第1話 リアル引きニートがいきなり職業勇者になってしもうた
◆プロローグ◆
俺の名はサイトウ・アキナリ。33歳童貞ニート。
中学と高校はフリースクール。
大学は一応六大学は卒業してるが、ぶっちゃけ10年間くらいネトゲ三昧の引きこもり生活をしている。
まあ、大学のノートや模範解答はネットで拾えるし、出席必須の講義だけはでたけどね。
別に対人関係が苦手というわけでもないし、社会に出るのが怖いとかじゃない。
ごく普通に今の引きこもり生活を選んで生活をしている。
将来とか不安になることもいまのところまったくない。
とにかく今はネトゲをしたい、そんな感じ。
んでもっていつものようにネトゲをプレイしてると、突然俺の景色が暗転した。
「やべえな。停電か?ブレーカー落ちたかな」
真っ暗で何も見えやしない。インしてたキャラも逝ったな、こりゃ。
しばらくするとパっと景色が明るくなった。
ここはどこだ?
◆
俺は今非常に混乱している。
家でネトゲをしていたと思ったら草原のど真ん中に立っていた。
何を言ってるのかわからないと思うが催眠術でも幻覚でもない。
これはまぎれもないリアルだ。
ふと足元を見てみると、見慣れないノートPCとヘッドセットが何故かあった。
とりあえず拾ってみる。
あたりを見回してみる。草原と山ばかりだ。
舗装されている道がある。とりあえず道を歩いて行こうと思う。
小一時間、人っ子一人いない道を歩いて行った。
農家っぽい建物やらが見え始めた。農夫が一人いた。
声をかけてみることにしよう。
「すみません。ここはどこですか?」
「ここはトポロジアの郊外だっぺ」
とりあえず日本語は通じるみたいだ。
農夫のおじさんの話だともうじきトポロジアという町があるという。
しゃーない。今は情報があまりにも少なすぎる。
トポロジアという町にでも行ってみないことには、この状況は理解できないか。
ふと、道端の石に腰を下ろしてみる。
さっき拾ったノートPCの電源を入れてみる。
あれ。ネコネコ生放送のアイコンがあるな。他は何にも入ってない。
クリックして画面を見てみると、俺が映っていた。
なんか俺若いし。二十代くらいに若返ってるんだが・・・
どこにカメラあんの?あ、このノートPCに内蔵されてるのか。
タイトルをみると「異世界で生主デビュー」と書いてある。
少しだけコメントが流れていた。
*その顔無理
*欧米か
*異世界というかただの田舎の風景か
*俺の田舎の実家こんなもんだぞwww
*特定したwww
え?ここ異世界なのか?よくわからんけど、とりあえずヘッドセットを装着してみることにした。
「えっとみなさん。ここってどこなんですか?俺、家でネトゲしてたらいきなり・・・」
*お前はエリートだ!選ばれたんだ!
*異世界といえばエルフ娘だJK
よくわからないわ・・・
とりあえず、リスナーなのか?
よくわからんコメントばかりなんで、PCを閉じて、先へ向かうことにするか。
さらに小一時間歩くと大きな町があった。
看板とかはわけわからない文字なもんで読めない。
やっぱここ異世界なんかね?
あ、なんか衛兵がこちらを睨みながらやってくる。
「ちょっと君見慣れない服装だね。どこから来たんだい?」
「日本の東京から来ました」
「聞いたことのないところだな。冒険者かい?」
「そんな感じです」
「そうか。ようこそトポロジアに!この町はガイナスでも有数の規模の町だ。ゆっくりしていってくれたまえ」
あれ。すんなりと通してくれたな。
「すみません。自分この町に不慣れなのですが、まずどこへ行ったらよろしいでしょうか」
「冒険者志願であれば、冒険者ギルドに向かうとよいだろう」
衛兵から色々と情報をもらった。
とりあえずこの町で生活してゆくには冒険者ギルドに登録をして、様々なクエストをこなすのがよいということだ。
冒険者ギルドか。あぶないクエストとかあるんだろうな。
モンスター退治とかね。それは嫌だな・・・でも人が集まる場所に行ってみないと話は始まらないか。
「今から冒険者ギルドへ向かいます」
ネコ生を立ち上げて配信してみた。
*ほう、らしい町並みだな
*欧米か
*特定したwww
*ロリ魔女希望
*街角でぶつかって出会うとかいう台本はいらないぞ
コメントはさっきよりも増えている。なんかいい感じだ。
へえ、なんか中世の北欧あたりの下町って感じの街並みなのかな。
実際見たことなんてないけどね。
それにしても町には活気があふれている。
すれ違う人々や街並みに思わず目移りしちゃうよ。
お腹も減ってきた。
食い物の屋台とかもでてるけど、お金ないんだよね。
幸い、日本語は通用できてるので、冒険者ギルドへは迷うことなくたどり着けた。
結構でかい建物だな。しゃーない、入るか。
「あのーすみませんー」
中に入ってみるといかにも冒険者風の人たちで溢れかえっている。しかもみんな強そうだ。
「こちらですよー新規さん」
受付カウンターみたいなところのお姉さんが声をかけてくれた。
やたらと胸がでかいな。はちきれそうだ。
まあ、俺は胸は小ぶりが好きなので別にどうでもいいんですけどね。
「ギルドに登録したいのですがどうすればよいのですか?」
「まずこの用紙にお名前と冒険者クラスなどを記入してください」
薄茶色の用紙を手渡された。うーん。読めない・・・
「すみません。この国の者ではないので文字が読めないのですが」
「では私が代わりに記入しましょう。まずお名前をお願いしますね」
「アキナリ・サイトウです」
「・・・?アキナリ?今アキナリと今言いましたか?」
「はぁ。そうですが」
「アキナリという言葉は我が国に伝わる伝説の勇者の称号なのですよ!」
なんだか変な空気になってきたぞ。
カウンターの俺をギルド内部にいる冒険者たちが見つめてくるし、ザワザワしてきたぞ・・・
「いあ、偶然だと思いますよ。俺、今日この町というかこの世界に来たばっかだし」
「いいえ。あなた様は伝説の勇者アキナリ様ですよ。この登録用紙には魔力が付与されていて、名前を書くことでその人の潜在能力を引き出すことができるのです。そしてあなたの名前を書いた瞬間、あなたの右手の甲に紋様が浮かび上がりました」
うお、なんか俺の右手の甲に水色のかっこいい紋様みたいなのが輝いてるぞ。なんじゃこりゃ?
「みなさん!今このガイナスの大地に待ちに待った伝説の勇者が降臨しました!これより勇者様の降臨を祝して宴を催します!みなさん、今日はギルドはお休みです。飲んで騒いで祝福して朝まで飲み明かしましょう!」
「うおおおおい!勇者万歳!」
「勇者!勇者!勇者!」
「神よ!勇者様の降臨に祝福を!」
おいおい、なんかとんでもなくご都合主義的な展開になってるような気がするな。これでドラゴン討伐とか魔王討伐とか行けとかいう流れになったら俺確実に死ぬよな・・・
*よくわからんがおめでとー
*一生帰ってくるな
*そして魔王を倒しにいくんですね、わかります
ネコ生のリスナーもなんか盛り上がってるし、これでいいか。
まあ、今日は流れに身を任せて宴とやらで酒と食い物は確保できるしな。たぶん寝床もどうにかなりそうだ。
なんか冒険者たちにもみくちゃにされてるんだけど、で、結局俺のクラスってなんなんだ?
「あの、お姉さん、結局俺のクラスって何になるんですか?」
「もちろん勇者です!」
胸のでかい受付嬢のお姉さんはそう言い放った。
困ったな。俺魔法はおろか剣だって使えないぞ・・・剣道は中学時代の体育の授業でやってただけだしな。
困った。非常に困った。