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Gear#07:Ruby&Red[後編]

      挿絵(By みてみん)




   Ⅰ Red




 不意にレオニスを襲った紅蓮のつむじ風。蛇の如く滑るように宙を這った炎。それは瓦解する騎兵隊、その退却の号笛が鳴る中。ジャンヌの目の前へと降り立った。


 纏う赤黒いフード・ローブ。そして、ゆっくりと上げられる視線。やがて、その顔を目の当たりにするジャンヌは、震えるほどの怒りを露わにする。


「キサマアアアアア!!」


 憤怒の雄叫びを上げるジャンヌ。


 一転。彼女は右手首のギアを回すと、その腕を組み替えた。

 振り下ろす右腕で唸る機械仕掛け。

 それは瞬時に変形すると、籠の護拳がついた細身剣レイピアとなった。

 須臾しゅゆの躊躇いも無い。

 彼女は切っ先を振り向けると、いきなり間合いを詰める。

 フェンシングのように直線で跳躍するステップ。

 突き刺さる細身剣レイピアの刃。

 が、奴の姿が消える。


――ナニっ!?――


 そして、ジャンヌの背後から薄気味の悪い嗤笑ししょうが漏れた。


 その声に振り返るジャンヌ。するとそこには、目の前にいた筈の奴の姿があった。蛇のような瞳。赤黒い鱗の皮膚で覆われた顔。積年の恨みを携え、その名をジャンヌが口にする。


()()()キサマかっ! レッド・サーペント!!」


 それは57年前。あの第一次異教徒戦争。フェルドナン城塞の死闘でジャンヌを地獄の烈火に焼いた、紅魔導士レッド・サーペントに違いなかった。


 紅魔導士レッド・サーペントは、その夜行性の蛇眼と思しきを瞳を細めた。


「おや? オマエ、俺の名を知っているのか?」


 そう訝る奴は、蛇のような鋭い嗅覚を働かせる。

 

「ん? ああ、臭うぞ。オマエは、あの時の小娘だな?」

「キサマには山ほど貸しがある。忘れたとは言わせんぞ!」

「なるほど。焼かれたカラダをサイボーグ化して生き延びたか」


 再び奴は、薄気味の悪い嗤笑ししょうを浮かべた。


「オマエなどに用はない。それとも、また焼かれたいか?」

「舐めるな。このネオブラスの体に炎など通用せぬぞ!」

「どうかな?」


 それが通常の炎であればジャンヌの言う通りではあった。がしかし。その激情の怒りが、彼女に冷静さを欠かせてしまった。


 再度、真正面から挑み掛かるジャンヌ。

 その距離を測るよう、蛇眼の瞳孔が大きく見開く。

 そして、デッド・ゾーンに飛び込む彼女におぞましき力が放たれる。


「バカめ」


 呟く紅魔導士レッド・サーペントの瞳に宿る霊子力の赤黒い煌めき。

 両手から放たれる黒い炎。

 それは容易くジャンヌを呑み込むと、彼女の全身から急激に力を奪い去っていく。


――な、なんだ!? カラダの力が、抜けてゆく――


 自身に何が起こっているかを理解する間もなく、ジャンヌは膝を落とすと、その場に崩れ落ちるしかなかった。




†*        †        *†




 霊素粒子対消滅ゴースト・ アナイアレイション。それは精神・霊子力の源である運動エネルギーを持つ霊素粒子同士が衝突し、その粒子崩壊によって無の特異点へと変換される現象であった。


 この場合。人間の持つ霊素粒子とハイエルフの持つ霊素粒子との対消滅であるが、エルフ・亜種エルフは、空間に存在する光子を和の等しい静止エネルギーと運動エネルギーを持つ霊素粒子に変換蓄積する事ができる。


 すなわち、無尽蔵に変換される運動エネルギー霊素粒子が、人間の運動エネルギーを持つ霊素粒子を対消滅させているのである。人の場合。その霊素粒子を失う事は、言うまでも無く精神を失うことである。それは静止エネルギーのみを残す廃人となるか、死を意味していた。




†*        †        *†




――何故だ? カラダが言うことを、きかない――


 燃える黒き炎。両手を翳し、紅魔導士レッド・サーペントはジャンヌに侮蔑の笑いを向けた。


「バカめ。霊子力を使えぬ下等生物に遅れを取るとでも思ったか?」


 獲物を捕らえた蛇の如く、ゆっくりと締め付けるような囁き。


「苦しいか? だが、もうじき楽になる。その身形みなりに相応しいデクの人形となるのだ」


 体中の精気を奪われ、両手を地に伏したジャンヌ。尚も抗おうとする彼女であったが、ついに意識も朦朧とし始めた。


 が、その時。


_人人人人人人人人_

> BRRRRRRRRP!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 館右手の翼廊方向から紅魔導士レッド・サーペントを目掛け、砂岩の飛沫しぶきを上げて無数の銃弾が地を駆ける。御者台で高速回転に唸りを上げる8連のガトリング砲。


 と、同時。


○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○

 ( BOOOOOOOOMB!! )

○゜//i人_人_人_人_:i\゜○


 背後の森を突き破り、爆裂する蒸気に疾風が奔る。一直線に土埃を割るブレードが紅魔導士レッド・サーペントを突き上げる。


 それは館の裏手からミス・マジェスティらを救出したレディ。墜落する機械軍船から脱出したレオニス。偶然ではあったが、二人による同時攻撃だった。


 彼らの連撃を人ならぬ速さで移動し、寸前で躱す紅魔導士レッド・サーペント


 その間隙。嘶く馬を跳ね上げる馬車が、ジャンヌを庇うように奴との間に割って入った。そして、黄金色の多銃身を仇敵に向け、御者台から冷徹な表情で見下ろすレディ。


「あらぁ、まだ生きていたの? レッド・サーペント」

「やっと、現れたなダイアナ」 

「何の用? 57年前の仕返しにでも来たのかしら?」

「アレは油断したまでのこと……」


 二人が遣り取りをする中。馬車の裏手でジャンヌを抱き起こすレオニス。


「大丈夫か?」

「レオ……」


 そして、キャビンに乗せられる彼女の無事を確認するよう、レディが声を張る。


「ジャンヌ、一端引くわよ! ここはミス・マジェスティたちの保護が優先!」

「了解した」


 力なくも明瞭に答えたジャンヌ。ただ、レディの言葉に嘲笑を浮かべる紅魔導士レッド・サーペント


「クッ、ク、ク、ク……」

「何がオカシイ?」

「分かっておらんな。女王などエサに過ぎん」

「エサ?」

「そう。我々の真の目的はオマエだ、ダイアナ。いや、”Emerald”(エメラルド)!」


――”Emerald”(エメラルド)――


「ふううん、そういう事……」


 その一言に、別邸襲撃の理由を見出すレディ。


「ワタシのゴースト・ジュエルを奪うにしては、随分と面倒な手を考えたわね?」


 紅魔導士レッド・サーペントが返す。


「それだけではない。オマエの研究結果もな……」


 エルフ研究の第一人者であるレディ・アヴァロン。彼女が保管するデータはアヴァロンの館にある。それは即ち、家主不在の城攻めを意味していた。


 レディ同様、それを察したレオニス。彼はキャビンの裏手から回るとガンを飛ばす。


「アヴァロン城にも敵だとぉ?」

「おめでたい奴だな。我々だけで動いてるとでも思ったか?」


 そんな奴の言葉にレオニスの何かが切れる。彼は左腕のブレードを煌めかせると声に凄みを利かせた。


「じゃ、尚の事。テメぇの相手は、()()じゃないとな……」


 ヤル気を見せるレオニス。彼の入れ込みように、微苦笑を浮かべるレディ。


「じゃ、任せるわ、レオ」


 しかし、ここで”Emerald”(エメラルド)を逃がす訳にはいかない紅魔導士レッド・サーペントが食い下がる。


「随分とツレナイじゃないか? ダイアナ」

「残念だけど、アナタの相手をしてるほど、ワタシ暇じゃないのよ」

「なんだ、オマエも男爵のように、黒焦げにしてやろうと思ってたのになあ」


 それも57年前。あの悪夢がレディの頭を過る。が、彼女は一笑に付した。


「そんな誘いじゃ乗れないわ。想い出に囚われるほど若くはないのよ、()()()


 そして、彼女は再び冷ややかな視線を向けると、奴を見下すように言い放った。


「それに、知らないみたいだから教えてあげるけど。”Sapphire(サファイヤ)”ならまだしも、模造品がワタシの相手など、百年早いっ!!」




†*        †        *†




「模造品だとぉ……」


 レディの言葉に、静かだが憤りを見せる紅魔導士レッド・サーペント。と、その時。


――”Sapphire(サファイヤ)”――


 その言葉を聞いたベレロフォンの本能が、ダーク・エルフ”Ruby”(ルビー)としての闘争本能が呼び覚まされる。


 彼女は悠然と馬車のドアを空けると、キャビンのステップ、地面へと小気味よく降り立った。そして、レオニスの前に歩み出ると振り返りもせず、預かっていた彼のトップハットを手渡す。


「ハイ、コレ」

「お、おう……」


 ヴィクトリアン調のスチームパンクドレスに身を包む妖艶の少女。その場違いな存在に怪訝の表情を向ける紅魔導士レッド・サーペント


「なんだ、オマエは?」


 だが、それを無視するよう、ベレロフォンは真っすぐに指差すと言った。


「キサマ、”Sapphire(サファイヤ)”は何処にいる?」


 そんなベレロフォンを見て、レディは構えるガトリング砲を降ろした。


「やっと、ヤル気が出たみたいね」


 言葉に含みを持たせる彼女に、やはり不貞腐れて答えるベレロフォン。


「うるさい。ワタシはコイツに、聞きたい事があるだけだ」

「じゃ、決まりね」


 意外な事の成り行きに、帽子を被り直し溜息を漏らすレオニス。


「ったく。ややこしくなりそうだぜ」


 そんな彼に耳打ちするよう、レディが囁く。


「でも気を付けて。さっきの黒い炎。アレは霊子力よ」

()()か? 幸い、俺は信じない質なんでね……」


 杞憂を浮かべるレディにレオニスはうそぶいた。


「そう。じゃ、安心ね」


 微笑んだレディ。途端、彼女は紅魔導士レッド・サーペントにガトリング砲を向け直すと弾幕を張るかに撃ち放った。


_人人人人人人_

> BRRRRP!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄


 そして、すかさず馬に鞭を入れると馬車を走らせる。


「レオ! 後は宜しくねぇ!」


――ったく、ヤレヤレだな――


 レディの放つ銃弾を、再び人ならぬ速さで躱した紅魔導士レッド・サーペント。奴は苦虫を食い潰したような表情に怒りを載せる。


「仕方ない。ザコを殺してから、”Emerald”(エメラルド)の後は追うとしよう」

「言ってくれるなぁ、オッサン。だが、死ぬのはアンタの方だぜ!」

「レオ、コイツを殺すのは石の在処を聞いてからだ!」


―― レオ ――


 言葉の内容はともかく、レディとジャンヌしか呼ばない愛称を口にしたベレロフォン。些かの驚きも、その聞き慣れたような耳障りの良さに笑みを滲ませるレオニス。


 そんな二人の大口、大胆不敵さに紅魔導士レッド・サーペントは更なる怒りを表した。


「生意気な小僧どもだ!」


 すると、飢えた邪鬼のような表情を浮かべ、ベレロフォンが奴に歩み寄る。


「生意気? レディの言う通り、()()()に言われたくはナイな!」


 彼女が畳み掛ける。


「臭うぞ! さては、キサマも亜種の”Ruby”(ルビー)だな!」


 取るに足らないと思っていた小娘の言葉に、幾分の動揺を見せる紅魔導士レッド・サーペント


「オマエ、ナニモノだ?」

「ワタシか!?」


 するとベレロフォンは、その瞳に赤々と霊子力の炎を揺らす。


――!?――


 みるみるうちに膨らみ始めるカラダ。ドレスは縮み黒皮に変質して鱗を並べる鎧となり、筋肉質な灰黒色の肌を艶めかしく露出させてゆく。髪はシルバーアッシュに色を変えて茂り、毛に覆われるウサギのような長い耳を形成する。


 そうして、メタモルフォーゼを終える彼女は、その鋭い眼光に牙に殺気を煌めかせると言った。




_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_

> ワタシは魔族の戦士! 悪魔ベレロフォン・アウリルだっ!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄






【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】 Gear#07:Ruby&Red 後編【完】


 つづく

〖Name〗

*紅魔導士レッド・サーペント


〖Character〗

*魔導士/ソーサラーの一種

*亜種Ruby(ルビー)

*蛇のような瞳

*赤黒い鱗の皮膚で覆われた顔

*赤黒いフード・ローブを纏う


〖Weapon or Item〗

*霊子力を利用した炎撃や雷撃を撃ち放つ事が出来る

*霊子の盾を使う事ができる

*増殖細胞を利用して姿形を変える事が可能

霊素粒子対消滅ゴースト・ アナイアレイション


〖Small talk〗

*旧世界科学での呼称はハイエルフ

*遺伝子操作とインプラントによって生み出されたキメラ

*57年前の第一次異教徒戦争時

・フォモール教バロル教会バロル主教の顔持つ

・先代のギア・ハンター四天王らと戦った


(追記あり)


【予告】


†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†

$次回、「Gear#08:Skater's Punk」


      挿絵(By みてみん)


――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――

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