Gear#10:Sergeant Gunners
Ⅰ 戦術火器小隊
襲来する空兵隊機械軍船一個艦隊。迫りくる機械機甲師団の陸戦隊。その迎撃態勢を取る中。次第に緊迫するアヴァロン城の空気。満を持したかに、ミセス・マシーンことグリア・エズラ曹長が、北西塔に居るマジシャンズ・クロウことフィンジア・ウスキアス伍長を無線で呼び出す。
「伍長! 距離は!?」
――敵艦隊、距離1.5㍄。そろそろだぜ――
長距離の電波誘導弾を持たないこの時代。前時代的なレーダーを駆使し、通常の火砲で敵艦を確実に撃ち落とせる距離は、機械軍船の機動力などを考慮すると1000m程度。レール・ガンでは、それを格段に上回る。
ただ、搭載できる発電機出力と電磁誘導によって加速投射される弾頭重量の関係上、軍船が備えるレール・ガンの有効射程距離も無限とは言えなかった。それでも、これまでの倍である2000mを優に越えていた。
ミセス・マシーンが鼻で笑う。
「こっちにレール・ガンが無いと思って近づき過ぎたね。アウトレンジ戦法のつもりだろうが、先手打たせてもらうよ。蒸気噴進弾用意!」
蒸気噴進弾。それは火薬弾頭弾をより遠くへ、そしてより正確に飛ばす為、Mr.ファザーが開発した謂わば新型の対空対艦ミサイルであった。
「天才科学者の傑作を見せてやるよ……」
そう呟いた直後。
「一斉射! 撃てえええっ!!」
_人人人人人人_
> BLAM!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
ミセス・マシーンの号令に、城壁上部に設置された12連ランチャーから次々と蒸気噴進弾が発射される。それは時限式に蒸気ロケットを噴射すると、敵の予想を越えてスピードと飛距離を伸ばした。
間もなく。
ミサイルの群れが敵ダイヤモンド艦隊の先頭に位置する機械鉄甲船を捉える。
○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○
( BOM!BOM!BOM!)
○゜//i人_人_人_人_:i\゜○
直撃し、炸裂する弾頭の連なる爆発音。
忽ち上がる火の手。
猛烈な黒い煙を空に棚引かせ、軍船は大地へと沈没してゆく。
――被弾確認。敵中央機械鉄甲船、大破――
その姿を見てか、後続の機械鉄甲船が慌てて距離をとる為に後退する。だが、退きながらも、敵艦の応戦が始まる。
「レール・ガン、来るよ!」
叫ぶミセス・マシーンの言葉通り、敵艦の大型徹甲弾がアヴァロン城に降り注ぐ。が、混乱の中で撃ち返されたそれに正確性は乏しかった。とは言え、低い確率でも数発が着弾する。
その凄まじい破壊力に砕け飛ぶ石の城壁。薙ぎ倒されるスチーム・カノン。
「怯むんじゃないよ! 撃ち返すんだ!」
_人人人人人人_
> BLAM!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
歴戦の強者である彼女が士気を押し上げる。
「動けないコッチが不利だからね! 敵に的を絞らせるんじゃないよ!」
すかさず蒸気噴進弾の第二、第三撃が放たれるも、敵艦が回避運動する分、その命中率は下降する。
――被弾確認。右舷機械鉄甲船、中破――
それでも、マジシャンズ・クロウの無線報告にミセス・マシーンは平然として言う。
「ま、口火としては上出来だね」
――先ずは足止め成功、って所か――
「敵さんは、こっちの正確な射程距離を知らない筈だからね」
――さあて、次はどう出てくるか?――
†* † *†
互いの砲撃が散発に続く最中。西の城壁口から単身で乗り出したコンドルマンことモーリス・セミア軍曹。戴く猛禽の頭。纏う将校用のロングコート。特殊加工に燻されたブラック&モスグリーンのボタン・ダブルは、超硬の合金ネオブレスで編まれた鎖帷子。
また、自身の体もネオブレスである彼は、アヴァロン城から数百メートルの距離をとると、まるで無防備に仁王立つ。
そこに敵艦から降下した機械機甲師団の数個小隊がスピードを上げて接近する。中でも足の速いキャタピラタイプの機械戦車。その先頭のキャノン砲が彼に向かって火を噴いた。
強大な初速によって射出される運動エネルギー弾。
およそ1700km/秒ものスピードが唸りを上げる。
コンドルマンを狙う膨大な速度と質量エネルギー。
が、彼は前に押し出す掌で砲弾を受け止めると
_人人人人人_
> CRASH!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
その握力で一気に握り潰した。
ダーツ状の鋼鉄弾頭本体が、まるで空き缶のように潰れて拉げる。
その余勢を駆って走り出す巨漢のサイボーグ。
同時に彼は両肘にあるギアを回した。
『レーザー・スパイク』
彼が呟く瞬間。
Dr.ディアンが開発した神経金属を伝い、その闘争本能が全身を駆け巡る。
唸りを上げるギア。機械仕掛けの体。
そして、正面の敵戦車に向かって振り抜かれる右腕。
その拳から圧縮蒸気を伴って発射される三連の長針スパイク。
それは高速で空気に触れると発火する徹甲焼夷弾であった。
_人人人人人_
> STAB!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
熱溶解に装甲を突き破られ、被弾に迷走する戦車。
制御を失ったそれは、右に大きく逸れると爆発。
が、尚も後続の砲弾が彼を襲う。
しかし、繰り返し打ち抜く左右の拳が、それらを悉く木っ端微塵にしてゆく。
†* † *†
その両サイド。
地響きに砂煙を上げ、アヴァロン城に向かって走り抜ける機械機甲戦車群。
_人人人人_
> BAM!! <
 ̄Y^Y^Y ̄
だが、重く鈍い金属音を伴い、銃弾が車両の装甲を貫く。
アヴァロン城の北西塔見張り台。
マジシャンズ・クロウの対戦車ライフルによる狙撃であった。
インプラントされた彼の機械眼。
そこに接続されたルーペ・ゴーグルの精密な射撃管制。
蒸気圧利用のショートストロークピストンから放たれる14.5x114mm弾が、一台、そしてまた一台と戦車のコクピットを撃ち抜いてゆく。
同様に、ミセス・マシーン指揮による城壁からのカノン砲撃が、両翼に広がり始める敵を蹴散らして近寄せない。
†* † *†
進軍する敵陸戦部隊へと突き進むコンドルマン。
次に立ちはだかったのは、機動歩兵隊であった。
機動外骨格を纏う人型の歩行機械戦車が、群れを成して彼に襲い掛かる。
_人人人人人_
> BLAM!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
手にする機動歩兵用の携行ロケットランチャー。
次々と火花を上げ放たれる化学エネルギー弾。
成形炸薬弾であるそれは、着弾の爆発によって高温高圧のジェット噴流を引き起こす。
モンロー・ノイマン効果によって、ジェット噴流は秒速8kmの極超音速で約3000度に達する。通常であれば体内を完全に灼熱化させてしまう超高熱であった。
だが、ジャンヌ同様。熱伝導をも遮断する合金ネオブラスで全身を覆うコンドルマンには通用しなかった。
被弾にも構わず、熱風を押し切って突進するコンドルマン。
彼は進路を遮る機動外骨格歩兵に拳を振り上げる。
コンドルマン自身、2㍍を越える巨体ではあった。
が、直立すれば3㍍を優に超える機動外骨格歩兵。
しかし、それを撃ち抜く彼の拳は、外骨格の強化装甲をアルミのように陥没させると、1㌧もあろうかという巨躯を薙ぎ倒す。
_人人人人人_
> CRASH!! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
†* † *†
続く砲撃戦と地上戦闘の応酬。近づく敵を狙い撃ち、次々と弾丸の餌食に沈黙させるマジシャンズ・クロウ。彼が次なる異変を察知する。
――ん? あれは!?――
声のトーンは至って冷静だが、陣頭指揮を執るミセス・マシーンに緊急の無線が飛ぶ。
――曹長、新手だ! 機動飛空艇、機影多数確認!――
「ったく。どんだけ連れてきてんだい……」
苛立ちに舌打つ彼女が、今度はコンドルマンを呼び出す。
「軍曹! 蠅が出て来た。キリが無い、母屋を叩くよ!」
――Yes, Ma'am.――
「マッド・シチズン! 軍曹の機動外骨格は!?」
人体に装着される仕様の強化装甲に対し、通常それ自体が自立する機動外骨格。ほぼ搭乗するに等しい人間は、融合するように密閉される。
が、コンドルマン自身がネオブラスの装甲を持つ巨漢サイボーグである為、彼の機動外骨格は、体の後ろ側半分を覆う半機動外骨格であった。
また、ギア・ハンター有する機動外骨格は、駆動エネルギー源をMr.ファザーが開発したネオブラス製のスチーム・ユニットに改装されていた。
「半機動外骨格、スチーム・ユニット換装率50%!」
予め大型ボイラーからコンプレッサーを通してユニットに充填される蒸気エネルギー。その数平方センチメートルに満たない、超小型化されたユニット出力は実に400馬力を発揮する。
コンドルマンの機動外骨格は半機動外骨格であったが、フル換装であればスチーム・ユニットを四機搭載することが出来た。そして、それは実に1200tの貨物列車を牽引出来る程の高出力となる。
「軍曹、聞こえたかい?」
――充分だ――
「援護射撃後、半機動外骨格を撃ち出す。受け取りな!」
矢継ぎ早にマッド・シチズンらに向かって命令が飛ぶ。
「軍曹の進路を開く! 敵船に当たらなくてもいい、蒸気噴進弾用意!」
更にマジシャンズ・クロウへ。
「伍長、準備は!?」
――集散型機動外骨格、いつでも!――
「サビついてなきゃイイけどね。蠅は任せたよ!」
――Yes, Ma'am.――
その時であった。Mr.ファザーらと次なる一手を案じていた、若手ギア・ハンターの一人ヴィーナス。大型徹甲弾やロケット弾が降り注ぐ中。彼女がミセス・マシーンの元に伝令を運ぶ。
「ミセス・マシーン!」
「おや、ヴィーナス。そっちはどうだい!?」
「間もなくよ!」
「いいね、いいね。いいタイミングだよぉ!」
その知らせを受け、少し上気した表情でミセス・マシーンが嬉しそうに叫ぶ。
「ミンナ、ありったけのミサイルを撃ち込むよ! 軍曹の半機動外骨格をカタパルトで撃ち出したら、予定通り全員退避!!」
「「「「Yes, Ma'am!!!!」」」」
「一斉射いくよ! 撃てえええっ!!」
_人人人人人人人人人_
> BLAAAAM!!!!!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
砲弾飛び交い、弾け飛ぶ石の城壁。炎を上げて燃えるアヴァロン城。更に撤退準備に人が入り乱れる中。マッド・シチズンの一人が、慌て転がり込むようにミセス・マシーンに駆け寄って来た。
「曹長! 曹長!」
「ナンだい!? アンタも早く退避しな!」
「曹長の重機動外骨格は、西の城壁口でアイドリングしてまさあ!」
「換装は?」
「地対地、地対空、地対艦でフル装備っス!」
その知らせにニンマリと喜悦の笑顔を浮かべるミセス・マシーン。
「いいねぇ」
「ええ、ナンタッテ、最優先で整備させやしたから!」
「イイ子だよ」
そうして、最後の大号令が彼女から発せられる。
「野郎ども! 城はここまでだ! アタシも重機動外骨格で出る! 久し振りに暴れるよ!!」
【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】
Gear#10:Sergeant Gunners【完】
つづく
〖Name〗
*コンドルマン(モーリス・セミア)
〖Character〗
*猛禽の頭を持つ巨漢のサイボーグ
*機械声帯の低音ボイス
*特殊加工ブラック&モスグリーンの将校用ボタンダブル・ロングコート
〖Weapon or Item〗
*全身超硬の合金ネオブラス
*両の拳から発射されるレーザー・スパイク(徹甲焼夷弾)
〖Small talk〗
*嘗ては空兵隊の軍人
*最終階級は中尉
*グリア・エズラの恋人(故人)の友人
(追記あり)
【予告】
†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†
$次回、「Gear#11:Blue or Sapphire」
――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――




