兵隊たちの整列
壱-3
数分後、私は大学の校門の前に到着した。
そして、くるりと踵を返して歩道に戻った。
我ながら、とても華麗に。
ーー私は、この街で、やり直す。
普通に友だちとか作ったりして、普通にサークルにも入って、普通に合コンとかしちゃったりして、楽しいキャンパスライフを送るんだ。
ーーそんな期待を抱いていた頃が、私にもありました。
しばらく、大学の正門の前で立ち尽くしていた。
いかにも、友だちと待ち合わせてます的な雰囲気醸し出しながら。
多分、三分くらいそうしてた。
ああ、あれ、ホームページでみた銀杏並木だわー。
とか、目の前のモノ見ないふりしてその奥の景色を眺めた。
「どうかされましたか」
と、大学の警備員のおじさんに声をかけられた。
私が醸し出す雰囲気は、効果を発揮しなかったらしい。
「ああ、いえ、あの……」
「道がわかりませんか?」
「え? あ、はい、まあ」
「何学科ですか?」
「日文、です」
「日文は、1号館ですね。あの銀杏並木を通ってもらって、左手に曲がったところですよ」
「あ、ありがとうございます」
いやね、ありがたいんだけど。
銀杏並木の手前のヤツらがね……。
私の目の前には、銀杏の葉と同じような緑色の軍服を着込んだ男達が、道の両端に規則正しくきっちりと並んでいた。
歓迎しているつもりなのかよくわからないけど、とにかく、軍服に軍帽姿の男達が、女の子たちのことを黙って、微動だにせず、見守っているのだ。
多分、今度こそ、アレが見えてるのは私だけなんだろう。
周りの子たちは、ゴスロリの時とは違って気にしている様子など見せなかった。
警備員のおじさんの視線が痛い。
行くしか、ないのか。
私は、息を深く吸って、一歩踏み出した。
一歩いっぽ踏み出す足が、重い。
なるべく、両端の道に並んでるヤツらと目を合わせないように下を向いて、一号館を目指す。
でも……あーもう、気になる。
私、そぉっと顔を上げて前方の兵隊さんの横顔を見てみた。
でも、軍帽を深々と被っててよく見えない。
今度は通り過ぎざまに、正面から顔を見てみる。
ーー目が、合ってしまった。
私は慌ててまた下を向いて、足早に逃げた。