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Gear#01:Gear Hunter

      挿絵(By みてみん)




 It's that of the distant past.

  (それは遠い昔の事だ)




   Ⅰ 蒸気の世界




 かつて高度に栄え、地上を覆った電子文明。それは核をも超える破壊兵器と謳われた電磁パルス弾によって全てが失われた。あっけない、とは()()このことだ。それは一瞬の事だったらしい。以後、世界各国の科学水準は、18世紀の産業革命時代レベルにまで後退した。


 方向転換を余儀なくされた科学者たちは、その悪夢を糧に精密解析機関や集積階差機関の歯車式機械計算機を見直した。そして、新たに蒸気動力を柱とする科学技術体系を発展させた。


 それから数百年。より小型の内燃機関や大出力の電動機関を人類は駆使し、地上を金属歯車と蒸気の熱気とで埋めちまった。そして、空に機械飛行船を飛ばし、インプラントや機械化なんていう人体改造を施すまでに至ったわけだ。


――この俺の、カラダのようにな――


 ここは、そんな人類が再構築した数少ない希望。蒸気文明都市シャングリラ・シティだ。そして、人種差別や階級差別、異民族と異文化が入り乱れる暗黒郷ディストピアでもある。




   Ⅱ 機械仕掛けの狩人




 ただ、問題はそこじゃ無かった。一度滅びたはずの科学文明。その影響は今も燻っている。当時、研究されていた霊子学遺伝子操作なんかの技術。それらは秘密裏に引き継がれ、闇に身を潜めていった。


 ルールの無くなったモノほどたちの悪いものは無い。やがて、それは異形の魔物を産んで姿を現した。人々は恐れおののき、魔法科学なる新興宗教まで復興させた。


 錬金術など()()()()()()。しかし、心の拠り所を求める人の性か? その欲求は、俺たちのような半機械化人間”ギア・ハンター”を生み出した。


 平たく言えば賞金稼ぎみたいなモンだが、保安官では対処できない荒事を片付ける専門職ってとこだ。正確にはメトロポリス政府に雇われている公僕でもある。


――その圧政に対する抗議か?――


――はたまたマッド・サイエンティストの愉快犯か?――


 ま、細けえ事はいい。俺は奴等を追い駆除するだけだ。




   Ⅲ 魔導士




 奴等の事を俺たちは魔導士ソーサラーと呼んでいる。ー霊子学を利用しているのか?ー遺伝子操作で人体改造を施し、精霊魔術と思しき超常現象を引き起こす。超能力と言ってしまえば簡単だが、魔法を含め、その類のモノを()()信じちゃあいない。

 

 が、政府は躍起になっている。かつて先人たちは電磁パルス弾なる兵器で己が文明を刹那に失った。そして同様に、今現在の機械文明は強力な放電現象に脆い。


 自然界で言えば雷って事だが、それはある程度事前に対処できる。厄介なのは、その放電現象を意図的に引き起こす事の出来る魔導士ソーサラーたちだ。


 ここへ来る途中。オマエさんのカラダ半分、黒焦げにしたヤツもそうだ。奴等は局所的にも雷撃を撃ち放つ事ができる。その行動は、まさしくテロリストが引き起こすテロそのものだ。今週もシティの動力プラントが一つやられた。


 そんな奴等を日がな一日、こうして俺は追い続けているというわけだ。いたちごっこの不毛な毎日だが、ついさっき俺の価値観と世界がオカシクなっちまった。ぐるっとひと回り以上にな。


 ーそう、オマエのせいだー




   Ⅳ 赤い瞳の悪魔




 幾分浅目のトップハットに鈍色に艶めくパイロットゴーグル。そして、腕捲りした海賊風のフロックコートを纏う男は、軽機関銃スチーム・パンク・ライフルを左脇に携えながら壁となる大型蒸気機械を背に敵の様子を伺っていた。

 そして、彼が魔導士ソーサラー事件の一様の経緯を話し終えると


「だいたいの状況は理解した……」


 そう言ったのは、彼同様に機器の壁裏に佇み、尊大に腕組みをして話を聞いていた一人の少女だった。


 赤褐色の瞳と色白の頬。ネコ科を思わせる面持。ツインテールの黒紅髪を後ろへ返して纏め、黒いシルクハットに金色のルーペ付きゴーグル。

 ハイネックのブラウスにコルセット。丈の短いジャケットにミニスカートはボリュームのあるフィッシュテール。そして、ニーハイソックスに編み上げのヒールブーツ。

 その黒を基調としたいずれもがダークブラウンのフリルやレース、バックルとリベットに彩られていた。


 短距離だが瞬間移動を繰り返す魔導士ソーサラー。ようやく廃工場に追い詰め、いよいよ緊迫する空気に汗が伝う。


 彼は再び少女に視線を向けると、訝りながら口を開いた。


「オマエ、一体何者だ?」


 そのヴィクトリアン調のスチームパンクドレスに身を包む妖艶の少女。彼女は置かれる状況を微塵も意に介することなく冷淡に答えた。


「ワタシか? ワタシの名はベレロフォン」

「敵じゃあないようだが、奴等と同類、遺伝子操作のキメラってとこか?」

「ワタシは魔族、その戦士」

「魔族!? って……」


 予想外の答えに思わず言葉を失う男。そんな彼に構わず、彼女は無表情に話を続ける。


「ワタシは、ワタシたちの部族に伝わる石を追っている」

「石?」

「奴等が盗み出したモノだ」

魔導士ソーサラーか?」

「そう。だから石を取り戻す為にワタシは、この世界で実体化する必要があった。あの店でオマエは、悪魔であるワタシと”呪いの契約”を結んだのだ」

「悪魔と呪いの契約?ナニをバカな……」


 そう言いつつも

ーん?まさか、あの時のー


 男には覚えがあった。昨日、魔導士ソーサラーの一件で聞き込みに入った無人の骨董品屋。引き寄せられるよう、そこに置かれる少女を模したアンティークドールに触れた時。彼は眩暈に伏し、暫く気を失った。


 そして、次に目が覚めた時。彼を覗き込むように佇んでいたのが、スチームパンクドレスを身に纏う色白の少女だった。自分の身に何が起きたのかさえも分からず朦朧としていた。ただただ付きまとうだけの少女を煙に巻いた筈だった。


 しかし今日。魔導士ソーサラーを追跡し一戦交える中。再び少女は姿を現した。しかも、魔導士ソーサラーの雷撃を自身の代わりに受け、黒焦げになったにもかかわらず甦って見せた。


 超能力や魔法は勿論、神も悪魔も信じない男には、到底受け入れられるものではなかった。

ーいやいや、ねえだろー


「ったく、悪魔だ呪いだ、与太話もイイとこだが、今はそういう事にしといてやる。それより、ヤツを仕留める方が先。だろ?」


 もう一丁の軽機関銃スチーム・パンク・ライフルを右手にも構えると、男は同意を促した。


 ベレロフォンは口角に僅かだが笑みを滲ませる。


「どうやら契約は成立のようだな。オマエはヤツを殺したい。ワタシは石を取り戻す。協力関係が成り立つわけだ。目的さえ果たせば、オマエの呪いは解ける」


 話半分でも多少の食傷気味に男が返す。


「分かった分かった。で、どうするよ?」

「どうする?」


 そう言って一笑に付すベレロフォン。


 彼女は男の前を通り過ぎると、無防備なまま機械裏から体を晒し出した。


「オ、オイッ!」


 思わぬ彼女の行動に一驚する男。

 ベレロフォンは顎を振り返し、手短に言う。


「私が囮になる。奴が仕掛けて来たら位置を特定し、迷わず仕留めろ」


――不死身のつもりか、コイツ――


 すると工場内の向こう。

 左右に据えられた大型蒸気機器の間隙。

 その暗がりからベレロフォン目掛けて雷撃が飛ぶ。


 ヾ\!人人人人人!//レ

_\人人人人人人人人人/_

>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<

 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄

 フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ


 しかし、その雷撃を少女は、容易く右手で受け止めて見せる。


――マジかよ!?――


 呆気にとられる男をよそに、事もなげに命令する彼女。


「何を見ている? 早くヤレ」


――ったく!――


 男は身を投げ出すと左の軽機関銃スチーム・パンク・ライフルを乱れ撃った。


_人人人人人人人人人人人人人_

> BRATATATATATATATAT!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 纏うリベット打ちされたフロックコートが翻る。

 暗がり目掛け連射される弾丸が薄いトタンの壁を撃ち抜いて奔る。

 男は工場内に踏み入ると右の軽機関銃スチーム・パンク・ライフルも重ね撃った。

 真鍮金具を連ねるアーミーブーツが鉄屑を踏んで歩を進める。

 反撃の隙は与えない。

 乾いた射撃音。

 弾丸が跳ねる蒸気パイプの金属音。

 コンクリート煉瓦の柱は砕けて白い煙を上げる。

 そして、男がベレロフォンの右に並び立った次の瞬間。


  ○。\!Y⌒Y⌒Y!//。○

○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!/。○

( WHOOOOOOMMM!! )

○゜/i人_人_人_人_人i\゜○

 ○゜/i人_人_人_人i\゜○


 軋む音を上げ、幾つかの巨大な機械歯車が倒壊した。

 

――どうよ?――


 舞い上がった粉塵の向こう、男はトップハットのツバ越しに沈黙を図る。


 すると、薄れゆく靄の中に俯く人影が姿を現した。顔を覆う深いフード。身を包む深緑のローブ。それは紛れもなく男が追って来た魔導士ソーサラーだった。


 しかも、男が撃った軽機関銃スチーム・パンク・ライフルの弾丸が、魔導士ソーサラーには届くこと無く寸前で宙に留まっている。


「なんだと!」


 驚く男とは対照的に、感心するようベレロフォンが笑みを浮かべる。


「ほぉ、風の精霊を盾にしたか」


 彼女の言葉に、魔導士ソーサラーは顔を起こすと瞳を見開いた。

 瞬間、弾丸が力なく地に落ち散らばる。

 そして怪訝に口を開く。


「ほう、貴様も霊子力を知る者か……」

「ふっ、愚かな……」


 ベレロフォンが返した。


 と同時。

 それを合図にするよう互いが雷撃を仕掛ける。

 それは二人の中間点でぶつかり合うと拮抗した。


 ヾ\!人人人人人!//レ

_\人人人人人人人人人/_

>≫ BUZZ!!BUZZ!! ≪<

 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄

 フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ


 ベレロフォンが呟く。


「ふんっ、この程度か……」


 そう失笑を浮かべた彼女の雷撃が急激に輝度を上げる。


 ヾ\!人人人人人!//レ

_\人人人人人人人人人/_

>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<

 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄

 フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ


 それは瞬く間に敵の雷撃を飲み込み膨れ上がると、魔導士ソーサラーごと一気に焼き尽くした。


――WOWワオ!――


 あまりの威力に呆れ顔を見せる男。

 が、彼の背後から空気を焼き焦がす細かい破裂音が再度響き渡る。


――冗談だろ!?――


 とっさに振り返る男。

 その視線の先。

 それは同じ深緑のローブに身を包む、もう一人の魔導士ソーサラーが雷撃を放つ瞬間だった。


――二人! そういうことかよ!――


 魔導士ソーサラーの瞬間移動のカラクリに気付くのも後の祭り。


 ヾ\!人人人人人!//レ

_\人人人人人人人人人/_

>≫ BZZZZZZZZT!! ≪<

 ̄//Y^Y^Y^Y^Y^Y^\ ̄

 フ/i^Y^Y^Y^Y^i\ヾ


 避ける間もなく新たな電撃が男に襲い掛かる。

 だが、その瞬間。

 それとの間にベレロフォンが身を呈すように飛び込んだ。

 稲妻は避雷針となる彼女の体を走り抜ける。

 不意の事に彼女の抵抗レジストが働かない。

 途端、昨日の一戦同様に炎を上げて燃え上がる少女のカラダ。

 そして、こと切れるかに彼女は倒れ伏した。


「ベレロフォン!」


 そう叫ぶ男の何かが、怒りに切れた。


「キッ、サマアアアアア!!」


 男は両手の軽機関銃スチーム・パンク・ライフルを投げ捨てた。

 魔導士ソーサラーが次の雷撃を打つ態勢に入る。

 男は右手で左手首のギアを回すと体全体が機械音の唸りを上げる。

 変形仕掛けの左腕が鋭利なブレードへと組変わる。

 それを嘲笑うように放たれる雷撃。

 が、それよりも早く爆音に猛るノズルとスラスター。

○。\!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y!//。○

 ( BOOOOOOOOMB!! )

○゜//i人_人_人_人_人i\゜○

 男の足から噴射されるスチーム・ジェットが彼を疾風に変える。

 高速で爆裂するホバーリング。

 瞬く間に詰まる魔導士ソーサラーとの間合い。

 その瞬刻。


\!人人人人!/

≫ THUK!! ≪

//iY^Y^Yi\


 左腕のブレードが魔導士ソーサラーの心臓を貫いていた。

 

「なめんじゃねぇ!」


 うそぶく男の足元に崩れ落ちる魔導士ソーサラー

 辺り一面に立ち込めた蒸気が晴れてゆく。

 同様に怒気を静めるが如く、機械仕掛けの左腕と両足が組み直される。

 やがて霧の向こう。焼け焦げたベレロフォンの体があった。


 男はパイロットゴーグルを外すと大きく溜息を漏らした。


――二度も助けられちまった――


 その出で立ちとは裏腹。眉目秀麗な顔立ちに幾分の腑甲斐なさを滲ませる。


 すると、その炭となって横倒れる少女の死体が、みるみる成人女性並みの大きさへと膨らみ始めた。


――!?――


 灰となったドレスは縮み黒皮に変質して鱗を並べる鎧となり、筋肉質な灰黒色の肌を艶めかしく露出させてゆく。

 髪はシルバーアッシュに色を変えて茂り、長髪のそれは人の様であった。ただ、明らかにそうとは思えないウサギのような長い耳をも形成した。


 呆気にとられる男を尻目に、それは生体反応を示すと息を吹き返し上体を起こした。そして、ゆっくりと開かれる瞳は、少女のそれと同じく血の色を彷彿とさせる赤褐色だった。


「ベレロ、フォン……?」


 信じられぬといった面持ちで問い掛ける男。彼女は再生されたカラダを確かめるように動かすと答えた。


「当然だ。オマエとの呪いの契約がある限り、ワタシは何度でも復活する。少女は仮初かりそめ。これがワタシの本当の姿だ」

「本当の、姿……」

「そう、魔族の戦士。悪魔ベレロフォン・アウリル」

「魔族……、悪魔……」


 男は頭を抱えて自己の価値観と戦っていた。


 そんな彼にベレロフォンが問い掛ける。


「そういえばオマエ。オマエの名前を、まだワタシは聞いてなかったな? 人間のくせにナカナカやる」


 すると、男は再び左手首のギアを半回転させると、その腕に金色のブレードを煌めかせ答えた。


「俺はレオニス。レオニス・アルファだ。ギア・ハンターは、伊達じゃねぇ!」






【SteamPunk×LowFantasy×CyberPunk】Gear#01:Gear Hunter【完】


 つづく

〖Name〗

*レオニス・アルファ(男)~本作の主人公の一人


〖Character〗

*皮のトップハットにパイロットゴーグル

*リベット打ちの海賊風フロックコートを纏う

*その出で立ちとは裏腹に眉目秀麗な顔立ち

*短気で口が悪い


〖Weapon or Item〗

*機械仕掛けの左腕に超硬の合金ネオブラスのブレードを持つ

*機械仕掛けの両足にスチーム・ジェットを持ち、ホバーリングが可能


〖Small talk〗

*少年時。15年前(第二次異教徒戦争)の争乱に巻き込まれて瀕死の重傷を負った

*当時、遠征軍として居合わせたダイアナ・アヴァロンに助けられて育てられる

*Dr.ディアンとMr.ファザーの機械化手術を受け、やがてギア・ハンターとなった

*スチームバイク・レースのパイロットでもある(優勝多数)


(追記あり)


【予告】


†*THE GEAR HUNTER~スチームパンク異世界奇譚*†

$次回、「Gear#02:Lady Avalon 前編」


      挿絵(By みてみん)


――魂のギアを回せ!鋼の体が唸りを上げる!!――

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