短編小説(夏)
私はツマと三人の子供を持つどこにでもありふれた父親だ。ツマとはろくに口も聞いていない。もちろんセックスさえない。子供たちは私のことをわずらわしく思っている。たまに口をきいてくれると思ったら金が目的だ。
もう今年で58歳。正直人生に疲れた。おそらくこれから先何も良いことなどないだろう。私はツマにも子供にも愛想を尽かされた。いつの間にか私もツマと子供に興味がなくなった。人生なんて苦痛でしかない。
そんな時だ。ツマが死んだ。交通事故だった。私は何も思わずただ涙を流した。あんなツマでも私が愛した人だ。忘れかけていた思い出が私の心を熱くした。子供たちは私より弱いと思って心配したがそんなことはなかった。子供たちは自分なりにこの現実を受け止めようとしていた。私は彼らに謝った。「お前たちを信じてあげられなくて悪かった」子供たちはどうしていいか分からない表情をしていた。私はそれでもいいと思った。信じられない現実を受け止めるだけで精一杯の彼らを私は影になってずっと見守っていこうと誓った。