Gear#08:The Skater's Punk
Ⅰ 最速の男
「ナ、何故? オリジナルの”Ruby”が一緒に!?」
対ハイエルフの悪魔、ダークエルフの”Ruby”にメタモルフォーゼしたベレロフォン。その増殖細胞が持つ変身能力を目の当たりにし、紅魔導士はオリジナルの存在に戦いた。
そんな奴に構わず
――死ね!――
_人人人人人人_
> BZZZZT!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
いきなりの雷撃を放つベレロフォン。
それを人ならぬ速さで奴が左方向に躱す。
二発、三発と繰り返し雷が的を追う。
すかさず、レオニスがスチーム・ジェットを爆裂させる。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_:i\゜○
爆進するホバーリング。
瞬時に詰まる間合い。
心臓を狙いすますブレードが一直線に振り上がる。
が、奴は斬撃を寸前で躱すとレオニスを飛び越えるよう宙返った。
「ちょこまかと、すばしっこい野郎だぜ!」
振り返り様。再びレオニスがスチーム・ジェットを爆裂させる。と、今度は上方に蓋をするよう雷撃を撃ち放つヴェレロフォン。
だが、奴は右に瞬間移動して容易くレオニスのブレード《やいば》を往なすと、躍り出るベレロフォンの正面から炎撃を撃ち放った。
_人人人人人人_
> BWOOM! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
咄嗟に、それを炎壁で防ぐベレロフォン。
返す刀。彼女は炎壁を炎撃に変換すると撃ち返した。
_人人人人人人人人人人人人人_
> BWOM!BWOM!BWOM! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
逃げ道を塞ぐよう四分五裂に飛び散る炎の塊。
しかし、またも最小限の動きで炎を躱すと、紅魔導士は斜め後方へと宙返り距離を取った。そして、二人の連撃を悉く凌いだ優越感に、嘲弄の言葉を並べるのだった。
「スバラシイ。強化されたワタシの速さには、オリジナルの”Ruby”も付いてこれんらしい」
奴は勝ち誇る様に不遜な笑い声を上げた。
それを眼前に、冷静な分析的思考を巡らせるベレロフォン。
「なるほどな。火の精霊を使って高速移動をしてるのか……」
「火の精霊だとォ?」
戦闘態勢のまま呆れ声を上げるレオニス。ベレロフォンが続ける。
「ああ。奴のカラダの周りを見ろ」
レオニスは目を凝らした。
「……陽炎?」
「そう。奴は発する超高熱で空気を急激に膨張させ、その圧力を高速移動に利用している」
「なるほど……。て、感心してる場合かよ!」
二人の遣り取りを高みの見物と奴が囃し立てる。
「どうした? もう仲間割れか?」
「やかましい!」
苛立ちを見せるレオニス。更に上から目線の言葉が彼を煽る。
「オマエらの攻撃など、遅くて話にならんぞ。蠅が止まるようだな」
――遅い、だとォ――
奴の言葉に再びレオニスの何かが切れる。ブレードを斜に構え、重心を落として攻撃態勢をとるレオニス。
「そうまでコケにされちゃ、黙ってられねぇぜ!」
「ほお、ではどうする?」
「俺とキサマ。どっちが速いかガチンコ勝負だ!」
「性懲りもない……」
「ほざけ!!」
怒声と共に再び爆裂するスチーム・ジェット。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_:i\゜○
「馬鹿の一つ覚えが。オマエの直線攻撃など……」
嘲笑う紅魔導士。
奴は高速移動を発動すると左水平方向に身を躱し、突進して間合いを詰めるレオニスを遣り過ごす。筈だった。
が、それを見越したように左上腕のギアを回すレオニス。
掛かるギア・チェンジ。
瞬間。左右、後方に張り出して広がり組変わる機械義足。
大きく可動域を得て一斉に向きを変えるジェット・ノズル。
同時に開く大腿部側面の遮蔽板。
新たに姿を現す3連のバーニア・スラスタ。
更に、それらは戦闘機のコンダイノズルのように収縮すると、爆裂する蒸気流圧力を更に高い推進力へと変換した。
_人人人人人_
> DOMM!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
慣性の法則を無視するよう、レオニスが急激に方向転換を図る。
敵を追って水平方向へと弾け飛ぶカラダ。
失神するほどの強烈な横G。それを彼の強靭な肉体と精神が抑え込む。
結果。逃げる奴の眼前に、置き去った筈のレオニスがピタリと姿を現す。
――なっ!?――
予想外の事に、驚く奴が瞳を大きく見開いたその瞬間。
「ぅおるあああああっ!!」
雄叫びにブレードを振り上げたレオニス。
紅魔導士の左腕が付け根から切り裂かれる。
――ぐぁっ!――
呻き声と共に後方へと宙がえり、再び紅魔導士は間合いを大きく空けた。
「小僧っ!」
左肩の傷口を抑え、向ける怒りの形相。
それとは対照的に――してやったり――と、ドヤ顔を浮かべるレオニス。
「やっとエンジンが温まってきたぜ! 本番はこれからだぜ、オッサンよォ!」
間髪入れずに爆裂するスチーム・ジェット。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_:i\゜○
紅魔導士は、詰まる間合いを嫌うよう炎撃を放つ。
が、狙ったポイントから消えるように高速スライドするレオニス。
まるで氷上を滑るかに、彼は俊足スラロームで炎撃を躱してゆく。
「逃がさねえ!」
尚も炎撃を放ち、位置を変え奴が逃げる。
斬撃を繰り返し、レオニスが追い詰める。
まるでカーチェイスのように、追いつ追われつの攻防を繰り広げる二人。
そして、逃げに気を取られた紅魔導士の隙を狙い、レオニスが忽然と姿を消す。彼は斬撃を躱して移動する奴の先手を取った。
一瞬、レオニスの姿を見失う紅魔導士。
――どこだ!?――
次の瞬間。その頭上をムーンサルトで舞うレオニス。
――貰った!――
背後を取った彼は、奴の背中に向かってブレードを突き立てた。
が、
――バカめ、かかったな――
嘲る紅魔導士の瞳に宿る霊子力の赤黒い煌めき。
一瞬の内に奴はカラダの表裏を入れ換える。
それは亜種ではあるが、”Ruby”が持つ増殖細胞の変身能力を利用したものだった。
――なにィ!?――
霊素粒子対消滅の間合い。
残る奴の右手から放たれる黒い炎。
それは斬撃に向かうレオニスを真正面から呑み込んだ。
――やべェ!!――
ネオブラスのブレードで炎をブロックし、スチーム・ジェットで逆噴射を掛けるレオニス。
しかし、それよりも早く。その燃え盛る黒い炎を横から鷲掴み、レオニスの隣で仁王立ちする彼女がいた。
「ベレロ、フォン!」
突然に姿を現し、殺気漂う鬼の形相を奴に向ける彼女。
「この男、死なれちゃ困るんでな」
ベレロフォンは黒い炎をレオニスから力尽くで引き剥がすと、握り潰すかに己の掌に吸い込んでゆく。
意表を突かれた紅魔導士が驚嘆に呟く。
「い、いつの間に!?」
「馬鹿め! 理屈さえ分かれば、高速移動など容易いわ!」
彼女の言葉は、敵のアドバンテージが消えた事を意味していた。
狼狽えに炎撃を放って逃げを図る紅魔導士。しかし、その炎をも空く片手に容易く受け止めて見せるベレロフォン。
「フンっ、やはりこの程度か……」
彼女は何かを納得したかのように薄く笑みを浮かべた。
「キサマ。”Ruby”のくせに増殖細胞の再生力が貧弱のようだな。所詮は模造品か?」
「……」
図星に奴は返す言葉を躊躇した。
「では、キサマにオリジナルの力を見せてやる!」
ベレロフォンは掴んだ炎撃を圧縮するように両の掌に封じ込めた。炎は次第に輝度を上げると、瞬く間に稲光迸る雷へと属性を変え始める。
_人人人人人人人人_
> BUZZ!BUZZ! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
同時にジリジリと膨れ上がる彼女の殺意。
「レオ。コイツの高速移動は、点の攻撃を躱す極短距離の連続だ。だったら、網を張って足を止めればいい」
――足を止める!?――
そうして、ベレロフォンは奴に向かって怒気を撃ち放つ。
「もう、オマエに用はない! 死ね!!」
ヾ\!人人人人人!//レ
_\人人人人人人人人人/_
>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<
 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄
フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ
雷の槍へと姿を変え、ベレロフォンから放たれた雷撃。
阿吽の呼吸で爆裂するスチーム・ジェット。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_人_:i\゜○
そして、槍は高速移動で躱そうとする奴の手前で破裂。
網の目を張って大きく広がった。
燃える炎を超高電圧が閉じ込める。
電撃に動きを封じられる紅魔導士。
上げる苦悶の叫声。
その瞬刻。
\!人人人人!/
≫ THUK!! ≪
//iY^Y^Yi\
レオニスのブレードが奴の胸を、その急所を寸分たがわず貫いた。
「ニ、ニンゲン、ごときに……」
「残念だったな、オッサン。”シャングリラ最速”の称号は、譲らねえ!」
”シャングリラ最速の男”。それはスチームバイク・レースで幾多の勝利を攫って来たパイロット。レオニス・アルファに送られた二つ名であった。
†* † *†
ギア・ナイト積年の仇敵。紅魔導士を打ち取ったレオニス。が、その躯を憮然と見つめるベレロフォン。そんな彼女の表情から、彼は肝心な事を思い出す。
「スマン。思わず殺っちまったが、”Sapphire”の居場所を聞き出すんだったな?」
「心配はいらない。見当は付いている」
「見当?」
「”Emerald”であるレディが、ワタシの存在に気付いていた」
「じゃあ、”Sapphire”も気付いている、ということか?」
「レディの言葉通りなら、奴は”Ruby”である私を避けている」
「なるほど。とすると、奴は城の方?」
「多分な……」
そう言って、瓦礫と炎に燃え燻る別邸を見やるベレロフォン。
「だとして、ここからどうやって戻る? 歩いていくのか?」
「任せろ。ちゃんと当てはある」
レオニスは辺りを見回すと、一度大きく指笛を吹いた。空にも鳴り響いたそれは、次に静寂を呼ぶ。そして、彼は周囲に気配を探した。
すると、館の左翼廊裏手、その森の茂みから一頭の馬が姿を現す。それは黄金色に輝く一角獣。馬鎧を纏う重装騎兵の軍馬のようであった。
レオニスが叫ぶ。
「ラピュセル!(乙女の意)」
その声に嘶きで答える軍馬。彼女は荒ぶりながらも静々と駆け寄ってきた。それを親しき友人のように迎えるレオニス。
「おおォ、よしよしィ」
多少面食らってぽかんとするベレロフォン。
「ナンダ、ソイツは?」
「ジャンヌの馬だ」
「ジャンヌの?」
「ああ。彼女は常にコイツで移動する。だから、離れ離れになっても主が迎えに来るのを隠れて待っていたのさ。賢いだろ?」
二人はラピュセルに跨ると、急ぎアヴァロン城への帰路に就いた。その馬上。後ろから腕を回してレオニスに凭れるベレロフォンが耳元で呟く。
「ところでレオ。さっきの”シャングリラ最速”って何だ?」
「ああ、アレか。アレは口で説明しても面白くねえ」
「オモシロク、ネエ???」
「ああ。事が片付いたら馬じゃなくて、レース・バイクにタンデムさせてやる」
「レース・バイクに、タンデム?」
「砂漠を滑る様にブッ飛ぶ! 最高だぜぇ!」
「そんなに最高なのか?」
_人人人人人人人人人人人人人人_
> ああ、最高にイカレてる!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】
Gear#08:The Skater's Punk【完】
つづく
〖Name〗
*ベレロフォン・アウリル~本作の主役の一人
〖Character〗
*通常は少女の姿(レオニスが居た骨董品店の少女像を模した)
・赤褐色の瞳と色白の頬。ネコ科を思わせる面持
・ツインテールの黒紅髪を後ろへ返して纏め、黒いシルクハットに金色のルーペ付きゴーグル
・ハイネックのブラウスにコルセット
・丈の短いジャケットにボリュームのあるフィッシュテール・スカート
・ニーハイソックスに編み上げのヒールブーツ
(何れも黒を基調としたダークブラウンのフリルやレース、バックルとリベットに彩られる)
*メタモルフォーゼをしダーク・エルフ”Ruby”となる
・髪はシルバーアッシュのロング
・ウサギのような長い耳を持つ
・筋肉質な灰黒色の肌
・黒皮のような鱗を並べる鎧で身を纏う
〖Weapon or Item〗
・霊子力を駆使した雷撃・炎撃・霊素粒子対消滅
・増殖細胞による高度な再生能力を持つ
〖Small talk〗
*旧世界科学が造りだした増殖細胞”Ruby”が何者かの遺伝情報を取り込んだ存在
*ハイエルフのカウンターパートであるダーク・エルフ
(追記あり)
【予告】
†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†
$次回、「Gear#09:Tactics」
――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――