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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第二章【サングラスと次元】
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1

 (たつき)はあるみに手渡されたメモ用紙を何時間も眺める。

 緩みきった恍惚(こうこつ)とした表情。他人が見ればラブレターかと思わせるほどであった。


 ただの住所と電話番号が書かれた簡単なメモ。

 しかし、そのメモはあるみの直筆。サッと書かれた文字からも気品が漂う。


 樹にはそれが何であろうと構わなかった。


 “弐城(にじょう)あるみとまた会える”


 手渡されたメモは現実であった事を証明する唯一の品であり、五千万に相当する……いや、もしかするとそれ以上の“財宝”に近かったかもしれない。

 偽札かどうかを確認する何十倍以上もの時間、そのメモを眺め通す。


 三日間という時間はあっという間に経過してしまった。


         ◆


 約束をした当日。

 駅を降り、メモを片手に指定された場所をひたすらに目指す。

 

 樹は三日間、ただメモを眺めていただけではなかった。当日迷わないように、正確な位置をネットで調べ、頭に叩き込む。

 用意は万全である。



 二月の乾燥した風が、雑居ビルが立ち並ぶ通りに吹き荒ぶ。

 メモが指定した住所は、そんな雑居ビルが立ち並ぶ通りの裏通りであった。


 裏通りは高いビルに日差しが遮られ、昼間だというのに薄暗く、陰気な雰囲気を(かもし)し出している。


 人通りは無い。


 散らばるゴミや壁の落書きを横目に、心なしか足早で目的地を目指す。


 こんな場所だったのかと、想像とかけ離れたスラム街のような通りに困惑する。

 


「――ここか……」


 二階建の小さなビル。


 到着した事を伝えるため、あるみに電話をかけた。


 すぐに降りるから、と電話は切れる。


 一階はシャッターが閉まっているが恐らくは車庫であろうと推測出来た。


「地下もあるのか……」


 地下に続く階段を眺める。

 すると、コツコツと反響音が聞こえ、シャッター脇の入り口から弐城あるみが姿を見せた。


「――早かったわね、どうぞ」


 同窓会の時とは違う、どこか落ち着いた雰囲気であった。

 ラフなセーター姿でメガネを着用している。


 会場で出会った時と違う印象に、樹は一瞬ドキリとした。


 樹はあるみに案内され、先程まで覗いていた地下に続く、細くて薄暗い階段を下りる。


「足元気を付けて」


 茶色いタイルが敷き詰められた階段。雨の日には滑りそうだな、と樹は思いながら階段を下りる。

 木製のドアには、メモに書かれてあった通り『マンティコアヘッド』と、荒々しく書かれたボードが掛けられてあった。


 あるみがゆっくりと音を立てて木製のドアを開く。


「どうぞ」


「失礼します」

 樹はおどおどと足を踏み入れる。


「……え? えっと、ここ事務所だよね?」


 さらに下に続く木製の階段。手摺りに手を掛け、足音を立てながら下りてゆく。

 事務所らしからぬ空間に疑問を感じた。


 地下にしては広い空間……。


 間接照明に照らされ、レンガ造りの壁に木製の床。

 壁には大きな掲示板が掛けられ、様々なメモが貼り付けられている。両サイドのボックス席には、書類やノートパソコン……テレビ、ゲームハード、数冊の本が山積みになっていた。



 真正面には長いカウンターがあり、スキンヘッドの大男が静かに背中を向けて座っている。


 樹が違和感を感じたように、事務所……というよりは、バーであった。

 オンラインゲームなどで見る『ギルド酒場』を彷彿(ほうふつ)とさせる。


 しかし、肝心の酒棚には一本の酒も無く、空気も埃っぽい。

 どこかで時間が止まってしまった、という印象であった。



「……あるみ、その男がお前の言ってた手練(プロ)か?」

 男は背面越しに、低く重みのある声であるみに問う。


「えぇ、そうよ」

 男はグラスに注がれた赤黒い液体を飲みほしカウンターからゆっくりと立ち上がった。


 身長は百九十センチを越え、スーツに黒いワイシャツ。衣類は男の筋肉にはち切れんばかりであった。


 スキンヘッドにサングラス。どう見ても“かたぎ”では無さそうな風貌に樹は恐れおののく。


 男はサングラス越しに、樹の全身を見渡す。


「確かに【エルトル】の流れを感じるが……」


 男の風貌にビクつく樹。


 そんな樹の様子を男は不審がる。


「あるみよ、本当にこの男プロなのか? どうも、俺にはそうは見えねぇが?」


 樹をまたいで、階段の手すりに手を掛けるあるみと会話する。


「話した通りよ。ギルドにもフォースにも所属はしてないフリーの依頼請負人……」


 話しながら、あるみが近づいて来る。

「ねぇ、桃寺くん。そうよね?」


 あるみの疑いの無い視線。


 どこか訝しんだ表情のサングラスの男。


 そんな二人に挟まれ、ただ冷や汗を流しながら、言葉に詰まる樹。


「――えっと、あの、その……半分正解というか、半分違うというか……」


 そんな樹の煮え切らない態度に、男は業を煮やす。


「ハッキリ答えねぇか!!」


 ドスを効かせた怒鳴り。


 樹は恐怖に飛び上がる。

 腰が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。


「ぅぅぅ……す、すいません! すいません! すいません!!」


「あぁ? “すいません”ってどういう事だ?」

 

 男は片手で樹を掴み上げる。


「ぃぃぃぃッッ!!」


「ちょっと! 銀慈(ぎんじ)! 乱暴はしないで!」


 あるみは、銀慈と呼んだ男を諌める。


「乱暴はしてねぇよ。聞いただけだ」


 ドスンと落とされ、半べその樹にあるみは少し優しめに問いかけた。


「桃寺くん、“半分正解で半分違う”ってどういうこと?」


 樹は、鼻をすすり、へたり込んだまま喋り始める。


「――そ、その、ダンジョンに入ったのは一回だけで…………。請負人として生活してるわけじゃないんだ! ダンジョンウォーカーとして素質を見出されたのも最近の事だし、ダンジョンの事も全然知らないし……」


 情けない樹の表情に、あるみは驚愕の表情を浮かべる。

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