Gear#12:The Guns of Avalon[前編]
Ⅰ
『Laser Spike!』
機械戦闘艦から地に降り立った空兵隊リーン大佐。しかし、彼女は紅魔導士同様、狂気の旧世界科学に寄って何者かに生み出された亜種のハイエルフ蒼魔導士であった。
リーン大佐の両手から放たれた黒い炎。それを迎え撃ったコンドルマン。彼の放つ右の焼夷徹甲弾が、リーン大佐を目掛け漆黒の劫火を突き破る。
――!!――
が、リーン大佐は左手で霊子力の壁を作ると、いとも簡単に高速で襲い掛かる鋼鉄の矢を中空に押し留めた。
『ナニっ!?』
それを見たコンドルマンが、返す刀で左のLaser Spikeを繰り出す。
だが、彼が左腕を振りかぶった瞬間。浴びる霊子力の炎が、その抗う力を彼から奪い取った。
霊素粒子対消滅。霊素粒子運動エネルギーを対消滅に寄って失うサイボーグは、神経金属を介して動く己が体の制御を失う。
まるで糸の切れた操り人形のように、コンドルマンの左腕が脱力する。
『クッ、また見えぬ力に……』
そして、それは彼の脚力をも削ぎ落とす。黒い炎に包まれながら片膝を落とすコンドルマン。そんな彼にリーン大佐が冷酷な殺意を示す。
「モーリス軍曹。悪いがオマエには、ここで死んでもらう」
黒々と燃える霊子力の炎の中。尚も強靭な抵抗の意思を見せるコンドルマン。
『リーン大佐……』
「愚か者め、まだ私をリーン・ゲリオンだと思っているのか」
『どういうことだ?』
「あの時。リーン・ゲリオンは死んだ」
『死んだ?』
エデン・シティで起こった第二次異教徒戦争。当時、シャングリラから送られた援軍の一員として戦地に赴いたリーン・ゲリオン。そのインデッハ掃討戦で彼女は戦死した筈だった。
ただ、その時。何者かが放ったゴースト・ジュエルが、彼女の死体に接触し感染。左目も失い瀕死の状態ながらも息を吹き返した彼女は、全滅した友軍の骸を越えて駐屯する軍営に帰還した。
リーン大佐が続ける。
「そして、私は人間を超える至高の存在、ハイエルフ”Sapphire”へと生まれ変わった」
『生まれ、変わっただと……』
「そう。あの御方に御仕えする聖職の士。蒼魔導士ブルー・リザードとして生まれ変わったのだ」
『あの御方?』
「フッ、死んでゆくオマエが知る必要はない」
一笑に伏すリーン大佐。そうして、勢いを増す黒い霊子力の炎。それは驚異的な抵抗を見せていたコンドルマンから、最後の力をも奪って地を舐めさせるのであった。
†* † *†
が、その時だった。
――軍曹!!――
無線の叫び声と同時。
リーン大佐を狙って撃ち放たれる硬目標貫通砲。
_人人人人人人人人人_
> BUCHOOOOM!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
それはミセス・マシーン操る重機動外骨格VEGAから放たれた17ポンド主砲であった。
1,700m/secを越えるスピードで飛翔する装弾筒付翼安定徹甲弾。装弾筒から分離する合金の侵徹体がリーン大佐を貫く。
――!!――
だが、それをも遮ろうとするリーン大佐の霊子力の壁。
途端に周囲の空気が圧縮され高熱を帯びる。
押し留める左腕に迸る稲光。
走る雷は砲弾を捕らえるとプラスチックのように溶解させた。
――なんて奴だい!――
驚きに唸るミセス・マシーン。
「舐めるな! 我は紅魔導士とは違うぞ!」
叫び豪語するリーン大佐。
――そうかい! でも、力押しじゃ負けないよ!!――
怯みもせず、リーン大佐に向かいVEGAを前進させるミセス・マシーン。そして、至近距離から第二、第三撃を撃ち放つ。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( DOOM!DOOM!DOOM! )
○゜//i人_人_人_人_人i\゜○
再び。それを霊子力の壁で阻むリーン大佐。
猛る稲妻。
ただ、次に放たれた砲弾は劣化ウラン合金弾であった。
セルフ・シャープニング効果によっても威力を上げ、更に破細化した劣化ウランが高温で激しく燃焼する。それはリーン大佐をコンドルマンから押し下げ、一瞬で彼女を灼熱の炎に包んだ。
――殺ったか!?――
狭いコクピットで身を乗り出すように様子を伺うミセス・マシーン。
しかし、その灼熱の炎の中。瞬く蒼白のプラズマ光を携え吹き荒れる嵐。その渦巻く風の壁を纏い、怒り震える鬼神の如くリーン大佐は姿を現すのだった。
†* † *†
「なんてこったい、バケモンだね……」
呆気にとられるも早々に、ミセス・マシーンが次の手を打つ。
「じゃ、コレならどうだい!?」
――Concentrated Direction!――
彼女の思考を受け、VEGAの前方にあるミサイル・ランチャーが一斉に口を開く。そして、間髪入れず
「Fire!!」
_人人人人人人_
> BLAM!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
リーン大佐を狙って放たれる無数の蒸気噴進弾。
幾筋もの蒸気筋を引いて砲火が集中される。
ただ、それが直撃する目前。
リーン大佐が姿を消す。
「ナニィ! 消えた!?」
目標を見失い、散りじりに誘爆するミサイル群。
棚引く蒸気も手伝い、リーン大佐を見失うミセス・マシーン。
「どこだ!?」
その機体コクピットの窓、風防に顔を寄せて四方を見回す彼女。
するとVEGAのコクピット真上。ミセス・マシーンの頭上に、リーン大佐はトカゲが張り付くかに姿を現す。
「いつの間に!?」
霊子力による空気の熱膨張を利用した高速移動。驚くミセス・マシーンを尻目に、リーン大佐がVEGAへと直接雷撃を仕掛ける。
ヾ\!人人人人人!//レ
_\人人人人人人人人人/_
>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<
 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄
フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ
まさに雷が落ちたような大爆音を響かせ、奔る稲妻に機体が揺れ動き震える。吸電遮断防御が施されたネオブラスのボディではあったが、リーン大佐の雷撃はその許容量に迫っていた。
コクピット内の計器に火花が奔る。
「チッ、ヤってくれるね!」
間髪入れず、サソリの尾に当たるVEGAの主砲をリーン大佐に振り向けるミセス・マシーン。彼女は超至近距離からの砲撃を試みる。
しかし、その向けられた砲身を信じられぬ怪力で跳ね上げるリーン大佐。
そして、浮かべる不気味な微笑み。
魅入る彼女の右目に宿る蒼暗い炎の煌めき。
次の瞬間。
放たれる黒い炎がVEGAの機体全体を包み込んだ。
「ナッ? ナンだい!?」
瞬く間に電気系統のランプを落とし沈黙する機体。
神経金属を介して制御される機動外骨格が応答を断絶する。
そして、その霊子の力は機体を透過し、ミセス・マシーンにも干渉を始めた。
「やはり、これは!?」
先のジャンヌやコンドルマン同様。霊素粒子対消滅によって生気が奪われてゆくのを感じるミセス・マシーン。
その時。彼女の脳裏に過去の悪夢が甦る。
「あ、あの時と同じ、力か……」
†* † *†
15年前の第二次異教徒戦争。その首謀者であるインデッハ司教をはじめ、フォモール教原理主義信者たちの掃討戦で、彼女が率いる戦術火器小隊は全滅した。その時も、行方をくらました司教が行使する”見えない力”によって、まさかの敗北を喫したミセス・マシーンだった。
本来であれば、生還は望めぬ孤立した状況であった。最早、これで一巻の終わりかと思われた時。突如、援軍として駆け付けたダイアナ少将率いるアヴァロン軍。そのギア騎士団の奮闘で、彼女たち三人は九死に一生を得た。
「こ、こりゃ、まずいね……。意識が、もう……」
次第に薄れて遠のく視界。そう呟いて、重い瞼をミセス・マシーンは閉じようとした。その時。
VEGAに跨り霊子力の黒い炎を放つリーン大佐目掛け、7.62mmの銃弾が群れを成して地を奔る。
_人人人人人人人人人_
> BRRRRRRRRP!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
それは甲高い跳音を連ね、VEGAの機体をも駆け上がった。
――!!――
不意の銃撃を高速移動で咄嗟に回避するリーン大佐。
銃撃音は沈む意識の淵にいたミセス・マシーンを揺り起こす。
同時に叫ぶ無線。
――グリア・エズラ! 起きなさい!――
マジシャンズ・クロウが呟く。
――これは手荒い――
朦朧とする中。ミセス・マシーンが答える。
「誰だい? アタシに銃を向けて、呼び捨てにするヤツは?」
――寝ぼけてる場合じゃないわよ!――
幾分の呆れに笑みを含む声。
それは両脚裏のローラー・ホイールを回転させ、地を滑走するマジシャンズ・クロウの機動外骨格DENEB。その腕に横乗り、黄金色の8連ガトリング砲を構えるレディ・アヴァロンであった。
「これはこれは、少将殿……」
そう言った所でミセス・マシーンは正気を取り戻した。
「レディ!? そうだ、敵は!?」
――目の前――
慌てて機体の神経リンクを確認するミセス・マシーン。
VEGAを援護するよう、その前方へと走り出るクロウのDENEB。両肩に備えた十九砲身バルカンが、リーン大佐を更に遠ざける。
ハイエルフの霊子力から解放され再起動するVEGA。
「VEGA、神経リンク確認!」
だがしかし。DENEBの腕から颯爽と飛び降りるレディは、毅然とした口調で彼らに命令を下す。
「伍長は軍曹を回収! 曹長も後退せよ! 後は私に任せろ!」
それは15年前。あの時にも聞いたようなセリフだった。
「コイツの相手は、私がする!」
その鳥肌が立つような自信と殺気を含んだ声のトーン。それは、魔物とも言うべき力を退け、絶体絶命のピンチを救いし者。それは、今は無きギア騎士団。その団長であったレディ・アヴァロンの、あの雄姿をミセス・マシーンに彷彿とさせた。
――少将……。いや、レディ。了解した! 伍長、軍曹を頼む!――
――OK! 死んでなきゃイイけどな――
そうジョークに含みを持たせるクロウの言葉に、息も絶え絶えながらコンドルマンが応答する。
『悪いな、伍長。御礼は、何がイイ?』
多少の顔色を変えてクロウが返す。
――イヤイヤ、御礼だなんて。軍曹殿さえ元気でいて下されば――
そんな遣り取りを聞きながら、自信を覗かせる笑みを浮かべて歩を進めるレディ・アヴァロン。既にリーン大佐と睨み合いに対峙する彼女は、三人が背になるよう弧を描き間合いを詰める。
【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】
Gear#12:The Guns of Avalon[前編]【完】
つづく
〖Name〗
*蒼魔導士ブルー・リザード(リーン・ゲリオン大佐)
〖Character〗
*菱形の略式帽
*左目に黒眼帯
*濃紺を基調とした空兵隊の軍服
*士官用のシングル・ボタン・ジャケットに黒皮のベルト
*太腿の両脇が膨らんだ乗馬パンツにロングブーツ
*魔導士/ソーサラーの一種
*亜種Sapphireサファイヤ
〖Weapon or Item〗
*霊子力を利用した炎撃や雷撃を撃ち放つ事が出来る
*霊子の盾を使う事ができる
*自律神経を持たない死人の体は痛みを感じない
*霊素粒子対消滅ゴースト・ アナイアレイション
〖Small talk〗
*旧世界科学での呼称はハイエルフ
*遺伝子操作とインプラントによって生み出されたキメラ
*57年前の第一次異教徒戦争時に感染
(追記あり)
【予告】
†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†
$次回、†* 第一部 アヴァロンの狩人たち *†最終話
Gear#13:The Guns of Avalon[後編]
――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――