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Gear#06:St.Janne[後編]

      挿絵(By みてみん)




   Ⅰ サイボーグ騎士




 都市国家軍、空兵隊と騎兵隊の強襲によって炎上するシャングリラ別邸の中。その燃え盛る赤い炎を背にし、姿を現したギア・ハンター四天王の一人ジャンヌ。


 その神々しく威厳をそなえる姿に、ざわめき狼狽える騎兵たち。それはシャングリラ・シティに於いて、彼女が英雄とも言うべき存在のせいもあった。


 二つの戦乱をくぐり、長く時を越えて生ける伝説のサイボーグ騎士。彼女を目の前にした兵士たちは、一様に畏怖の念を抱き、戦意を鈍らせるしかなかった。


 しかし、それを打ち消すようにフィル中佐が叫ぶ。


「えええいっ! 怯むな! 王政復活を目論む逆賊ぞ!!」


 すると、まるで暗示を掛けられたように、再び戦いへと勇往する騎兵たち。


「撃てっ! 撃てえええっ!!」


 中佐の号令に、再びスチーム・カノンの砲撃が轟く。


○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!/。○

( DOOM!DOOM!DOOM! )

○゜//i人_人_人_人_:i\゜○


 が、またもジャンヌは、超硬の合金ネオブレスの槍斧ハルバードで鋼鉄の砲弾を左右に薙ぎ払って見せた。ゆっくりとだが、その鬼神の如き歩みは留まる事を知らない。


「ナ、ナニをしている! 重装歩兵隊、前へっ!!」


 果敢に指揮を執る中佐ではあった。しかし、彼女が発する鬼気せまる威圧感に、彼はジリジリと後退せざるを得なかった。


「つ、通信兵! そうだっ、通信兵はおらぬか!?」


 そんな中佐と入れ替わるように、全身をギア・アーマーで武装した重装歩兵隊の列が壁を造る。




†*        †        *†




 ギア・アーマー重装歩兵隊。彼らは、およそ人間では持ちえない重量の銃火器や刀剣を武器とする。その全身を鋼鉄に包み、駆動するギアが人の能力の限界を補填する。


 既にスチーム・カノン砲をものともしないジャンヌ。彼らは銃火器での攻撃を捨てると、アックスやメイス等の打撃武器で戦いを挑んだ。また、一対一を避け、多対一戦術を仕掛ける。


「第一小隊! 前へ!」


 中隊長の声に、複数人でジャンヌを取り囲む重装歩兵。途端、一斉に彼女目掛けて振り下ろされるバーバリアン・アックス。


「賢明。だが遅い!」


 そう彼女がうそぶく刹那。目にも止まらぬ速さで、槍斧ハルバードが天に円を描き風の咆哮を上げる。


_人人人人人人人人人_

> WHOOOOSHHH!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 そして、次に彼女が歩を進めた時。襲い掛かった兵達の血飛沫が砂塵の如く吹き上げた。


「次っ! 第二小隊、前へ!」


 超硬の合金ネオブレス。その刃は形あるモノ全てを両断する。群れを成し挑みかかる鋼の鎧。襲い掛かる鋼鉄の斧。だが、彼女が振り下ろす槍斧ハルバードは、騎兵が背にしたスチーム・カノンをも真っ二つにした。


「つ、次!」


 繰り返される不毛の剣戟。その凄まじき斬撃に皆、息絶えるか、恐れ戦き遁走するしかなかった。


 彼女が狙うは、騎兵隊指揮官フィル中佐のみ。


 その視線に気付いた彼は、通信機を片手に怒りの形相を向ける。そして、その時だった。突然に巨大な黒い影が、蒸気機関の駆動音を伴ってジャンヌを覆った。




†*        †        *†




 見上げる上空。そこには、その巨躯を彼女の頭上へと急降下させる機械軍船があった。しかも、艦底にはレール・ガン二門を備えた開閉式砲座がある。追い詰められるフィル中佐が、空兵隊に砲撃を要請したのだ。


 そして、砲口は燃える館とジャンヌとを、直線上で結ぶように向けられていた。


 彼女の制空権を奪うかに覆いかぶさる機械軍船。

 超低空で掛けるホバーリングが膨大な蒸気を排気した。


_人人人人人人人人人_

> HISSSSSSSSH!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 それは地表に乱気流を巻き起こし、ジャンヌの足を止める。

 それを見計らったかのタイミング。

 金属が撓むような轟音を上げるレール・ガン。


_人人人人人_

> CLANG!! <

 ̄Y^Y^Y^Y ̄


 超高速の大型徹甲弾が、彼女目掛けて発射される。


 しかし、それを槍斧ハルバードで切りにかかるジャンヌ。

 上体を低く、超速で振りかぶったそれが鈍色の塊を迎え撃つ。

 衝突する頭上。耳をつんざくような金切り音が響き渡る。


_人人人人人人人人人人_

> SCREEEEEEEECH!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 が、加速された物理的質量の威力がジャンヌの握力を上回った。

 徹甲弾を割りつつも手元から背後の地面へと突き刺さる槍斧ハルバード


――しまったっ!――


 膨大なエネルギー消費に再び蒸気を吐き出す機械軍船。

 すかさず、ジャンヌに次弾を浴びせ掛ける。


――躱せば館に直撃してしまう!――


 彼女はネオブレスの盾を前面に押し立て徹甲弾を弾いた。


 5秒と空けず、繰り返し撃ち放たれる徹甲弾。それを受ける度、後方へと押し返されてゆくジャンヌ。形勢は逆転したかに見えた。


 すると彼女は、腰のトンレットに隠れるピニオン・ギアを回した。

 鉄靴ソルレットから飛び出して地を噛む猛獣の鍵爪。

 石畳を掴んで固定される体。

 しかし、降り止まぬ砲弾の圧力にあと足が地面へとめり込んでゆく。


 その様を見て、フィル中佐が不遜に嘲笑う。


「ウァッハッハッ! いいぞっ! その調子だ! そのまま()()()()()しまえっ!!」


 一撃で軍船を沈める程の砲撃を凌ぐジャンヌではあった。が、その防御が破られるのは時間の問題でもあった。




†*        †        *†




 一方。その甲高く空に鳴り響く金属音を耳にし、戦場の異変に気付くレオニス。間もなく、猛々しく失踪する馬車に森が開ける。整理された別邸の広大な敷地。もう館まで1マイルを切った。後は、見通しの良い一本道となる。


 立ち上る黒い煙。燃える館。地表近くをホバーリングをする機械軍船。


「レディ!」


 レオニスはキャビンの小窓を開けるとレディを促した。阿吽の呼吸で非常事態を察する彼女。対照的に沈黙したままのベレロフォン。彼女は自分が何者なのかを疑っていた。


 レディはキャビンの座席に立ち上がるとルーフの天窓を開ける。そして、走る馬車から上体を突き出すと、単眼鏡テレスコープを手に取り見澄ました。


「あれは!?」


 彼女は驚き、苛立ちにキャビンの屋根を叩く。


「なんてこと、あれはレール・ガンよ!」


 それを聞いてレオニスが叫ぶ。


「そんなモノ、わざわざ別荘に向かって撃つわきゃねえ!」

「まさか、ジャンヌに!?」


 今度はレオニスが御者台に立ち上がる。そして、トップハットをキャビンの小窓からベレロフォンへと投げ入れた。


「預かっといてくれ。ちゃんと後で返せよ」


 笑みを浮かべたレオニス。


「オ、オイッ」


 戸惑うだけのベレロフォン。ただ、レオニスの言葉が、思い出せない確かな繋がりをベレロフォンに感じさせた。それは遠い昔、何処かで見た光景のようでもあった。


「レオ……」


 レオニスはパイロットゴーグルを掛けなおすと、親指を立て、馬を指して言った。


「レディ! 運転を代わってくれっ!」

「えっ!?」


 そして当然のように左手首のギアを回した。


  レオニスの行動に面食らうレディ。そんな彼女を他所に唸りを上げる機械音。ジェット・ノズルとスラスターに組変わるレオニスの両足。集束されて吐き出されるスチームが、乾いた高音を放って気流の揺らぎを作る。


「もう幾らも無い。悪いが先にいくぜ!」


 言うが早いか、レオニスは馬車から飛び降りた。


「ちょ、ちょっと!」


 瞬間。


○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○

  ( BOOOOMB!! )

○゜//i人_人_人_:i\゜○


 勢いを増して猛るジェット・ノズルとスラスター。レオニスは更にスチーム・ジェットを爆発させると、瞬く間に馬車を置き去り飛び去った。


 その爆音に驚き、御者を失った馬が足並みを乱す。


 すぐさまレディはキャビン内に体を戻し、開きドアを蹴り破る。そして、屋根の桟を逆手に宙返ると、体を捻って無人の御者台へと鮮やかに飛び移った。


「もう、せっかちなんだからっ! ったく、誰に似たのかしら!?」


 レディは巧みに手綱を捌くと、馬に鞭を入れ、館を目指し馬車のスピードを上げた。


「ハイヤッ!!」




†*        †        *†




 機械軍船まで一直線。澄み渡る空気に蒸気の尾を引き、猛スピードで宙を飛ぶレオニス。彼は左腕にブレードを構えると、ミサイルの如くレール・ガンの砲座へと飛び込んだ。


 その勢いのまま、有無も言わせず砲手を二人串刺しにする。返す刀で彼は、動力のスチーム管を叩き切った。そして、悪鬼のように鋭い眼光を乗員たちへと向けると、右手に携えたスチーム・パンク・ライフルを撃ちまくる。


_人人人人人人人人人人人人人_

> BRATATATATATATATAT!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 砲座の電気系統がショートし、引火する機械に火花が舞う。


○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○

( BOM!BOM!BOM! )

○゜//i人_人_人_人_:i\゜○


 誘爆に火の手を上げる軍船。慌てふためき逃げ惑う空兵たち。砲座を飛び降りる者までいる。


 沈黙する砲撃。その混乱に気付いたフィル中佐は、退却命令も出さずに呆然自失となった。


 砲座からレオニスが叫ぶ。


「ジャンヌ!!」


 その聞きなれた声。徹甲弾によって歪んだ盾を彼女が投げ捨てる。


「遅いぞ! レオ!」


 悪びれる様子も無くレオニスは呟く。


「人気者は辛いねぇ」


 すると、艦の異常に気付いた機械軍船が急激に高度を上げ始めた。


「おおっと!」


 船体を傾け、急浮上に戦線の離脱を図る軍船。しかし、それをジャンヌが許さない。


「逃がさん!」


 彼女は地に刺さる槍斧ハルバードを引き抜くと、下方の突端にもある槍先を上げた。そして、三叉のジャベリンを構えるポセイドンの如く、真っすぐに伸ばす左腕の指先で狙いを定めた。


「覚悟!」


 その一言に、撓る全身から凄まじい勢いを持って投擲とうてきされる槍斧ハルバード


_人人人人人人人人人_

> ZOOOOM!!!!!!!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 渾身の一撃は機械軍船へと一線。左翼エンジンを突き破り、船尾のテールローターをも貫いた。


_人人人人人人人人_

> STAB!!!!!!!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 黒煙を上げてコントロールを失う軍船。それは大海に沈む巨船のように森へと向かって墜落を始めた。


「オイオイ、まだオレが乗ってんだぜ!」


 苦笑いにレオニスがボヤく。


 と、その頭上。船底砲座の上方開口部。突然、火炎放射器のように渦巻く炎が彼を襲う。


――なにィ!?――


 咄嗟に身を翻しレール・ガンの砲身へと飛び移ったレオニス。


――ナンだありゃあ!?――


 その紅蓮の炎を巻くつむじ風。それは大蛇のように砲座に張り付くと、滑り落ちるように軍船を抜け出した。そして、落下するうちに人の形を成すと地に降り立ち、彫像のように雄々しく屹立するジャンヌと対峙するのであった。





【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】 Gear#06:St.Janne 後編【完】


つづく

〖Name〗

*セイント・ジャンヌ/ジャンヌ・ファリアス


〖Character〗

*全身を超硬の合金ネオブラスで覆うサイボーグ騎士

*鶏冠兜アーメット

*彫刻のように美しいスチールの仮面

*鮫の歯を並べたような肩当てのスポールダー

*女性らしさを思わせる胸部のキュイラス

*滑らかな流線の大腿部と腹部の間に前開きの草摺タセットスカート

*プレートを重ねる鉄靴ソルレット

*全身にパレードアーマーの如く芸術的な意匠が施されている

*騎士道を重んじる義の人


〖Weapon or Item〗

*機械仕掛けの右腕に籠の護拳がついた細身剣レイピアを持つ

*ネオブラス製の槍斧ハルバードと盾


〖Small talk〗

*幼少の頃からの憧れであった近衛に入隊

*更なる強さを求めてギア騎士団の門を叩く

*才能を開花させ若くして四天王に登りつめた

*年齢は不詳(レディの17歳年下と言う噂)


(追記あり)


【予告】


†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†

$次回、「Gear#07:Ruby&Red 後編」


      挿絵(By みてみん)


――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――

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