俺は、アイギスにこれからの事を聞くと「好きにしていていいですよ」と笑顔で答えられた。
とりあえず、魔王の部屋がこれからの生活空間になるということなので戻ることにした。
この城みたいな建物、広いから探検してみようか。
その後、探検のし過ぎで迷子になり魔王の部屋に戻るまで何時間もかかってしまうことになるとは…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
仲間を一気に出してしまいましたが、詳しくは順番に書く予定です。
以上、感想など貰えると助かりますので、今後ともよろしくお願いいたします。