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Gear#13:The Guns of Avalon[中編]

      挿絵(By みてみん)




   Ⅱ




 三人の後退を確認し、リーン大佐との間合いを測るレディ・アヴァロン。


 右手には、縦横に分厚く陣形を組む敵機械機甲師団の第三群が控えている。その僅か後方上空には、未だ機械戦闘艦が砲身を城へと向けていた。ただ、一様に皆。二人の戦いを固ずを呑むように伺っているようでもあった。


 ガトリング砲の左腕をリーン大佐に向け、沈黙を破るレディ。


「リーン大佐。まさかアナタがハイエルフだったとはね? まんまと騙されたわ」

「レディ・アヴァロン。キサマが”Emerald”(エメラルド)である限り、”Sapphire”(サファイヤ)であるこの私に勝つことは不可能!」


――やはり”Sapphire”(サファイヤ)?――


 ハイエルフ間に横たわる五行説の如き相克の関係。それを知っているリーン大佐。俄かに沸き上がる疑問を感じつつ、品定めをするようにレディは言葉を重ねる。


「あらぁ、それを紅魔導士レッド・サーペントは知らなかったみたいだけど?」

彼奴あやつと一緒にされては困る。私は、あの御方に寄ってオリジナルの力を授かったのだ」


――あの御方?――


 未だ見え隠れする黒幕の影。更にレディは探りを入れる。


「それにしても、翠魔導士グリーンが言っていたけど、アナタたちが聖職者とは悪い冗談ね」

「我々は人間を超える至高の存在。それを生み出したあの御方は神にも等しい」


――神? やはり裏で総本山と繋がりが?――


「さあ、それはどうかしらね? 紅魔導士レッド・サーペントは模造品だったみたいよ。アナタは大丈夫かしら?」

「キサマ、我を愚弄する気か?」

「アナタの理屈で言えば、オリジナルの”Emerald”(エメラルド)であるワタシに勝てる気でいるように聞こえるけど?」

「愚かな。”Emerald”(エメラルド)であるキサマに、”Sapphire”(サファイヤ)である我を倒す術は無い。それはキサマが一番分かっている筈」


 ハイエルフ同士の戦い。それは肉体と霊素粒子の対消滅戦。


 ”Sapphire”(サファイヤ)が持つ霊子力は攻撃系である。一方、HEALER(ヒーラー)的な回復や治癒を主とする”Emerald”(エメラルド)の霊子力は防御系と言える。言い換えるなら、盾しか持たない”Emerald”(エメラルド)”Sapphire”(サファイヤ)を攻撃する鉾を持たないのである。


 因みに、その”Emerald”(エメラルド)の霊子力は”Ruby”(ルビー)が誇る増殖細胞を不活性化させ、更には退行させる事が出来る故の相克関係にある。


「さあ、それもどうかしらね?」

「いくら強がっても、それは無駄な足掻き」

「あらそう? じゃ、試してみる? 左腕が()()()()()()()”Emerald”(エメラルド)をっ!」


 瞬間。黄金色の多銃身が高速回転に唸りを上げる。

 同時に発射される8発の7.62mm弾。


_人人人人人人人人人_

> BRRRRRRRRP!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 襲い掛かる銃弾をリーン大佐が霊子力の盾で防ぐ。

 そして、それは言うまでも無く、翠魔導士グリーンのそれを遥かに凌ぐ頑強さであった。


 中空に留まる弾丸の群れ。

 が、その中から一発だけ。

 霊子力の壁を通り抜ける銃弾があった。

 それは予期せぬ大佐の頬を掠めて後方へと飛んだ。

 

――なっ!!――


 驚愕に信じられぬといった表情で固まるリーン大佐。それを見てニヤリとほくそ笑んだレディ・アヴァロン。


――良し、ハマった――


 してやったりと、彼女は眼光を鋭く煌めかせる。


「どう? 霊子力を無力化する霊子弾の味は?」

「霊子弾、だと……」




†*        †        *†




 ハイエルフ研究の第一人者であるレディ・アヴァロン。同時に彼女は、Mr.ファザーとDr.ディアンらの協力を得て、対ハイエルフ用の霊子力研究も進めていた。

 そして、まだ道半ばではあるが、レディが発する霊素粒子の運動エネルギーを薬莢に充填し、敵の霊子力を無効化する弾丸を開発していたのだ。


 先にガトリング砲から発射され、リーン大佐が生み出す霊子力の盾を通り抜けた一発がそれである。


「8発に1発。霊子弾が混ざってるわよ。精々頑張って躱すのね!」


 そう言って、間髪入れずガトリング砲の次弾を撃ち放つレディ。しかし、それは彼女のハッタリでもあった。と言うのも、彼女が持つ完成した霊子弾は二発のみ。高度な霊子力技術と、それを成形する加工技術は、今時代にあって困難を極めた。


 そして、残る一撃。それは彼女の巻き上げた髪に仕込み隠され、奥の手として最大のチャンスを伺ってもいた。


 ただ、そのブラフは戦いをレディ・アヴァロン優位に運ばせる。霊子の盾を使えないリーン大佐であれば、通常の弾薬でも急所さえ分かり捉えれば倒すことが出来る。

 その思惑通り。リーン大佐は霊子の盾ではなく、高速移動で銃撃を躱す。そして、高速移動を使えるのは、ハイエルフの”Emerald”(エメラルド)であるレディも同様であった。


 ここから二人は、高速移動戦を展開する。まるで瞬間移動を繰り返すよう、彼女らは間合いを保ちつつ銃撃と雷撃を交互に撃ち放つ。


 繰り返される駆け引き。全ての攻撃を高速移動で躱すリーン大佐より、霊子の盾を使えるレディが優勢かと思われた。


 だが、生きた生身の体に掛かる高速移動の負担は確実に彼女の体力を奪い、精神力さえも消耗させていった。他方。痛感覚も持たず、自律神経系を必要としない死人の”Sapphire”(サファイヤ)であるリーン大佐。その差は、全身を覆う疲労となってジワジワと現れ始める。


 やがて、度重なる急激な加速と減速に軋む体が悲鳴を上げる。走る激痛にも足が止まり始めるレディ。


 そんな彼女の異変を察知するリーン大佐が嘲笑う。


「どうした”Emerald”(エメラルド)? 息が切れているようだが?」


 確かに、レディの顔には疲弊の色が深く滲んでいた。荒れる呼吸は、彼女から言葉をも奪っていた。


「どうやら、当てが外れたようだな?」


 それはリーン大佐の言う通り。そもそもハイエルフ間に横たわる相克の関係上、”Emerald”《エメラルド》であるレディが絶対的に不利であった。その彼我の差を埋めるべく、”Sapphire”(サファイヤ)であるリーン大佐から霊子の盾を剥がし取った筈であった。。

 が、そのアドバンテージを持ってして尚。亜種のハイエルフ蒼魔導士ブルー・リザードの実力は、オリジナルに匹敵する程のものであった。


「そろそろ終わり? ねえ、”Emerald”(エメラルド)?」


 満を持したかに仕掛けるリーン大佐。その右目が蒼暗い煌めきに染まる。そして悪意に満ちた不気味な笑みに、おぞましき旋律の言葉を歌う。


_人人人人人人人人人人_

> 霊素粒子対消滅ゴースト・ アナイアレイション! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 途端、リーン大佐の両手に燃え上がる巨大な黒い炎。それは幾重もの渦を巻いて集束するとレディ・アヴァロンに放たれた。




†*        †        *†




_人人人人人人人人人人_

> 霊素粒子対消滅ゴースト・ アナイアレイション! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 同じく、瞳にエメラルド色の炎を燃やし、対消滅戦に挑むレディ。しかし、その明らかに不利な形勢は変わらぬものであった。


 既に、霊子力を駆使した高速移動で体力と精神力を消耗しているレディ。生身の体を保つ為、己が回復を図りつつ打ち出す霊子力運動エネルギーを、リーン大佐のそれは僅かだが上回っていた。


「どこまで持つかな?」


 更に勢いを増して放出される黒い炎。対抗するレディの炎が霊素粒子を相殺し、それを打ち消してゆく。


 尚も無尽蔵に変換され押し寄せるリーン大佐の霊子力に、次第に押され始めるレディ・アヴァロン。その黒き炎の中で蠢く目に見えぬ力。伸し掛かる圧力に潰されるように彼女は片膝を折った。


 その様子を見て、レディの左。これまで後方に控えていた敵機械機甲師団の第三群が進軍を始める。その歩みは遅々としたものだが、今にも堰を切って雪崩れ込むかのような高揚感を伴っていた。

 おそらくは、レディ・アヴァロンがリーン大佐に屈して地に倒れ伏す時が、一斉攻撃の号令となる事を承知しているかのようだった。


 早々に勝利を確信するリーン大佐。彼女は勝ち鬨の声を上げる。


「オールド・ビショップ! 貴方が生みし、()()と呼ばれる我らが、遂に旧世界の()()()()()を破る時が来た!」


 が、この窮地にあって、レディ・アヴァロンは薄い笑みを浮かべた。


「やはり、オールド・ビショップか……」


 オールド・ビショップ。それが黒魔導士オールド・タイプ翠魔導士グリーンなどのエルフ。紅魔導士レッド・サーペント蒼魔導士ブルー・リザードら、ハイエルフと呼ばれる魔導士ソーサラーたちを生み出した何者かであることは察しがつく。そして少なからず、その名をレディ・アヴァロンは知っている風であった。


 そして、それは噛み殺すような笑いとなって口から零れた。


 リーン大佐が言う。


「何がオカシイ? 勝てぬと分かって気でも触れたか?」


 それを笑い飛ばすかにレディが嘯き返す。


「これで勝ったつもり? リーン大佐!」

「なんだと?」

「やはりアイツは生きていたのだな!?」

「それを知ってどうする? キサマはここで死ぬのだ」

「死ぬ? さあ、それはどっちの話かしら?」


 そうレディが、更に不敵な笑みを含んだ時であった。

 リーン大佐の背後。

 まるで北の地平線を引き裂くよう、爆発音と共に土煙が舞い上がる。


○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○

( KA-BOOOOOOOOM!! )

○゜//i人_人_人_人_:i\゜○


 その中を突き破り、爆裂する蒸気を携えて一筋の砂塵が地を走る。それは一直線にリーン大佐を目掛け爆走すると、自己最速を叩き出して一気に間合いを詰めた。


「記録は破るためにある! ってのは本当だな!!」


 そして、黄金色に輝くネオブラスのブレードを疾風の如く突き上げる。


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_

> 待たせたな! ヒーロー様の登場だ!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


 それはシャングリラ別邸で紅魔導士レッド・サーペントを葬り去り、ジャンヌの愛馬ラピュセルで急ぎアヴァロン城への帰還を目指していたレオニス・アルファであった。


 レディとの攻防、遣り取りに気を取られて時間を掛け過ぎていたリーン大佐。彼女はレオニスの攻撃を咄嗟に高速移動で躱すと距離を取った。


 瞬間。霊素粒子対消滅ゴースト・ アナイアレイションの呪縛から解き放たれるレディ・アヴァロン。


「悪いわね、リーン大佐! 時間を稼がせて貰ったわ!」

「キサマッ! 初めから!?」


 次の瞬間。


 ヾ\!人人人人人!//レ

_\人人人人人人人人人/_

>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<

 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄

 フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ


 まるで地雷原が次々と爆発し地面が波打つように、北側から巨大な雷撃が敵機械機甲師団第三軍を襲う。天にも轟く轟音。地響きに震える大地。そして、その中央を左右の両手に雷を纏い、ラピュセルに跨り疾走するベレロフォン・アウリルがいた。


_人人人人人人人人人人人人人人人人人_

> ”Sapphire”(サファイヤ)! ()()見つけたぞ!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄






【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】

 Gear#13:The Guns of Avalon[中編]【完】


 つづく

【予告】


†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†

$次回、†* 第一部 アヴァロンの狩人たち *†最終話

Gear#14:The Guns of Avalon[後編]


      挿絵(By みてみん)


――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――

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