Gear#11:Blue or Sapphire
Ⅰ 戦場の大三角形
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒!//。○
( BLAM!BLAM!BLAM! )
○゜//i人_人_人_人_i\゜○
熾烈な砲撃戦を繰り返すアヴァロン城。その城壁砲台から、ありったけの蒸気噴進弾が、次々と敵艦に向かって撃ち放たれる。
その立ち込める蒸気を切り裂き、スチーム・カタパルトに依って射出されたコンドルマンの機動外骨格ALTAIR。まるで主翼を折り畳んだステルス戦闘機形の機械塊は、数百㍍先で格闘する彼を目掛け風を切る。
_人人人人人人人人人_
> ZOOOOM!!!!!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
何機目かの機動歩兵を打ち倒し、次なる敵を捜す巨漢のサイボーグ。
そこに猛スピードで飛来する鋼の大型円盤。
瞬く間に頭上へと迫るそれを、彼は振り向きもせず軽々と片手で受け止めた。
そして、迷わず己が背中へと装着する。
唸りを上げるギアの駆動音。
円盤上部と側部から迫り出し、両肩や脇腹に接続される鍵爪。
折り重なっていたU字型の上面が反り返る。
それは腰部を起点に接合されると、両足の裏側を覆うように鷲掴んだ。
『ALTAIR起動』
彼の呟きに、神経金属を介して起動するALTAIR。
排出される駆動蒸気に、畳まれていた可変翼が開かれる。
その一体となって融合した姿は、まさしく大翼を広げる猛禽類のようであった。
次に両腕を左右へと開き、天を仰ぐコンドルマン。
主翼と両脚に組変わって出現するバーニア・スラスタ。
途端、猛るスチーム・ジェットが爆裂する。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_:i\゜○
そして、巨漢のサイボーグは戦火の空へと上昇を始めるのだった。
†* † *†
蒸気噴進弾の砲撃を避ける機動飛空艇。その空けた高度に敵艦までの直線空間が出来上がっていた。
そこに達する飛行型機動外骨格は、VTOL機のように水平飛行へ移行すると更にスチーム・ジェットを爆裂させる。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOOOOMB!! )
○゜//i人_人_人_:i\゜○
その間。無防備となっていたコンドルマンを、ライフルで援護していたマジシャンズ・クロウ。それを見届けた彼は、己の機動外骨格へと飛び乗った。
「DENEB起動!」
密閉されたクロウが、神経金属を介して集散型機動外骨格DENEBと融合する。
機械駆動音を伴って立ち上がる漆黒の機動外骨格。
流線型の機体から駆動蒸気が排出される。
間髪入れずクロウが叫ぶ。
「Spartan Phalanx!」
機械音を上げて展開するDENEBの近接防御火器システムSpartan Phalanx。
「Fire!」
_人人人人人人人人_
> BRRRRRRP!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
両肩に背負う二連の十九砲身バルカンが、飛来する機動飛空艇のみならず、機動歩兵のロケットランチャー弾をも俊敏に撃ち落とす。
「まだまだ、これからだぜ!」
そう強気に嘯く彼は、城の北西塔から一気に飛び降りた。
着地するDENEBの地響きに舞い上がる土煙。
と同時。
「Grim Reaper!」
クロウの声に、DENEBのランドセルが無数に分裂して中空に射出される。その小塊は機械仕掛けに組み変わると、まるで羽を持つ機械昆虫のような姿に変形した。
「さあ、Babyたち。言う事を聞いてくれよ」
近接攻撃誘導システムGrim Reaper。
それは短距離無線で誘導される飛翔型極小ロボット群。
神経金属を介するマジシャンズ・クロウの思考が、それを自在に制御する。
_人人人人人人人人人_
> BUZZZZZZZZ!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
まるで魔術師が操るトランプの如く、中空を縦横無尽に飛び回るバグ・マシーン。それはアヴァロン城を攻撃する機動飛空艇に集散を繰り返し、蝗の群れが行軍するようにネオブラスの刃で鋼鉄の機体を噛み砕いた。
†* † *†
次々とコントロールを失い、機動飛空艇が墜落してゆく中。Grim Reaperを操るマジシャンズ・クロウに、地を駆ける敵機械機甲師団の第二群左翼が近づく。
それを迎え撃つのは無数のスチーム・パイプが連なり配された石の城壁。その開かれる巨大な鋼鉄の城門から発射された小型の地対地ミサイル群であった。
_人人人人人人_
> BLAM!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
幾つもの蒸気筋を引き、押し寄せる陸戦隊に降り注ぐ蒸気噴進弾。そして、蒸気冷めやらぬ城門の中。一際の排蒸気を吹き上げて大型の機動外骨格が姿を現す。
それはサソリを思わせる単眼の他脚型重機械戦車。ミセス・マシーンことグリア・エズラ曹長が操る重機動外骨格VEGAであった。
開口一番。ミセス・マシーンが無線に叫ぶ。
「伍長! 一気に蹴散らす。当たるんじゃないよっ!」
敵の砲撃を物ともせず、陸戦隊の中へとVEGAを急進させるミセス・マシーン。そして、彼女はVEGAの戦闘モードを切り替える。
――Circus Direction!――
それは重機動外骨格VEGAの腹や背中に抱える数多のミサイル・ランチャー、その地対地&地対空ミサイルによる無照準全方位射撃であった。
次の瞬間。神経金属を介した指令を感知するVEGA。機械仕掛けのミサイル発射口が一斉に開かれる。
「敵に回った不運を恨みな! Fire!!」
_人人人人人人人人_
> BLAM!!!!!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
別時の言葉と同時に、立体半球を描いて全方位に射出される小型蒸気墳進弾。それはVEGAを取り囲んでいた機動歩兵や戦車は勿論、上空を飛行していた機動飛空艇の逃げ道をも閉ざす。
†* † *†
一方。飛行型機動外骨格ALTAIRで飛翔し、猛スピードで敵空兵艦隊に向かっていたコンドルマン。それに気づいた機械鉄甲船が対空砲火を浴びせ掛ける。
しかし、それを巧みに回転回避する彼は、先行する左の鉄甲船を射程圏内に収めると、その艦橋に向かって左腕を振り向けた。
『Laser Spike!』
呟く瞬間。
その拳から圧縮蒸気を伴って発射される三連スパイク。
徹甲焼夷弾に撃ち抜かれる艦橋の強化ガラス。
が、尚も接近するコンドルマンに対空砲火が熱を帯びる。
だが、次の瞬間。
彼は艦橋に衝突する直前で急制動。
直立飛行を仕掛けると、亀裂の生じた艦橋の窓を目掛け拳を振り上げた。
_人人人人人人人_
> SMAAASH!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
撃ち抜く拳に砕け散る艦橋の窓ガラス。
勢いもそのまま飛び込むコンドルマン。
突然の来訪者に混乱する敵兵。軽機関銃で抗う者も居たが、彼は意に介する事も無く辺りを一瞥すると呟いた。
『Laser Cluster!』
それを感知するALTAIRが、内部に格納していた小型のロータリー・ランチャーを主翼側に張り出して攻撃態勢をとる。
そして間髪入れず、コンドルマンは無慈悲に呟く。
『Fire!』
_人人人人人_
> BUZZ!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
途端。ランチャーから射出される無数の球形集束爆弾。それは弾体の中の子弾である焼夷弾を弾けさせると艦橋内を灼熱に燃え上がらせた。
艦橋にある操舵機器類、壁や床までも熱溶解に貫くそれは、一瞬の内に軍船の指揮命令系統とコントロール機能を奪い去った。
やがて、誘爆の炎に黒煙を上げる機械鉄甲船二番艦。
その上空と地上との様子を、後方待機で伺っていた敵機械機甲師団の第三群。双眼鏡を片手に恐れ戦く歩哨が呆然と呟く。
「あ、あれは、戦場の大三角形。戦術火器小隊……」
Ⅱ Blue or Sapphire
同様に、アヴァロン軍の射程圏内を外れ、後方で戦況を見据えていた空兵隊リーン大佐の機械戦闘艦。
が、声を発したのは艦橋で指揮を執るキャプテン・リーンではなく、傍らの椅子で脚組に座する将軍らしき男だった。
「さすがは”王の剣”と言われたギア・ナイト。いや、今はギア・ハンターか……」
その鎧を身に纏う上官らしき男の横で、腰の後ろに両手を回し憮然と直立するリーン大佐。そんな彼女に別動隊からの伝令が入る。
それを目にし、苛立ちを上乗せる彼女。
「紅魔導士め、しくじりおったか」
「リーン大佐。やはり亜種ではオリジナルに勝てんか?」
「ジェネラル。お言葉ではありますが、所詮ヤツめはプロトタイプ」
「ほう、お主は違うと申すか?」
「この期に及んでは、この私、蒼魔導士が……」
「よかろう。お前もサファイヤならば、見事エメラルドを討ち取って見せよ」
踵を鳴らし、将軍に礼するリーン大佐。
「機械戦闘艦、右転進せよ!」
その指示を最後に、彼女は足早に艦橋を降りてゆく。
その消えゆく後ろ姿を眺め、ジェネラルと呼ばれる男が艦橋後方にいた艦長を呼び出す。そして、耳打ちするように囁いた。
「艦長。私は三番艦に移って戦線を離脱する。もし大佐が打ち敗れた時は、分かっておるな?」
男の瞳に宿る赤い炎の揺らめき。何かに魅入られ、取り付かれたかの様に艦長が答える。
「はい……。ジェネラル……、フェルドナン……」
†* † *†
敵機械機甲師団の第二群を押し返し、尚も殲滅すべく歩を進めるミセス・マシーン。彼女にマジシャンズ・クロウから無線連絡が入る。
――曹長! 北西に馬車確認!――
「やっとレディたちが戻ってきたようだね」
――俺が出迎える!――
「伍長、蠅を一匹も近づけるんじゃないよ!」
――Yes, Ma'am!――
散り散りとなりながらも未だ飛翔する機動飛空艇。レディの馬車を守るべく、Grim Reaperを伴ってマジシャンズ・クロウのDENEBが救援に向かう。
†* † *†
その時。爆発に大地へと沈みゆく敵機械鉄甲船二番艦艦橋から、何者かと縺れ合うようにコンドルマンが落下するのをミセス・マシーンが目の当たりにする。
「なんだい、ありゃ?」
中空で巨漢のサイボーグと遣り合う黒い人影。しかも、一対一には絶対の強さを発揮する筈の軍曹を押し込んでいる。
信じられぬという驚きにミセス・マシーンが無線を飛ばす。
――軍曹!――
コンドルマンの拳から発射されるレーザー・スパイク。
それを高速移動で躱す黒い影。
爆裂するALTAIRのバーニア。
間一髪。
地上への激突を免れるコンドルマン。
『リーン大佐!』
彼は無線をONにしたまま会話を続ける。
『いや、キサマ何者だ!?』
「ふっ、オマエ。そうか、モーリス軍曹だな」
その声を無線に聞いたマジシャンズ・クロウが呟く。
――隻眼の子爵令嬢?――
確かに、コンドルマンの目の前にはリーン大佐が立っていた。
茶褐色を基調とした騎兵隊に対し、濃紺を基調とした空兵隊の軍服。士官用のシングル・ボタン・ジャケットに黒皮のベルト。太腿の両脇が膨らんだ乗馬パンツにロングブーツ。そして、菱形の略式帽の下。その左目には黒眼帯。
ミセス・マシーンが問う。
――軍曹、何があった!?――
リーン大佐と対峙するコンドルマン。彼はALTAIRを脱ぎ捨て、戦闘態勢を取ると答えた。
『分からん。目に見えぬ力のようなモノに捕らわれた』
ミセス・マシーンが呟く。
――目に見えぬ力!?――
マジシャンズ・クロウが続く。
――インデッハ掃討戦。俺達が全滅した時のアレか!?――
その無線を、疾走する馬車の御者台で聞いていたジャンヌが割り込む。
――コンドルマン気を付けろ! そいつはハイエルフだ!!――
「「「「ハイエルフ!?」」」」
誰もが驚きに呟く中。ジャンヌが叫ぶ。
_人人人人人人人人人人人人人_
> 黒い炎だ! 黒い炎に! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
が、その言葉を聞き終える前。リーン大佐の右の瞳に宿る蒼暗い揺らめき。そして、その両手から立ち上る黒い炎。渦を巻く霊子の巨大な力が、コンドルマンへと襲い掛かった。
【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】 Gear#11:Blue or Sapphire【完】
つづく
〖Name〗
マジシャンズ・クロウ(フィンジア・ウスキアス)
〖Character〗
*ドラキュラ伯爵の様なシルクハット
*辮髪のスキンヘッド
*全身黒ずくめの戦闘服スーツ
*襟高の黒皮ロングコート
〖Weapon or Item〗
*高精度射撃用の機械眼
*体中に隠された小型銃器類
〖Small talk〗
*嘗ては王室近衛隊の軍人
*最終階級は少尉
*ドム・フェルドナン伯爵の息子ドム・フェルドナンJrの私生児
(追記あり)
【予告】
†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†
$次回、第一部最終回「Gear#12:The Guns of Avalon 」
――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――




