Gear#14:The Guns of Avalon[後編]
Ⅲ
「オリジナルの”Ruby”!!」
ベレロフォンの姿を見て一瞬の戦きに怯むリーン大佐。それは既出の通り、ハイエルフの相克関係で言う”Sapphire”の天敵”Ruby”が故であった。
が、リーン大佐は闘争本能を剥き出しにすると、己を叱咤するように唸った。
「例え相手が”Ruby”でも負けはせぬ! 我はハイエルフを超える存在。蒼魔導士ブルー・リザード!!」
リーン大佐は、残る右の瞳を蒼暗い眼光に染めると、馬上から空へと飛んだベレロフォンに立ち向かった。
ベレロフォンが叫ぶ。
「”Sapphire”! 死ねえええええ!!」
ヾ\!人人人人人!//レ
_\人人人人人人人人人/_
>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<
 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄
フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ
彼女の左手から放たれる渾身の雷撃。
それを受け、両手に霊子力の盾を立て対抗するリーン大佐。
が、それは紅魔導士に撃ち放った雷の槍であった。
阿吽の呼吸で爆裂するレオニスのスチーム・ジェット。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_:i\゜○
挟撃に爆進するホバーリング。
槍はリーン大佐の手前で破裂すると、網の目を張って大きく広がった。
――ナニっ!!――
ヾ\!人人人人人!//レ
_\人人人人人人人人人/_
>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<
 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄
フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ
超高電圧がリーン大佐を覆って封じ込む。
だが、彼女は苦悶の唸りを怒声に変える。
_人人人人人人人人人人人人_
> ヌヲオオオオオッ!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
解放される霊子力。
体全身に瞬く蒼白の稲光。
彼女は旋の風を体内から逆巻くと、ベレロフォンの雷撃を押し返す。
しかし、その隙をついて間合いを詰めたレオニス。その黄金色のブレードが、リーン大佐の心臓を背中から胸へと貫いた。
――!!――
嵐の前の静けさのように、凪いでゆくリーン大佐の霊子力。
まるで、それは全員の時が止まったかのような静寂を生んだ。
†* † *†
決着は瞬く間に着いたかに思われた。
――な、!?――
が、そう驚嘆の声を漏らしたのはレオニスだった。
それは魔導士の胸を貫いた時。
あの胸にインプラントされた石を砕く感覚。
いつも感じた、ある筈の手応えの無さからであった。
そんな彼に、怒りで開かれた右目を振り向けるリーン大佐。
彼女は不気味な笑みを浮かべると瞳を煌めかせる。
途端。リーン大佐の左手に膨れ上がる稲光。
「レオ! 離れて!!」
危険を察するレディが後ろから叫ぶ。
――やべェ!!――
レオニスが逆噴射全開で離脱を図る。
○。\!Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOMB!! )
○゜//i人_人_:i\゜○
ブレードの抜けた上体を返すリーン大佐。
振り向き様。彼女は背後のレオニスに雷撃を撃ち放った。
_人人人人人人_
> BZZZZT!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
轟く雷に打たれレオニスが吹き飛ばされる。
「レオオオオオ!!」
叫ぶベレロフォン。
レオニスは後方にいたレディの左手十数㍍先に転げ込んだ。直ぐさま駆け寄る彼女が、彼を抱き起こす。
「レオ!?」
すると、無意識に左腕のブレードを構え直すレオニスが大きく息を吐いた。
「ふいいいいいっ! アブねえ、アブねえ。ネオブラスじゃなかったら丸焦げだったぜ……」
雷撃の瞬間。レオニスは逆噴射と同時に僅かに体を左にずらし、ブレードを盾代わりに雷撃を往なした。だが、その威力は想像以上だった。そして、弾ける電撃の飛沫は、彼の防電フロックコートを焼いてもいた。
「レオ、どういうこと?」
レディの腕の中でレオニスが答える。
「分からねえ、手ごたえが無かった」
†* † *†
レオニスの無事を確認したベレロフォンが、リーン大佐との間合いを詰める。
そして、すかさず牽制の雷撃を撃ち放つ。
それを同じく雷撃で迎え撃つリーン大佐。
その電撃戦が応酬される間に体制を立て直すレオニス。
「奴はゾンビか?」
「かもね。いずれにしても急所を突き止めないと」
「だったら首を撥ね落とすか、頭を砕くまでだがな……」
「頭?」
その時。レディの中で何かが閃いた。
「レオ、奴を壁に追い込める!?」
「壁?」
「いいから。城壁に追い込むの!」
「あ、ああ、OK! ナンだかわからねえけど、やってみるか!」
瞬間。
○。\!Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOMB!! )
○゜//i人_人_:i\゜○
雷撃戦に足を止めるリーン大佐に向かってホバーリングするレオニス。
彼は背後からブレードの斬撃を放った。
それを高速移動で躱すリーン大佐が、右手のアヴァロン城に向かう。
それはレディの作戦を遂行するレオニスの計算通りであった。
そして、ベレロフォンと擦れ違い様。
「ヤツを壁に追い込む」
囁くレオニスに頷くベレロフォン。
「狩りの要領だな」
次の瞬間。左手首のギアを回しギア・チェンジを駆けるレオニス。
唸りを上げる機械音。
左右、後方に張り出して広がり組変わる機械義足。
同時に開く大腿部側面の遮蔽板シールド。
姿を現す3連のバーニア・スラスタ。
_人人人人人_
> DOMM!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
「本日二度目のスケイターズ・パンクだぜ!」
†* † *†
爆裂するスチーム・ジェット。
氷上を滑るような高速スラローム。
リーン大佐を追うレオニスが斬撃を繰り出す。
霊子力の高速移動。
ベレロフォンが逃げ道を塞ぐように雷撃を撃ち放つ。
二人のそれは、まるで獲物を追い詰める狩人のようでもあった。
そうとは知らず、応戦しながらも移動を繰り返すリーン大佐。
やがて、彼女はアヴァロン城の城壁に行き詰まる。
――!?――
壁を背にするリーン大佐。
「クソッ!」
そこで初めて、彼女は自分が罠に掛かっていることに気付いた。
「追い詰めたぜ!」
左からブレードを構えて爆進するレオニス。
「もう逃げられんぞ!」
右から雷を携え襲い掛かるベレロフォン。
再びの挟撃。咄嗟に逃げ道を前方に見出すリーン大佐。
が、突然。その逃げ道を、最後の霊子力を振り絞って高速移動で現れたレディ・アヴァロンが塞ぐ。
――!!――
「これで終わりよ!」
間髪入れず。リーン大佐の眉間に狙いを定めて火を噴くスチーム・リボルバー。
_人人人人人_
> BANG! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
発射される弾丸。
それを霊子力の盾で防ぎに入るリーン大佐。
が、そのライフリングにツイストする弾丸は最後の一撃。
霊子力を充填したネオブレス製の霊子弾。その二発目だった。
螺旋に霊子の尾を引いて壁を擦り抜ける黄金色の弾丸。
――しまった!!――
条件反射で顔を背けるリーン大佐。だが、それは彼女の左目。黒皮の眼帯目掛けて弾道を描いた。
それは最大最後のチャンスをモノにしたレディの勝利に思えた。しかし、運命の悪戯か? 無意識に反応し翳したリーン大佐の右手を貫く弾丸は、僅かにその弾道を左にずらす。
銃弾は彼女の腕骨を突き抜けると軌道を逸らし、蟀谷を掠めて石の城壁に突き刺さった。
†* † *†
運を味方に付けたリーン大佐にとって、霊子力の限界を迎えていた”Emerald”は物の数では無かった。
――残念だったな、レディ・アヴァロン―
_人人人人人人_
> BWOOM! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
炎撃を撃ち放ち、レディを飛び越え挟撃から逃げを図るリーン大佐。
「レディ!」
炎に包まれるレディ。彼女は残る僅かな霊子力で抵抗する。
が、消えぬ炎。
レオニスはコートを脱ぎ去り消しに走る。
ただ、逸早くベレロフォンが、燃え上がる炎を霊子力で引きはがした。
酸欠に咽て崩れるレディ・アヴァロンをレオニスが抱き抱える。
「レディ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫。それより、切り札が無くなった……」
そう悔恨の念をレディが滲ませた時だった。
「切り札? 切り札ならココにいるだろ! それに、もともと奴はワタシの獲物だ!」
そう嘯いたのはベレロフォンだった。
「アレを見ろ……」
そう言って、彼女が指さしたリーン大佐。その眼帯は蟀谷のベルトが切れて地に落ちていた。そして、剥き出しになった彼女の左目には、青紫色の煌めきを見せる小さな石が嵌め込まれていた。
†* † *†
「あれが奴のゴースト・ジュエル!?」
呟くレディ。
「なるほど、心臓を貫いても死なない分けだ……」
レオニスが続ける。
「だが、急所さえ分かればコッチのモンだぜ!」
改めて戦闘態勢を取るレオニス。しかし、ベレロフォンが否定する。
「違うな……」
「違う?」
「アレはワタシが探している石じゃない」
「な!? どういうことだ?」
「いや、確かにアレが奴の急所なんだろう。だが、ワタシの探している石じゃない。奴も模造品だ!」
その言葉を聞いたリーン大佐、いや、蒼魔導士が憤る。
「模造品だと! またしても、我を愚弄するきか!?」
それを歯牙にもかけぬ体でベレロフォンが返す。
「”Sapphire”は”Sapphire”でも、所詮は亜種のハイエルフ。拍子抜けだな」
「ナニィ……。我はオリジナルの、いや、オリジナルを超える力を手に入れた至高の存在! ”Ruby”であるオマエも共に葬ってくれるわ!」
しかし、再びベレロフォンは、馬鹿にしたように鼻で笑った。
「オリジナルだとぉ……」
歩み出るベレロフォン。彼女はレオニスに囁いた。
「ワタシが奴の動きを止める。合図したら奴を殺れ……」
「ああ、任せろ……」
そんな無造作な彼女に、レディが忠告する。
「ベレロフォン。手ごわいわよ……」
が、またも太々しく、どこ吹く風とベレロフォンは言い放つ。
「”Sapphire”を狩る”Ruby”。そのオリジナルの戦い方を見せてやる……」
†* † *†
瞳に赤い炎の煌めきを揺らし、リーン大佐に牙を剥くベレロフォン。彼女はイキナリの雷撃を仕掛ける。
「死ね!」
ヾ\!人人人人人!//レ
_\人人人人人人人人人/_
>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<
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フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ
それを雷撃で受け返すリーン大佐。二人の雷が中空でぶつかり火花を散らす。
「オリジナルの”Ruby”もこんなものか?」
「馬鹿目、掛かったな!」
「ナンだと!?」
リーン大佐の疑問も束の間。稲妻で繋がった二人が次第に距離を縮める。それは、眩く迸る稲光の鎖をベレロフォンが手繰り寄せているようであった。ただ、それは引き寄せるというより、彼女自身が雷を左腕に呑み込むように近づき歩を進めていた。
「ナンのマネだ!?」
見えぬベレロフォンの意図に、距離を取ろうとするリーン大佐。が、自らが放った電撃が止まらない。また、繋がった稲妻を断ち切る事も出来なかった。
「な、何故だ!?」
狼狽えを見せるリーン大佐。
間もなく、ベレロフォンの左手が大佐の右手を鷲掴む。
「捕まえたぞ!」
それを嫌うように左の炎撃を撃ち放つリーン大佐。
だが、その手も右手で鷲掴むベレロフォン。
そして、血に飢えた邪鬼の如く囁いた。
_人人人人人人人人人人人_
> 細胞破壊対消滅! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
途端に輝度を上げるベレロフォンの左手。
対抗するようにリーン大佐も霊子力を上げる。
だが、それに構わずベレロフォンが更に上げる。
それは次第にプラズマの火花を散らすと、臨界点を迎えるように彼女らの腕を太く膨張させ始めた。
その光景を目の当たりにし、後ろでレディを抱き支えるレオニスが呟く。
――ナ、ナンダ?――
ベレロフォンが囁く。
「まずは右腕からだ!」
瞬間。弾ける光に二人の右腕と左腕が爆発して消滅する。
_人人人人人_
> BAMM!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
苦痛を感じない筈のリーン大佐が嬌声を上げる。
――グアアアアアッ!!――
そして、次の瞬間。
ベレロフォンの増殖細胞は、己の左腕を瞬く間に再生させた。
驚愕の戦いに目を見張るレディ。
――これが、肉体の対消滅戦――
ハイエルフ間に横たわる相克の関係。”Ruby”は”Sapphire”に勝る。それは共に攻撃系の霊子力で行われる肉体の対消滅戦。
「次は左腕だ!」
「ヤ、ヤメロ!」
想定外の戦いに恐怖を見るリーン大佐。しかし、容赦なくベレロフォンの言葉が響き渡る。
_人人人人人人人人人人人_
> 細胞破壊対消滅! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
激しく燃え上がるベレロフォンの右腕とリーン大佐の左腕。炎は達する超高熱に、再び二人の腕を膨張させると破裂するように消滅させる。
_人人人人人_
> BAMM!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
――グアアアアアッ!!――
うめき声に後ろへと弾け飛ぶリーン大佐。
失った己が右腕が再生するよりも早く、ベレロフォンが叫ぶ。
「レオ! 今だ!!」
「喜んで!!」
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_人_:i\゜○
全開で爆裂するレオニスのスチーム・ジェット。
しかし、リーン大佐が最後の抵抗に出る。
_人人人人人人人人人人_
> 霊素粒子対消滅! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
その左目から発せられる黒い炎。
_人人人人人人人人人人_
> 霊素粒子対消滅! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
それをベレロフォンが相殺する。
頭上を飛び交い渦巻く黒い炎。
それを、またも最速で擦り抜けるレオニス。
その刹那。
\!人人人人!/
≫ THUK!! ≪
//iY^Y^Yi\
黄金色に輝くブレードの切っ先が、リーン大佐の左目を捉えて貫いた。
粉々に砕けて風に流れる青紫色のゴースト・ジュエル。
_人人人人人人人人人人人_
> HOOOOOOOOWL!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
そして、遠吠えのような断末魔が切れた時。仁王立ちにリーン大佐が、ゆっくりと背中から倒れ返った。
死者の霊魂を慰め鎮めるが如くレオニスが囁く。
「死人のハイエルフか……。人間、生きてるうちが華だぜ……」
【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】
Gear#14:The Guns of Avalon[後編]【完】
つづく