第2話 エルフのお姉さんに迫られてしまった
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宴が始まった。
猛者たちが一気飲みしたりして騒いでいる。
飲み始めるともう俺の周りには誰もいなくなった。
まあ腹も空いてるし適当に食事をとることにしよう。
ん?案外いけるな。まずくない。むしろおいしいかもしれん。
酒もわりといける。宴会場の片隅で食事と酒を細々と飲んでいると誰かが近づいてきた。
「あなたが新入りで伝説の勇者様?」
「え、はあ。そういうことみたいです」
女性の冒険者だった。スカートの丈が異常に短いな。
背も高いし、全体的にスラっとしてる。
というか耳が長い!エルフですね、彼女。
*エルフ娘キター!
*露出度高!
*わりと美形
*股下長すぎじゃないか
*耳かじりたい
ネコ生のリスナーたちも大歓喜。
にしても本気でエルフってかわいいんだな。
「あの、俺、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
「エルフってみんな君みたいにかわいいわけ?」
「どうかしら。個体差は人間もエルフも千差万別じゃないかしら?」
そりゃそうだわな。
でもブッサなエルフとか想像できないわ。
だって初めてあったエルフがこうも完璧なプロポーションとルックスなんだもん。
「ところであなた。ぶしつけに聞くのは酷かもしれないけど剣技や魔法の類はどうなのかしら?」
「実は俺のいた世界は剣も魔法も必要ない平和なとこでして、からっきしなのが現実なわけですよ」
このエルフ、腰には立派な鞘を付けてるし、剣も一流なのかな。
エルフだから当然魔法も使えるだろうし。
俺がすべてにおいてずぶの素人だって見抜いたのかね。
「しかし、あなたの右手の甲の勇者の紋様は本物ね。鍛え上げれば立派な勇者になるでしょう」
「鍛えるって、俺33歳のニートで引きこもりだったわけだし・・・今更だと思うんだけどね」
「今更ではないと思うわ。まず私とパーティーを組んで簡単なクエストからこなしていかないかしら?」
「面倒くさいな・・・」
なんかこのエルフさんに過剰な期待を持たせてしまったんじゃなかろうか。
ネトゲしかしてきてない俺なわけで、肉体労働もとい戦闘なんてできるわけないじゃあないか。
「私はこれで帰るけど、朝、冒険者ギルドで待ってるわ」
エルフのお姉さんはそう言い残して宴を後にした。
あーでも、あんな綺麗なエルフさんとコンビとか結構いいかも。
若き勇者とエルフ嬢が冒険とか結構エロいんじゃあないだろうか。
そのあと冒険者たちにつかまり俺はたらふく酒を飲まされ、記憶が飛んだ。
気づいたら安宿のベッドにいた。
支払いはギルドが済ませてくれていたっぽい。
やっぱここで暮らすためにはお金だよね。
元の世界へ帰る当てもないんじゃ仕方ない。
その辺は切り替えを早くしないとね。
しかし一人でクエストをこなすのも大変だし、まずはあの親切なエルフさんにたよるしかないか。
俺は二日酔いで重い頭を抱えながら冒険者ギルドへ向かった。
「おはよーございます」
「覇気のない挨拶ね。それに遅い。何してたのよ」
エルフのお姉さんがソファーに座って待っていた。
うーん。やっぱ美形だな。年齢何歳なんだろ。
エルフってすごい長生きすると聞いてるけど、実際どうなんだ?
エルフのお姉さんが近づいてくる。
「自己紹介がまだだったわね。私はルチア。見てのとおりハイエルフ。ハーフエルフなんかと一緒にしないでよね。クラスは魔法剣士といったところかしら。よろしくね」
「俺はアキナリ・サイトウ。一応この世界では勇者らしい」
「とりあえず、この冒険者ギルドの使い方の説明からしてゆくわ。えっと、この掲示板に依頼書が張り付けているから、自分の力に合わせて依頼書をとってクエストを進行させるわけね」
「なる」
まあ異世界召喚ものでは典型的なパターンだわな。
それくらいなら俺にもわかるし。
「そしてクエスト終了後にはギルドの裏にある換金所で報酬をもらうわけ」
「なんかパチ屋みたいだな」
「パチヤってなにかしら?」
「なんでもない。こっちの世界の話」
俺らはギルドの裏へ向かっていった。
そしたらなんか怪しげな店があった、入ってみよう。
カウンターに口ひげを蓄えたおっさんがいた。
店の中はよくわからんが、雑貨屋という感じかな。
「いらっしゃいませ。おっとルチアさんじゃあありませんか」
「店主、今日は昨日ギルドに来たばかりの新人勇者様の登録を済ませておこうと思ってね」
「ほうほう、噂は私にも届いておりますですよ。ようこそかけだし勇者さん!」
「はぁ。どうも。かけだし勇者です・・・」
「とりあえず勇者さん。こちらの用紙にサインをくだされ」
ん?冒険者ギルドで渡された用紙に似てるな。
薄茶色の用紙なんだけど、スカシで魔法陣みたいな紋様が浮かび上がっているし。
店主に指示された箇所にモロ日本語でサインしてみた。用紙が一瞬銀色に光った。
「ほうほう、これでネコネコ生放送で貯めたネコネコポイントをガイナに交換できるじゃよ」
「ガイナってなんすか?」
「ガイナとは我が国の通貨のことじゃな。世界で最も流通している通貨なんじゃぞ」
「いや。そもそもなんでネコ生のことを知っているんすか?」
「わしもよくわからんのじゃが、ほれ。これは昨日のお主の稼ぎ分じゃ」
店主からポンっと10枚くらいの銅貨を手渡された。
え。もしかしてモンスターとか倒さないでも、ネコ生やるだけでここで生活できるんじゃないか?
だってここは異世界!リスナーにとってはすべてが新鮮!放送してるだけでネコPくれるはずだよ!やったー!万歳!
「というわけでルチアさん。俺は危険なクエストなど受けずにトポロジアの風俗ルポライターとなります」
「それでも勇者ですか、軟弱者!」
ビシッ!
いてええええ!平手打ちされたよ!
「というか絶対お前、裏があるだろ!俺は今まで生きてきた中で女性に誘われたり、優しくされたちなんざあ一度たりともねーんだよ!こんなこんなネトゲ中毒の引きニートのどこに惚れるというんだい?顔か?」
「べ、別にあんたの顔が好みとかじゃないんだからね!」
「顔なんか?俺の顔がいいんか?」
「バカ!何度も言わせないでよ・・・」
「図星なのか?俺はイケメンなのか?」
「顔が好みとかそういうのじゃないんだけれどね。だってほら、駆け出しでも一応あなた勇者様だし」
「じゃあなんでこんな俺に色々親切にしようとしてくれてんのよ」
「あたし、ハイエルフだから、人間の一生くらいの時間は見守ることができるのよ?」
「いや。でもあんたほとんど俺と初対面でしょ。正直に言ってくれ。何が目的なの?」
「言っても怒らない?」
「うん。ガチで答えて」
「飼育、かな」
飼育だと?このアマ、俺をペットくらいとしか認識してなかったのかよ!
エルフにとって人間はペットと同等なんかよ!?
「飼育だと?バカにするにもほどがあるだろ!」
「一応勇者様だし、飼育し甲斐はあると思うのよ。あなたは絶対に強くなる素質を持っているわ。だから一緒にクエストをやりながら飼育、違ったテヘペロ、鍛錬していきたいなあってね。大丈夫よ、あたし、こう見えて結構強いから!あなたを死なさないわ、絶対に!」
「とりあえず、俺は我が道を行く!ネコ生でお金も稼げることがわかったし、危険なクエストなんざごめんだ、じゃあな!」
俺はそう言って換金所をあとにした。