side..Alice
『うさぎさん!!待って!!』
この言葉ももう、何回目になるだろう。私は今日も、白い小動物を追いかけている。両脇に木々が生い茂る、真っ直ぐな一本道。今いるのは、私と彼だけ。
『待って……。』
聞こえているはずなのに、彼は私の言葉を無視して走り続ける。速度を落とすこともなくしばらくすると見えなくなった。もう追いつくことはない。私は足を止めた。
『ハァハァ……。』
毎日繰り返していることなのに、縮まることのない距離。彼はどうやら本気でないらしい。だがそれがまた、私の好奇心に火を点けていることを彼は知らない。
『ん?』
ふと視線を感じ目線を向けると、小さな花達が道端に咲いていた。
「「クスクス。」」
まるで疲れて息を切らしている私を見て、花達が笑っているように見えた。
「「クスクス。愚かな人間ね。」」
いや、見えたのではない本当に笑っていたのだ。私はさらに顔を近づけた。
「「な、なによ!!」」
あり得ない話だが、彼女達にはきちんとした顔があった。
『さっきの視線は、貴方達だったのね。』
ここは不思議の国。ウサギも人間のように歩くこの国で、花が喋ることだって珍しくない。
「ちょっと!!聞いてるの!?」
『え?』
私が考え込んでいる間に、花達から話しかけられていたようだ。
「んまぁ!!私達が話してるのに上の空だなんて失礼な子!!」
驚いている私を見て察したのか、花達は盛大に体を揺らして怒りだした。
「いったいどんな風に育ったのかしら。」
「まったくだわ。」
花達は互いに耳打ちをしたり、私を見てクスクスと笑ったり、好奇の目を私に向ける。花のくせに……生意気ね。
『なによ!!貴方達なんか花占いに使うしか能がないくせに!!』
私は思ったままを口にした。するとあんなに喚いていた花達は一斉に黙り、身を寄せ合い怯え始めた。ふーん……怯えるほど嫌なのね。私はニヤニヤして、そしてゆっくりとその場に屈んだ。
『私が貴方達を最大限に利用してあげるわ。』
そう言って花びらを1枚1枚ゆっくりと千切った。小さな痙攣と声にならない悲鳴が耳に響いた。全てを終える頃にはそれは聞こえなくなり、手の中には花びらを無くした顔だけが残った。
『そっか……』
私は花の残骸を見てあることを閃いた。うさぎさんもこんな風にしちゃえばいいのね。そうしたらもう私から逃げない。
『これで貴方は私のものだわ。』
そう思ったらいてもたってもいられない。私は意味を無くしたそれを下へ落として再び歩き出した。