おはよう、テディ
壱-1
新しい家で迎える朝は、私の新生活を後押しするかのような晴天だった。
青い空。
白い雲。
囀る小鳥。
私、鈴裏あんずは、今日からぴかぴかの大学一年生であります。
ーーああ、なんて、なんて素敵な響きだろう。
大学一年生。
新生活。
私は、開け放ったカーテンからまだ見慣れない景色を眺める。
この街には、誰も私のことを知ってる人なんていない。
誰も私を変わり者だと言うような奴らはいないのだ。
私はここでやり直す。
普通に友だちとか作ったりして、普通にサークルにも入って、普通に合コンとかしちゃったりして、楽しいキャンパスライフを送るんだ。
そのために、髪も流行りの色に染めたし、雑誌を読み漁って新しい洋服も買った。
コンタクトは……まだちょっと体内に異物混入は怖いから買ってないけど、いずれは眼鏡も卒業するんだから。
「おはよう、テディ。私、今日から大学生なの」
ベッドの上の大きなテディベアのぬいぐるみに飛びつく。
幼い頃からの私の唯一の友だちは、お日様の匂いがした。
ーーよし、支度しよう。
今日こそ、人間の友だちを作るのだ。
私は新しい服に袖を通して、姿鏡の前でくるりと回ってみた。
ふわっとしたホワイトブラウスに、ふわっとしたピンクの膝丈スカート。
それにベージュのジャケットで、もう完璧大学一年生。
この組み合わせの服、五着くらいは買った。
朝食を作って、アプリコットティを淹れて、一息つく。
それが、毎朝の習慣だった。
場所が変わっても習慣は変わらない。
視界に入るのは、段ボール箱の山だ。
引っ越しの片付けがまだ終わってないのだ。
そして、壁の汚れとかもいろいろ目に入ってくる。
お世辞にも綺麗な部屋とは言えないな。
でも、いいんだ。
アレがいないだけマシ。
大家さんから聞いたんだけど、迷惑なことに近所ではこのアパートにはアレがいるって専らの噂になってるらしい。
そのせいか知らないけど、家賃も格安だった。
値段に惹かれて内見したら、普通に住めるし、日当たりもいいし、アレもいなかったから即座に決めちゃった。
今のところ、生活は快適。
このアパート、二階建てで五部屋あるんだけど、私とあと一人しか入ってない。
因みに、私が201号室で、もう一人は会ったことないけど103号室に住んでるみたい。
ご近所トラブルもない。
このまま隣には誰も入ってこなきゃいいのにな。
この壁薄そうだから、もし隣に誰かきたら騒音トラブルになりそう。
……そんなこと考えてたら、結構な時間が経ってた。
急いで前の晩に練習したメイクして、もう一回鏡の前でチェックして、テディに行ってきますって言って、意気揚々と家を出た。