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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第一章【報酬と始まり】
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5

 (たつき)は新幹線の中で、久々に帰る地元に思いを馳せていた。

 新幹線に乗るまでの経緯は一週間前に遡る。


         ◆


 あの日確かに、ダンジョンで王冠を手に入れた報酬として五千万という大金を受け取った。

 六畳一間の小さな部屋で偽札でないか確かに確認する。

 

 部屋中に広げられた大金。偽札でないと分かると否や歓声を上げた。

 もちろん隣人からの壁ドンを受けたのは言うまでも無く……。


 試しにコンビニで使ってみたが、疑われる事なくその一万円は受け取られる。


 五千万……いったい、何日引きこもり生活が出来るのであろうか……いやいや、そんな自堕落な生活は駄目だろうと思いながらも、数日間はアタッシュケースからちびちびお金を使い、ゲームやマンガを買い漁った。


 それ以外の時間は、積みゲーと積み本の消化に当てられた。


 自堕落な生活をしていた樹であったが、スマホのスケジュールアラームが鳴り、数ヶ月前に参加する事になっていた“同窓会”に参加する事を思い出す。

 あぁ、めんどうだな……と思いつつも、律義な樹はキャンセルすることなく、同窓会の参加を決めた。


         ◆


「ふぅー、到着」


 数年振りに地元に帰った樹。

 それなりに開発が進んだ地元は、面影を残しつつも目新しい建物が見受けられる。


「まるで急に地面から出てきたみたいだなぁ――……ん?」



 目の前を、キョロキョロと地図を片手に見渡すスーツ姿の女性が一人。



弐城(にじょう)さん?」


 ――弐城(にじょう)あるみ。


 樹が高校一年生の時に転校して来た女の子であった。

 なんでも、事故で両親が他界するという不幸に合い、親戚の頼りで樹達の住む地域に越してきた。


 転校初日は、綺麗な女の子! といった評判であった。


 しかし、日を追うごとに、普通とは違う異様さにクラスメイトは違和感を感じていた。


 どこか達観した、子どもらしからぬ落ち着き。両親の不幸という経験が一人の少女をここまでさせてしまうものなのか? 教職員も疑問に思っていた。

 学年が上がるにつれ、落ち着きを払った(しん)とした瞳は気迫を持ち、凛とした女性へと変貌していった。


 あるみの事情を知る者は少なかった。

 知っていたとしても、経歴が経歴だけに気軽に近づく者も少なく、大抵、あるみ一人で居るシーンが多かった。


 成績は良く、教職員から生徒会や学級委員などの人を先導し指揮する役職に大プッシュされていたが、頑なに断わり地味な清掃委員に所属していた。


 清掃委員は一瞬にして、生徒会より厳粛(げんしゅく)な空気に包まれる。


 そして樹は、身を持ってその空気を体験していたのであった……。



 そんな弐城あるみが、半切れの紙を片手に雑踏の中、悪戦苦闘している。


 艶光(つやびかり)する、まとまりのある黒髪をかき分け、少し困った横顔を見せる。

 思春期のどこか尖った印象は和らぎ、洗練された大人の女性といった印象であった。



「――あの、弐……城さん?」


 誰? といった表情で振り返るあるみ。


「……どなた?」


 過去の記憶を探るような間があったが、やはりと言った返答であった。


「あ、いや……同じ学年だった桃寺(ももでら)(たつき)だよ。清掃委員で一緒だった」


 あるみは、もう一度記憶を探るが……、


「――えっと、ごめんなさい……クラスメイトの顔、ほとんど覚えてないの」

 樹は普通にショックを受けたが、目立つほどのルックスでも、キャラでも無い。


「まぁ、そ、そうだよね。は、ははは」


 笑ってごまかす。


「ごめんなさい」

 表情を作ったり、相手に気を使った抑揚(よくよう)は無く、自分の不備(ふび)を堂々と端的に、そして真摯(しんし)な態度で述べた。


「それはそうと、こんな場所で何してたの?」

「同窓会の司会に呼ばれたんだけれど、道に迷ってしまって……」


 進学したか、就職したのか詳しくは知らなかったが、県外に出たとういことは知っていた。


それほど景観が変わったとも思えないが、

「街並みも変わっちゃったしね」と、適当にフォローを入れる。


「それはそうと、司会は、同窓会の実行委員がやるもんじゃないの? どうして弐城さんが?」

「本当は、その予定のはずだったんだけど……急に司会の子が病気で来れないらしくて。巡り巡って私が変わる事になったの。四時には会場に行かなければいけないんだけど」


 時間を見れば、四時十分を過ぎていた。

「えっ! 過ぎてるよ!」


「あの、良ければ道を教えてくれないかしら……」

「もちろん! 歩いて十五分くらいで着く距離だから案内するよ!」


 急いだ甲斐もあって予想していた半分の時間で到着した。


 ホテルの宴会場を貸し切って開かれる同窓会は既に準備も終盤に差し掛かり、最終チェックを済ませる段階であった。


 遅れた事情を話たあるみは、「急な交代だし仕方ないよ」と周りにフォローされ難無くを終える。



 樹は、エントランスの沈み込みが激しいソファーに座り、スマホアプリで開宴時間まで暇を潰す。


「――あの、さっきはありがとう」

 ソファーの背後から、あるみの声がする。

 沈み込みが深すぎて起き上るのに苦労しながら樹は、急いで立ちあがる。



「いやいやいや、そんな。間に合ってよかった」


「そろそろ受付始まるから」


「もうそんな時間か、わざわざありがと」

 自然とデレた表情になる。


 颯爽と去りゆくあるみのボディラインをうっとりとした表情で眺める。

 どこか冷たさを感じたが、今日世界中で誰よりも弐城あるみに近づけたと思い込む。


「まんざらでもないかも……」

 ゲーム画面は“Ggame(ゲーム) Over(オーバー)”。醜いキャラクターが舌を出し笑っていた。

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