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Gear#03:Lady Avalon[後編]

      挿絵(By みてみん)




   Ⅰ エルフェイム計画




 数世紀前。軍事目的を主とする研究開発の中。旧世界の人類は、器ともいうべき肉体を造る遺伝子学、そして、その中身ともいえる魂を造る霊子学を極めつつあった。


 しかし、オリジナル遺伝子配列の人造人間エルフを成人レベルの肉体にまで培養する事は出来ても、人としての記憶を持たせなければ兵士として使い物にならない現実にぶつかった。


 通常、人は成長と共に経験を重ね、その膨大な記憶を大脳皮質に蓄積する。同様の情報量を短時間で移植する試みは、その過度な負担が人造人間エルフの脳と肉体を激しく損耗させた。


 そこで科学者たちが目をつけたのは、霊素粒子による記憶の感染だった。


 研究によって、人間の記憶は魂、即ち霊素粒子にも記録されていることが発見された。それを知った彼らは、人工の霊素粒子に疑似記憶をプログラムする事を思いつく。そして、肉体と魂が融合した後。霊素粒子から大脳皮質に情報が感染する事も突き止めた。


 これで全てが解決したかに思われた。しかし、実際には越えなければならない最後の問題が突きつけられた。




   Ⅱ 適合




 それは、融合させる魂と肉体の相性とも言うべき”調和適合の壁”だった。人工的に生み出した魂と肉体の融合は、数日内にアレルギー拒否反応を引き起こす。そして、魂は崩壊する。


 クリアする事の出来ない神の領域。それでも科学者たちは、それまでに費やした時間と労力、つぎ込まれた莫大な予算によって研究を諦める訳にはいかなかった。


 試行錯誤の末。彼らは一つの仮説を実行するに至る。それは魂のクローンとも言うべき、実在する人間のゴーズトダビングだった。あらゆる人種から複製された魂。それを彼らは、霊素粒子レベルで再プログラム。そして、培養した肉体への融合を試みた。


 やがて、四つの適合パターンが解明される。この時。既にプロトタイプのゴースト・プログラムは完成していた。ただ、その造られた魂が肉体に宿ることはなかった。最中に迎えた”終末の日”。電磁パルス弾によって、人類は科学文明そのものを失ってしまった。




   Ⅲ バックアップ・プログラム




 ”終末の日”。エルフェイム計画の研究施設は、人知れず完全隔離された。忘れ去られ頓挫したかに見えた禁断の計画。しかし、それにはバックアップ・システムが用意されていた。


 それは、研究計画を宇宙そらに於いて自動継続するというものだった。


 ”終末の日”直前。電磁パルスの影響を回避する為、衛星軌道上に打ち上げられた無人研究室エルフェイム・ユニット。


 問題は、地上に於いて器となる肉体を培養する術を失ってしまった事。そこでエルフェイム・ユニットは、二つ目の適合パターンを選択する。それはゴースト・プログラムを直接に、生身の人間へと感染させる方法だった。


 定期的に地上へとバラ撒かれた適合遺伝子情報探査ナノマシン。そして数十年前。ナノマシンは適合遺伝子保有者をシャングリラ・シティの郊外で奇跡的に検知する。


 その情報を受けたエルフェイム・ユニットは、完成していたゴースト・プログラム内蔵のマイクロマシンを数百年の時を越え大気圏に解き放った。


 コードネーム-”Emerald”(エメラルド)。ゴースト・ジュエルと呼ばれるマイクロマシンは、適合遺伝子を有する被検体に接触し感染した。そして、その被検体とは、当時ギア騎士団ナイトと呼ばれる者の一人だった……




   Ⅳ ギア・ナイト




 ミス・マジェスティ保護の為、エリュシオンの森にある別荘へと向かう街道。馬車キャリッジのキャビンでベレロフォンと向かい合って座するレディ・アヴァロン。


 遠い昔の記憶を辿るよう、ぼんやりと窓の外を眺めていた彼女は、ベレロフォンを見やると話しかけた。


「貴方、お名前は?」

「ベレロフォン、アウリル……」


 しかし、それはレディが期待していた答えでは無かった。


「ベレロフォン、素敵な名前ね。でも、私には ”Ruby”(ルビー)、その方がしっくりくるわ」


 その一言に、ベレロフォンが表情を変える。


「オマエ、どうしてその名を知っている!?」


 荒ぶる感情を隠さないベレロフォン。


 しかし、その時だった。乗る馬車に急停止が掛かる。その衝撃に揺れる中、レディが御者側の小窓を開ける。


「レオ!?」

「レディ、お客さんだ」

「そう。で、新顔は?」

「ああ。団体さんだ、黒いのを引き連れてる」

「じゃあ、私が御挨拶するわ」


――ったく――


 レオニスは御者台を飛び降りると、キャビンのドアを開いた。


「アナタは、ジッとしてて」


 アステロープを伴い、ベレロフォンを残し馬車を降りるレディ。


 アンティーク・ゴーグルをヘアバンド代わりにアップした栗毛色の髪。機械歯車を象った髪留めが、巻き編んで後ろに流した長髪を纏める。白く上等なシルクのパフスリーブ・ブラウス。リベット打ちの鰐皮ビスチェ。焦げ茶色のドレープをあしらった前開きのマーメイド・スカート。


 その威風堂々たる貴婦人の趣を携えて、レディは翠魔導士グリーンに対峙した。

 静かにキセルをかす彼女。


「貴方が新顔? 見た目は黒魔導士オールド・タイプと変わらないわね」

「これはこれはレディ・アヴァロン。わざわざ死にに出て来て頂けるとは……」


 翠魔導士グリーンの言葉に臆する事も無く、涼し気な表情を浮かべるレディ。散る黒魔導士オールド・タイプたちが馬車ごと取り囲んだ。


「ひい、ふう、みい……、うううん。黒いのは貴方に任せるわ、レオ」

「ヤレヤレ……」


 レオニスは両脇に備えていたスチームパンク・ライフルを握った。が、彼を待たずに黒魔導士オールド・タイプの一人が雷撃を撃ち放つ。


_人人人人人人_

> BZZZZZT!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄


 レディ目掛けて迸る稲妻。

 その瞬間。

 傍にいたアステロープが牙を剥く。


_人人人人人人人_

> GROWWL!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


 それは獲物を狩る獣の如く宙に轟く稲光を食い千切る。

 全身ネオ・ブラスの装甲を持つロボット・パンサー。

 そのアステロープの体には、吸電遮断の防御が施されていた。


 動揺を見せる黒魔導士オールド・タイプらを他所に、何事も無かったかのようにアステロープを撫でるレディ。


「じゃ、今度はワタシの番ね」


 レディはレオニスにキセルを放り投げると、翠魔導士グリーンの前へと歩み出た。そして、纏うマーメイド・スカートのフロントホックを外し、割れる前側のフリルを腰の後ろへとたくし払った。


 露わになる半身。はだけるスカートに強調される彼女の腰のクビレ。黒レースのアンダースコートに包まれる肉付きの柔らかな曲線。すらりとした美脚はガーターストッキングに秘められ、ヒールブーツの細い足首が男を蠱惑こわくする艶かしさを漂わせる。


 ただ、その張りのある両腿を締め付けるホルスターには、細かな彫刻エングレーブが施されたスチーム・リボルバーが収められていた。


 両手を左右のホルスターに掛けると、カウボーイのように翠魔導士グリーンと対峙するレディ。

 その姿に翠魔導士グリーンが怪訝に言う。


「なんのマネだ。聖職者でもある我に、売女の色気など通用せぬぞ」


 僅かだがレディの片眉が、ピクリと吊り上がったかに見えた。

 そして、レディの後方に下がったレオニスが呆れるように呟く。


――オイオイ。売女って、100歳近い婆さんだぜ――


「レオ、聞こえてるわよ」


 優しく諭すレディ。


「これは失礼」


 と、その言葉を聞き終わらぬ内。レディは左のホルスターからスチーム・リボルバーを早業で抜き去ると、翠魔導士グリーンに向けて撃ち放った。


_人人人人人人人人人人人_

> BANG!BANG!BANG! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 連射される弾丸。

 立て続けに右も抜き放つ。

 トリガーガードに掛かる指先で回転するリボルバー。

 左手が右に、右を左に、左が背後に。

 その都度、回転ターンを繰り返し、曲芸撃ちのように躍る二丁の拳銃。

 そして、二つの銃口を再び翠魔導士グリーンに向けると更に撃ち抜いた。


 最後は630°の反転に、ホルスターへと放り込まれる二丁のリボルバー。

 その巧みな銃捌き。腕組みに観戦するレオニスが感嘆の口笛を漏らす。


 しかし、やはり銃弾は翠魔導士グリーンに届く直前で宙に留まっていた。そして、嘲笑うかに不敵な笑みを浮かべる。


「無駄だ。私に銃撃など無意味」


 そう言い終えると、弾丸は力なく地に落ちた。が、しかし。同時にレディ達を取り囲んでいた黒魔導士オールド・タイプもバタバタと崩れ落ちる。僅か数秒の間に、レディは正確に黒魔導士オールド・タイプたちを撃ち抜いていた。


―― なっ!? ――


 声にならない驚きを見せた翠魔導士グリーン

 レディはニヤリと口角を上げる。


「でも、ごめんなさい。黒いのはレオの担当だったわね」


 レディの謝罪に対し――お好きなようにどうぞ――と、無言で返すレオニス。


 そんな二人の態度に翠魔導士グリーンが怒りを滲ませる。


「ふざけおって……」

「あら、お気に召さない? じゃ、これはどうかしら?」


 そう言や否や。レディは右手で左上腕のギアを回した。

 すると、瞬く間に変形仕掛けの左腕が8連銃身のガトリング砲に組変わる。 

 間髪入れず、彼女はアステロープが射出する弾倉ドラムマガジンを装填。

 一瞬、後ずさる翠魔導士グリーン

 が、有無も言わせず怒涛の射撃が始まる。


_人人人人人人人人人_

> BRRRRRRRRP!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 高速回転に乾いた唸りを上げる黄金色の多銃身。

 薬莢が飛び跳ねるようにバラ撒かれる。

 群れを成して襲い掛かる7.62mm。

 翠魔導士グリーンは霊子力の盾でそれを阻む。

 が、お構いなしにレディは撃ちまくる。

 そして、480発/分の破壊力はリボルバーを遥かに凌駕していた。


 やがて、ひび割れる空間。

 生き物のように蠢く亀裂。

 霊子の盾は、脆くもガラスの如く砕け散った。

 遮るものが無くなった銃弾は、言うまでもなく翠魔導士グリーンをハチの巣にする。

 そして、壊れる人形さながらに後方へと吹き飛ばした。


_人人人人人人人人_

> DA-BOOOM!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


 凪ぐ風のように回転を緩めるレディのガトリング砲。彼女は、倒れる翠魔導士グリーンの元に歩みながら淡々と語り始めた。


「どんなに固い盾でも、それ以上に強い鉾の力が加われば砕けるのが道理。その証拠にレオのブレードはシールドを貫いた。でしょ?」


 小首をかしげ、僅かにあごを返して同意を求める彼女。その問いにレオニスが頷く。


「ま、確かに……」


 レディは瀕死の翠魔導士グリーンを冷ややかな眼差しで見下ろした。そして、その血に塗れた胸元を肌ける左脚で踏みつけると体重を乗せる。ブーツの踵がめり込み、翠魔導士グリーンが更に血を吐き出す。


 彼女は再び右のリボルバーを抜くと、翠魔導士グリーンの眉間を狙って真っすぐに腕を伸ばした。


「勉強不足だったみたいね、魔法使いの、いいえ、エルフの坊や」


 そんな彼女に、翠魔導士グリーンが往生際の悪さを見せる。


「私を殺した所で、代わりは幾らでもいるぞ」

「そうみたいね」

「どのみち、オマエ達は死ぬのだ。ハイエルフ様の、手によってな」


――ハイエルフ?――


 レオニスが反芻はんすうし呟く。しかし、レディは当然の如く切り返した。


「それも勉強不足ね。百年の昔から、エルフはギア騎士団ナイトが葬ってきた。その一人が、このワタシ。ダイアナ・アヴァロンよ!」


 彼女の言葉に瞳を大きく見開き、怨嗟えんさの表情を見せる翠魔導士グリーン


「売女め……」


 が、レディは優しく微笑み返す。


「それともうひとつ。その()()って言葉。ワタシのような淑女には禁句よ、()()()


 次の瞬間。冷酷な微笑と共にリボルバーのトリガーは引かれた。




\!人人人人人!/

≫ BANG!! ≪

//iY^Y^Y^Yi:\






【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】 Gear#03:Lady Avalon 後編【完】


 つづく

〖Name〗

*レディ・アヴァロン(ダイアナ・アヴァロン)


〖Character〗

*栗毛色の髪にエメラルド色の瞳

*ヘアバンド代わりのアンティーク・ゴーグル

*白く上等なシルクのパフスリーブ・ブラウス

*リベット打ちの鰐皮ビスチェ

*焦げ茶色のドレープをあしらった前開きのマーメイド・スカート


〖Weapon or Item〗

*スチーム・リボルバー×2

*変形仕掛けの左腕が8連銃身のガトリング砲に組変わる

(480発/分の7.62mm)


〖Small talk〗

*旧世界科学が造りだした”Emerald”(エメラルド)に感染

*ハイエルフのカウンターパートであるダーク・エルフとなった

*年齢不詳(レオニス曰く100歳近いらしい)

*レオニスの育ての親

*都市国家軍での最終階級は中将


(追記あり)


【予告】


†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†

$次回、「Gear#04:Ruby&Red 前編」


      挿絵(By みてみん)


――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――

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