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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第七章【決戦2】
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6

 ギガンテスはゆっくりと動き始めた。

 巨体を動かし手にした戦鎚を振り上げ地面に打ちつける。巨大な地震を思わせる衝撃と振動が周囲に伝わり、地割れはモンスターを呑みこみ、ギガンテスはダンジョンを破壊する勢いで衝動がままに戦鎚を振るう。


 眼下に広がる光景……変容する大地と、地割れに呑み込まれるモンスター。とても対峙して倒せる相手ではない事を見せつけられているようであった。


 二人を乗せたアリィは高度を上げ、目標に向かって大きく羽ばたく。


『――そろそろ頭上だ』


 目標であるギガンテスの頭上付近。ギガンテスの全長を越える高度にも(たつき)は声を上げなかった。

 樹は、今にも気絶しそうな恐怖心と戦いながらも黙って状況を見守る。“必ず帰る”そう約束した意思が、樹を、少なくとも泣き事を言わない程度に成長させていた。

 予定通りにヴォイルはあるみにエスケープアーティファクトを手渡す。


『ここからヤツの頭部に飛び降りる。そなた達は元の世界で待って居てくれ』

「……わかったわ」


 あるみはエスケープアーティファクトを受け取り小さく返事をする。


 その声は樹にも聞こえていた。実質、最後の別れ。ヴォイルを越して目に見えるあるみの表情を樹は心に焼きつける。

 アリィは、高度を下げギガンテスの攻撃を受けないギリギリの距離まで接近する。


『――必ず戻る』


 ヴォイルはそう言い残しアリィの背中から飛び降りた。


 アリィが寸前まで接近したおかげで樹は恐怖に声を上げる事は無かった。距離にして数メートルの高さ。ヴォイルは巨大なギガンテスの肩に、無事に着地を成功させた。


 着地と同時にヴォイルは上空を舞うアリィを見上げる。

 上昇するアリィ。その背に摑まるあるみは、身を乗り出しヴォイルそして意識だけの樹を見下ろす。


 樹に促されヴォイルは手を振って見せる。

それを確認したあるみはエスケープアーティファクトを発動させる。上空に広がるリングに二人は吸い込まれるように消えて行く。


『後は我々次第といったところだな』

 

 二人の帰還を無事に見届けたヴォイルと樹は目的であるギガンテスの体内を目指した。荒れた岩肌のようなギガンテスの体。ひび割れた隙間はオレンジに輝き、強力なエルトルを有している事が伝わってくる。


 ヴォイルは暴れるギガンテスの大ぶりな動きに振り落とされないように、慎重に頭部への距離を詰める。


 首元に差しかかった時、樹は気になった事をふと質問した。


“聞いて無かったけど、どこから体内に? こんな硬質な肌じゃ剣も効かないだろうし”


『言ってなかったか?』


 ヴォイルはロッククライミングのようにギガンテスの首を登って行く。


“聞いてないよ”


『ふむ、体内に侵入すると言えば、“口”しかなかろう?』

“口!?”


 樹の驚愕の言葉を聞きながらも、ヴォイルはギガンテスの首を登って行く。


“食べられるって事!?”


『意として口に含まれる訳では無いからな、食べられる訳じゃない。侵入するのだ』


“どっちも変わらないよ!”


 振動に耐えながらヴォイルはギガンテスの頬にしがみ付き機会をうかがう。


『ヤツの咆哮と同時に侵入する。この距離で一時的に聴力を失うかもしれんが……意思疎通は出来るゆえ考慮はせんぞ』


 これまで否が応でも、強制的にヴォイルの思うままに行動をとらされて来た樹に反論の言葉は無かった。ただ“……わかったよ”と返事を返す。


 ギガンテスは足元を見下ろし、戦鎚を掲げ大きく咆哮を上げた。周囲を薙ぎ払い地下から現れたモンスターを一掃する。

 意識を失いそうになるほどの爆音。しがみ付いているため耳を塞ぐ事が出来ず、ヴォイルの言葉通り樹の両耳の鼓膜は破れた。



 ――ギガンテスの体内。


『よし、一先ずは……といったところだな』


 ヴォイルは咆哮に怯む事無く、ギガンテスの口から体内に侵入した。


“……本当に、口の中?”


 朦朧とする意識を吹き飛ばす光景であった。強力なエルトルの輝きに、内部は明るく、周囲を見渡す事が出来る。地下で見た輝きが星々だとするなら、ギガンテスの体内は太陽そのものであった。


『ふむ、私も初めて見るが……悠長に見学している時間は無い』


 ヴォイルはステッキを握りしめ、構えをとった。


『覚悟はいいな……ここで【滅 び(ペリッシュ)】を発動させ、【脱 出(エスケープ)】の時間を稼ぐために喉の奥に飛び降りる。……成功するかどうか、その先は賭けるしかない』


“分かってる……もうここまで来たんだ。覚悟は出来てるよ”


 樹は、あるみとの約束を思い出していた。外で待っている銀慈達、そして大勢の人々の為に必ずギガンテスを倒す。そして必ず生きて帰りあるみと会う。


『――ふむ、もう言うことは無い。全力で行くぞ』

“もちろん”



 ヴォイルはステッキをかざした状態で目を閉じ意識を集中させる。手にしたステッキに淡い光が灯り刻印された文字を伝い、宝珠に魔力が注がれてゆく。


 宝珠から現れたソフトボールほどの漆黒の球体。


『くっ……やはり、想像以上に力を使うッ』


 その両手に静脈が浮き出していた。

 漆黒の球体は魔力を注がれ、より禍々しく回転しながら膨らみ、膨張し、巨大になってゆく。


『ッッ、もう少しっ……』


 魔力が枯渇してしまうギリギリまで【滅 び】に力を注ぐ。浮き出した静脈は全身に広がっていた。


“こ、これ以上はっっ……――”


 樹の記憶と引き換えに絞り出した力。


『ッ! おぉぉぉぉぉッ!!』


 限界を超える寸前。ヴォイルは【滅 び(ペリッシュ)】を放った。

 凝縮された力の反動でステッキは崩壊し、放たれた【滅 び(ペリッシュ)】は制御を失い膨張する。


 ギガンテスの口内で急速に広がってゆく暗黒の球体。


“早く逃げ出さないと巻き込まれる!!”

『クッ……!!』



 口内で放たれた【滅 び(ペリッシュ)】にギガンテスは悶え暴れる。


 暴れた衝撃で樹の身体は投げ出され、喉の奥底へと落ちてゆく。


 背後から迫る周囲の輝きを呑み込む暗闇。


『…………ッ……――』


 朦朧とした意識で降下してゆく中、ヴォイルは右手をかざす。樹の叫びに必死に意識を繋ぎとめながら、ヴォイルは【脱 出(エスケープ)】を唱えた――

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