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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第一章【報酬と始まり】
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 ――アーティファクトがダンジョンで使用されるようになって約二十年……


 その昔、政府は近代兵器を備えたウォーカーを闇雲(やみくも)にダンジョンに投入していた。


 当時の生還率は二十パーセント未満。初めてダンジョンに潜入した兵士の言葉を誰かが信じていれば、存命出来たウォーカーは何人になるだろう……。

 政府はアーティファクトや希少金属を研究対象とし“納品の義務化”“無断所持の禁止”を行ったが、謎の技術で作られたアーティファクトの解明は困難を極め、現代の科学では解明が不可能とされた。


 そんな中、ダンジョンの不思議な魅力に取りつかれたウォーカー達が現れた。


 内部よりもたらされるアーティファクトや希少金属。美しい環境や珍しい財宝の数々にダンジョン攻略から一転“トレジャーハントを主とした目的”にダンジョンに潜る者が現れ始めた。


 ――ある時、数名のウォーカーが納品を渋った事が、ダンジョンの攻略に革命を起こす。


 戦場での戦利品……

 単純にアクセサリーとして気に入った……


 そんな単純な理由で納品を誤魔化した数名のウォーカーは、ダンジョン内部でアーティファクトが武器や防具に変化する事を発見する。


 不安定なダンジョンの環境に、すぐ使い物にならなくなる近代兵器や、近代装備とは違い、不思議な力が宿ったアーティファクトは驚くべき戦果をあげた。


 時空の歪みからダンジョンでの時間の流れは早く、一時間経過したならダンジョン内部では、おおよそ一日の体感時間を感じる。

 侵入し、攻略するまでに数日かかっていたダンジョンも数十分、数時間という驚異的な早さで攻略できるようになった。


 ダンジョン攻略数も飛躍的に上昇し、相乗してアーティファクトもウォーカーに支給されるほどに集まり、生存率も全体で四十パーセント以上アップした。


 ――しかし、問題が発生する。


 欲を出したウォーカーが一度に大量のアーティファクトを装備した瞬間……。

 発狂し死亡するというケースが相次いだ。


 ウォーカーの証言では、アーティファクトは使用者に【力を与え発現タイプ】と【力を奪い発現するタイプ】が存在し、そのどちらをとっても、力量以上の使用は精神に異常をきたすのではないか? との見解が出された。


 与えるタイプ、奪うタイプを併用したとしても体にかかる負担は大きく、後の経験則から『アーティファクトの使用は、おおよそ三つが限界』である事が判明した。

 物にもよるが、一つで使用者の体力や精神力を大きく奪う物もあるという。


 様々なアクセサリーの形を取り、【武 器 型(ウェポンタイプ)】や【防 具 型(プロテクトタイプ)】、武器と防具が同一化した【武 装 型(アーマメントタイプ)】……さらに、【背 後 霊 型(ゴーストタイプ)】といった多種多様に変化するアーティファクトはダンジョン攻略の必須装備となった。


         ◆


 ――二人は襲い来るモンスターやトラップに注意しながらダンジョンを進む。


 主戦力はアリィが担当、樹は防御に徹した。

 依頼のため最深部まで力尽きないよう樹は体力を温存する。そんなアリィの作戦にどこか引け目を感じながらも先の見えないダンジョンを進んで行った。


 当初の元気も無く、無言でダンジョンを進む。


 完全な殺意を持って現れるモンスターやトラップ。樹は身を持って少しずつダンジョンの仕組みを理解していった。説明書の無いゲームを経験則だけでプレイするように、少しづつ少しづつ……。


 そして、ついに二人はダンジョンの最部に辿りついた。


「この扉……どうやって開けるんだろう」


 目の前の扉は巨大な竜の姿が彫り込まれ、二人を威圧するように行く手を阻む。

 アリィがゆっくりと近づき、扉に手を触れる。

 竜の目が輝き、アリィがグッと力を加えるとゆっくりと扉は音を立てて開いた。

 

 樹は戦闘でも目撃したが、アリィの身体能力と力の強さは異常であった。

 どんなアーティファクトを使用しているのか分からなかった(喋ってくれなかった)が素手で甲冑を引き剥がし、樹の装備したメイスが(かす)むほどの打撃技を繰り出していた。

 

 その上炎を吐き、モンスターの気配を瞬時に捉える事が出来る。

 小さな体に恐るべき力を蓄えた少女。頼もしくも、樹は自分の存在を情けなく感じる。


 開き切った扉。

 支柱に灯りが灯され、部屋全体が明らかとなる。


 静かな空間……真っすぐ伸びる道の両橋には、数えることが出来ないほど大量の甲冑が剣を持ち、同じ体勢で中央の道を見据える。


「!」


 しかし、そのどれにも気配を感じる事は無く、ただ静かにあるだけであった。

 アリィの表情にも変わりは無い。


 示された道を二人は進んで行く。


「誰か……居る?」


 目の前には大きな王座がそびえ、何者かが腰をかけている。

 樹は目を細め、座る者を凝視する。


 玉座に座っていたのは、王冠を被ったミイラの姿であった。


「……王冠を」

 アリィがミイラの頭頂部を指差す。王冠以外、全て朽ち果て風化しつつあるミイラは異様な存在感を放っていた。


「えぇ! アレを取って来いって?」


 コクリと頷く。


「……動かない?」


 コクリ。


「……本当に?」


 コクリ。


 樹はハズレくじを引いた表情で大きくため息をつきながら、王座に歩み寄る。

 心強いアリィとの距離が離れるほどに不安が増す。


 もし、ミイラが動き出して噛みついたらどうしよう……嫌な想像ばかりが頭を駆け巡る。


 眼球は(くぼ)み、ほぼ骨に皮が張り付いている状態のミイラ。

 衣類から高貴な身分の人物であったと想像できるが、そんなことはどうでもよかった。


「うぅぅぅぅぅ~………」


 王冠の重さに、やや首を下げた状態で座すミイラに、そっと手を近づける。


 近くで見るミイラは、立ちあがると二メートルは越すのではないだろうか、と思うほどに大きかった。


 恐怖心と戦いながら、王冠に手を添え少し力を加えた瞬間。


 ――ボリッ……


「えっ――」


 王冠は外れずに、ミイラの首が根元が折れてしまった。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 王冠ごと、ミイラの首は地面に落下。


「げッ……!」


 ミイラの下顎は外れ、階段をごろごろ転がる頭部は衝撃に耐えきれず、塵と化していった。


 転がる王冠。


 急いで、樹は王冠の元に駆けつける。


「あゎゎゎゎ……」


 樹は王冠を拾い上げる。肌に吸いつく奇妙な肌触り。


 片手に持ちかえようとしても、両手は王冠にくっ付き離れない。


「えっ……えぇ! ちょっ、これっ!」


 両腕の静脈(じょうみゃく)が浮き出る。生命力を吸い取られているような不思議な感覚。

 王冠は樹の手が触れている面から黄金の輝きを取り戻す。

 ものの数秒で、錆びた王冠は黄金の王冠へと姿を変えた。


「――ッ! やっと外れた!」


 いったいどういう仕組みなのか分からなかったが、とにかく王冠を手に入れる事には成功した。


「……こ、これで目標達成?」


 息を切らせた樹に、アリィはコクリと頷いた。


 ――機会を見計らったように、突然地面から光の柱が現れる。


 アリィに聞かずとも、光の色合いから元の世界に帰る事のできる光だと、樹は直感的に感じ取る。


「……危ないところ、何度も助けてくれてありがと」


 樹は光の柱に入る直前、アリィに感謝を伝えた。無事に達成する事が出来たのは全てこの小さな女の子のお陰。

 恐ろしい経験をしたが、樹は達成感に包まれていた。


 ゆっくりと視線を合せ、アリィは小さく頷く。

「…………どういたしまして」


 一つの冒険で、この無口な少女と繋がれた……。

 サブクエスト達成にも似た小さな喜び。


         ◆


 風にざわめく木々。


 ダンジョンのゲートが淡く輝き、逆光の中から二人は現れた。


「いやぁ少し心配しました。おぉ……手に入れる事が出来たようですね」


 寒々しい夜の山の中で男は二人が出て来るまで待っていたようであった。

 ザクザクと落ち葉を踏みしめ二人に歩み寄る。


 背後で塔はその像を歪め、次元の彼方へと消えてゆく。

 

 樹は疲れ切った表情で、王冠と借りていた指輪を男に渡す。


「これで、間違い無いですか?」

 間違い無いと言った表情で、男の口角がつり上がる。


「えぇ……間違い無く。あなたで正解でした――、どうでしたか? 初めてのダンジョンは?」


「もう()()りです……」


 非現実から現実に戻された感覚。


「はっはっは、そうですか。何より無事で良かったです」


 機嫌が良さそうなのは、目当ての物が手に入ったからであろうか? だが、そんなことよりも樹は一刻も早く家に帰りたい気分であった。


 男はアリィの頭をポンポンと撫でるが、アリィは相も変わらず無表情のままであった。


 ――車で帰る途中、樹は一睡もしなかった……と言うよりは出来なかったという表現が近いのかもしれない。

 疲労した体とは裏腹、謎の高揚感。何度も死にかけたが、不思議と“また、行ってみたい”という感情がこみ上げる。


 家周辺に着いた頃には、既に夜は明けようとしていた。


「――では、こちらを」

 アタッシュケースを手渡される。


 中身は確かに五千万入っていた。


「ほ、ほんとに貰っても大丈夫なんでしょうか?」

「もちろん。嫌でしたら受け取らないという手もありますが?」


「い、いえ! それは……は、ははは」


 樹はしっかりとアタッシュケースを抱きかかえる。

 疲れた体に確かな重みがじわりと広がる。


「では、これで。二度と会う事も無いでしょう。……そして、私たちの事を他に喋らない事。そして詮索しない事……」


 最後の最後に、重く……有無を言わせぬ口調でそう言い残した。


 樹は、走りゆく車を呆然と見送る。

 ふと、窓から顔を覗かせたアリィと目が合った。

 軽く手を振るも、アリィからの返事は無い。ただいつもと同じ何を考えているのか分からない表情で樹を見つめていた。


 車が見えなくなったところで、無感情そうなアリィが顔を覗かせてまで自分を意識してくれた事を少しだけ嬉しく思った。


「――よく分かんない子だったなぁ……」


 樹はずっしりと重いアタッシュケースと握りしめ、帰路に着いた。

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