風鈴は涼しげに鳴いていた
零-4
「軽率なことを申し上げました! 申し訳ありません!」
俺の頭は、完全にパニックを起こしていた。
訓練では常に、予想外のことが起こることに備えている。
しかし、女に泣かれるようなことには備えたことがなかった。
「いえ……ごめんなさい、柳原さんのせいじゃ、ないんです。なんでか……泣けてきちゃって……自分でも、わからなくて……」
鈴裏さんは、籠のバッグからティッシュを取り出して止めどなく溢れる涙を拭う。
だが、涙は止まりそうになかった。
「……すみません、こういう時にどのような言葉をかけたらいいのか、自分にはわかりません」
本当に、わからなかった。
これでも、長続きはしないが、自分なりに女のことは理解してきたつもりだ。
だが、彼女は自分が付き合ってきた女のどれにも当てはまらないように思える。
そもそも、出会って数分の人間の前で泣くような人と出会ったことなどなかった。
「少し……待ってください。……私が泣き終わったら……たくさん、お話してください。柳原さんのこと、知りたいです」
彼女は、そう言って、涙を流しながら笑っていた。
その顔は、とても美しかった。
「はい」
俺は目線を下げ、じっと彼女が泣き終えるのを待った。
同期に今日のことを話したら、きっと単純な奴だと嗤われるかもしれない。
だが、思ってしまったのだ。
俺が、彼女を守らなければならないと。
ーーちりん。