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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第五章【月夜、走る】
34/48

5

 高笑いと共に消えゆく輪道(りんどう)の姿を、二人は屈辱と焦燥(しょうそう)の入り混じった思いで睨みつけた。

 その目の前に立ちはだかる、思惑を感じさせない下着姿の少女。


「アリィ! 頼む! もうやめてくれッッ!!」


 無表情。


 敵意を向けているかも判断が付かない。ただ、機械のように(たつき)達を執拗に妨害する。


 吐き出される火炎……とてもじゃないがダンジョンに近づくことが出来ない。その奥ではゲートの入り口が刻一刻と狭まってゆく。



 アラスカに散ったレッドドラゴンの遺伝子を組み込まれた造れた『竜 人(ドラゴニュート)』アリィ。

 樹は、アリィのただならぬ強さは、後に知ったエルトルだと信じていた。しかし、初めてダンジョンで見た魔法や身体能力の数々は、エルトルの力ではなく“ドラゴン”の持っている力だったとは……。


 ダンジョンフォースが極秘で開発している“ダンジョンウォーカーを人工的に作り出す実験”の結果なのか……。この小柄な少女の体には、世界を崩壊さる力を持った、竜の細胞が組み込まれている。



「くッ、このままじゃゲートが閉まってしまう」


 ゲートは半分近くまで(せば)まっていた。


「まって。……あの子、私達を邪魔するだけで殺そうとはしてないみたい……」


 あるみの言葉通り、アリィは“一定の距離”を保ち、近づこうとするなら火炎を吐き出している。


「そ、そう言われれば確かに……」


 一定の距離……。

 樹は、アリィの数々の攻撃パターンを思い出す。


「!!」


 アリィが攻撃を開始する距離。それはダンジョンのゲート、おおよそ二メートル付近であった。



 樹は腹をくくり、アリィに近づく。


桃寺(ももでら)くん!?」


「――大丈夫」


 ジャブジャブと音を立て、慎重にアリィに接近する。

 五メートル、四メートル、三メートル…………


 距離が近づくと同時にアリィは息を吸い込んだ。


「い! 今だッ!」


 アリィの口が開かれる前に、樹はアリィに飛びかかり、口を手で覆う。


「ンんっ!? ……むぐ、むぐぐぐぐ、」


 アリィの鼻から空気が抜ける。

 樹は炎を吐かれる前にアリィの口を覆った。更に両腕を封じ抱きかかえた。

 誘拐を思わせる危ない光景。下着姿の幼女を両脇で抱え込む成人男性という危険な構図。

 だがその誘拐スタイルが功を奏し、樹はアリィを見事に捕獲。攻撃の手は止まった。


「んぐ、むぐぐぐぐぐ……」


 アリィは両足をバタつかせ暴れる。


「た、頼む! 暴れないでくれ!」


「んぐ! んぐぐぐぐ!」


「……くっ、弐城(にじょう)さん! このままゲートに!」


「えぇ! その子も一緒に!?」


「しかたないよ! 急ごう!」


 ゲートは少しずつ小さくなってゆく。


 樹は下着姿のアリィを小脇に抱え、河を猛ダッシュで渡る。

 この際準備をしている余裕は無い。

 ポケットに忍ばせてあるアーティファクトを落としてないか、感覚で確かめる。


 あるみもアミュレットを取り出した。


「用意はいい?」

「んんっ! んぐっ……」


「大丈夫」


 こうして二人と抱えられたアリィは狭まるゲートの中に入って行った。


         ◆



 川岸でその様子を見ていたりぼんは、ひとまず安心する。

 出来る事なら樹をサポートしたかった、という想いがあったが今日のところは口惜しいがあるみに任せる。


「さぁ! あたし達も一仕事片づけるわよ!」


 掛け声と共に気合いを入れ直す。りぼんと(てつ)は残された輪道の部下を二対一で相手する。


 襟にはD-1の刺繍(ししゅう)。輪道の忠実な部下。

 部下は決して弱い訳では無かった。ダンジョンの内部なら技術やアーティファクトの違いからりぼん達とは“雲泥の差”であっただろうが、ここはダンジョンではない。訓練された兵士として単純に二対一では武が悪かった。


 りぼんと、鉄は連携して確実に相手にダメージを与える。あまつさえ、武器の使用、投石……周辺に落ちている物を利用し輪道の部下にダメージを与えた。


 流木を片手にしたりぼん。相手の顔は知らなかったが(すでに判断が付かないほどに歪められていた)日頃の優遇からくる、ランク差別の恨みを晴らす。


「――だいたい、こっちだって命張って戦ってんのに給料も少なすぎるのよ!」


 流木が何度も振り下ろされる。身を丸め、助けを懇願(こんがん)する輪道の部下。

 興奮したりぼんの攻撃の手は収まらない。ほぼ私情混じりに流木を振り回す。


「や、や、やりすぎ……!」

 鉄が止めに入るが、りぼんのボルテージは下がらなかった。



 一方、河の中では晴士朗(せいしろう)が自分より倍近くある体格の相手と戦っていた。


 完全な一対一。


 晴士朗の身長は低い。しかし、それを補うだけのトレーニングを人一倍こなした。日々の走り込や筋トレ、自分の使用するアーティファクトが『武 装 型(アーマメントタイプ)』の格闘に秀でたアーティファクトであったため格闘術も学んだ。


 それでも相手はD-1クラスでも優秀な軍人。お互いボロボロになりながら拳を振るう。


「ッっ! ッラァ!」


「フンッ!」


「ぶっッ、……っくそがぁぁぁぁぁ!!」


 何度も川に沈められながら晴士朗は懸命に闘った。


 両目は腫れ上がり、見えているのかどうかも定かではない。それでも気力を、そして死力を果たして果敢に挑む。



 戦況は輪道の部下が優勢であったが川底の石に(つまづ)き体勢が崩れる。


「ッれでどう゛だぁぁぁ!!」


 その瞬間を狙い、晴士朗は渾身(こんしん)のボディブローが相手の腹に叩きこんだ。


 嗚咽(おえつ)と共に、輪道の部下は河の中に沈む。


 息を荒げ、ボロボロの晴士朗は、よろよろと河の中から出て来る。


「――はぁッ、ハァっ、はぁッ、はぁッ……」


「や、や、やった!」

「晴士朗っ!!」


 両目は腫れ上がり、鼻、口から血を流し、全身打ち身の晴士朗。


「……っ゛へへ、――ま゛ぁ、お、俺も、やる時゛はやるん、ズよ」


 作りきれない笑顔で、無事をアピールする。


「む、む、無茶しすぎ」


「ホントよ! バカじゃないの!?」

 りぼんはそう言いながらも、晴士朗の無事を、そして自分達の勝利に目を潤ませた。


         ◆


 三人は自分達に出来る仕事を達成し喜んでた。

 同じダンジョンフォースでありながら仕事敵であるD-1を打ち破った事に、どこか爽快な面持ちで夜空に輝く月を見つめる。


「――私達に出来ることはここまでね。後は、あの二人にまかせましょう」


「そぅすね゛ぇ…………って、な゛んだ!!」


 晴士朗がガードレールから飛び出した影に気がつく。


 けたたましいサイレン音。巨大な影は駐車場からガードレールを越え飛び出した。


「えっ、何!」


「な、な、んでしょう」



 上空から何かが飛来する。

 月の影に、りぼんと鉄は一瞬何か分からなかった。


「に、に、逃げなきゃ!!!」


「「ぎゃーーー!!」」


 接近する巨大な影。危険を知らせるけたたましいサイレン音。




「「「うあぁあぁぁあああぁあぁあぁぁ!!!」」」」



 三人の声をかき消すほどの衝撃音。


 質量を感じさせる破壊音に、ダイナマイト爆発を思わせる水飛沫。

 水が津波のように三人に襲いかかった。


「ガッポッ!」

「っぷ!!」

「……ア、ップガッ」



 上空から飛来したのは、駐車されていたはずの“車”であった。

 河に突き刺さったように、フロント部分を川底に直立している。


 車の警報機は完全に破壊されたようで、破壊の余韻(よいん)は耳鳴りとなって、三人の鼓膜に刻まれた。


「ゲっホッ、ゲホッ……。うぅ、なんで車が降ってくるのよ!!」


 三人は驚きの表情で駐車場を見上げた。

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