ゴスロリは笑わない
壱-5
オリエンテーションは、佐々木とかいうおじさん先生ではなく、若い先生が進行役を勤めていた。
「みなさん、進学おめでとうございます。今日のオリエンテーションですが、白板に書いてあるように、自己紹介を中心に行なっていきます。最後には、各クラスに分かれてもらいます。クラス分けのプリントは行き渡ってますかー?」
私はさっき佐々木先生が配っていたプリントに目を移す。
この大学は、一年のうちにゼミのようなクラスを名前順で分けてるらしかった。
それから、二年生以降は自分の好きな専門のゼミに移動するっていうカリキュラムだった、はず。
請求した資料しか目に通してないからちょっとあってるか自信ないけど。
えーと、私のクラスはどこかしらん。
あ、あったあった。
朝倉宗辰って先生のクラスに振り分けられてる。
男の先生か。
名前的に、おじいちゃんぽいな。
「みんな行き渡ってますね。それじゃあ、プログラムに沿って、まずは教員の自己紹介から始めます。ーー佐々木先生、どうぞ」
と、マイクを差し向けられた佐々木先生、「僕から?」とか嫌そうにそれを受け取る。
「えー、ご進学、おめでとうございます。今年度から、日文学科長を無理やり押し付けられた佐々木です。中世文学と教育科目を専門で教えてます。……以上!」
やりきったような顔して、マイクを若い先生に返す。
佐々木先生は基本的にやる気がないらしい。
「中世文学ってなんですか」
と、若い先生が佐々木先生に質問を投げかける。
「平家物語とか徒然草とかそこら辺の時代の文学です」
「休日は一人でなにをされてますか」
「寝てます。ーーなんで今、一人でって限定して質問したん?」
「一人ですもんね。ーーはい、みなさん、あとは察してあげてください」
講義室が笑い声で溢れる。
さっきまでの居心地を悪くしていたぴんと張り詰めた空気は、いつの間にやら完全に緩んでいた。
そのせいで、壁沿いに姿勢良く立っているアレは、ますます違和感を濃く放つ。
浮かないように私も笑ってはみてるけど、顔は引きつってただろうな。
ふいに横を向いて、少し離れたところに座ってるゴスロリちゃんの方を見てみた。
ゴスロリちゃんは、にこりとも笑っていなかった。