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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第五章【月夜、走る】
33/48

4

 (たつき)、あるみ、りぼん、(てつ)晴士朗(せいしろう)は勢いよく駆け出した。


 しかし、駆け出した樹達の目の前にアリィが立ち塞がる。

 何を考えているか分からない表情。


「アリィ! どいてくれ!!」


 樹の叫びはアリィには届かない。言葉を無視するように、アリィは大きく息を吸い込む。


「はっ!」


 見た事のある動作に、樹は全員に聞こえるように注意を(うなが)す。

「み、みんな離れて!!」


 口から放たれた業火。


 樹の叫びに全員咄嗟に回避することに成功するが、吐かれた炎は、アスファルトを軟化させ、周辺の草木を、車両を燃やす。ダンジョンの内部で見た時より、火力は弱かったが、それでも生身で食らえば、ただでは済まないだろう。


 アリィは無表情で、散った樹達を目で追う。


 『今のアリィは味方ではない……』悲しくも突き付けられた現実に樹はショックを受ける。


「あっっぶないわね!! どういう事よ! この子、火吹いたわよ!?」

 りぼんが驚きの声を上げる。



「……その子は、我々が生み出した実験生物。レッドドラゴンの細胞と人の細胞を融合させた遺伝子を持った『竜 人(ドラゴニュート)』」


 背後から、輪道(りんどう)と二人部下が、残り火に影を揺らしながら現れる。


「「『ド、竜 人(ドラゴニュート)』!?」」

「なっ、なによそれ!?」


 りぼん、鉄、晴士朗はその言葉に驚く。


 しかし、驚いている暇は無い……それを誰よりも分かっているあるみ、そして樹は“人造実験”という倫理に反する行いを不快に思いつつも黙認し、平常心を保つ。


「……いいかアリィ、こいつらをダンジョンに近づけるな」

 輪道はアリィにそう告げると、部下と共に悠々とガードレールを越え、山の斜面を駆け降りてゆく。


「アリィ! やめてくれ!」


 アリィは輪道の指示通り樹達に向けて火炎を吐く。

 火炎を避けながら、樹は攻撃の中断を懇願(こんがん)する。


 しかし、樹の願いも虚しくアリィの火炎による妨害は中断される事は無かった。


「――ダメ、このままだと輪道に先を越されてしまう。私達も急ぎましょう!」

「くっ……!」


 あるみの提案に全員賛成する。


 アリィの攻撃の隙をつき、カードレールを飛び越える。


 輪道達の後を追い、駆け足で山の斜面を駆け降りる。

 道無き雑木林。雑草、や木々が行く手を遮る。


「ぐぁっぷ! 草が口にっ!」


「ちょっと、晴士朗! 何やってんのよ!」


「き、き、き、木の枝が……」


 急ぎたくても急げない状況に、全員が悪戦苦闘する。



 前方の輪道とその部下も切り開かれていな山道に苦戦していた。


「何をしている! 急げ!」


 輪道は手にした拳銃を使い、後方に発砲。その間、部下に道を切り開かせた。

 屈強な部下は、全身に傷を負いながらも道を切り開く。


 輪道の放った銃弾は当たることは無かったが、強烈な銃声と木の幹に当たる音。身を守りながら樹達は進行を進める。


 銃弾が尽きたのか、銃声が聞こえなくなったところで、樹達は輪道が作った道を……それでも“道”と呼べたモノでは無かったが、必死で追いかける。


 背後から感じる炎の気配。

 アリィはゴシックファッションが仇となり、進行が遅れるも、周囲の木々を燃やしながら樹達を追う。



 輪道達は斜面を下りきり、河原を走る。


 タッチの差で追いついた樹とあるみ。


「待てっっ!!」


「くっ……お前達、そこを死守しろ!」


 輪道に指示された部下は、振り返り拳を作った。


「ぐっ……」


 鋭い目つき。軍人としての訓練も受けている二人の部下。

 輪道が数あるフォースメンバーの中からこの二人を選んだ、ということから推測される有能な人材。

 あるみも戦闘のフォームを取るが、樹は()焼刃(やきば)で剣術は習ったが、格闘術を習った覚えは無い……。とりあえず、相手のファイティングポーズを真似る。



 そんな二人の合間を一つの影が過ぎる。


「ここは俺達に任せろ!」


 晴士朗の強烈なタックルに一人倒れ込む。


 次いで鉄のタックル。倒れる事は無かったが、突然現れた長身の鉄に部下は怯んだ。


「早く! 早く! 急いで!!」


 りぼんの声に、樹とあるみは河に目を向ける。


 輪道が水しぶきを上げ、懸命に河を渡っていた。目前に輝くダンジョンのゲートを目指している。

 何度も転げたのであろう、全身水浸しで老体に鞭を打ち必死であった。


「!!」


「急がないと!」


 樹とあるみはゲートを目指す。

 河の水は凍てつく寒さであったが、気にしては居られない。共に入るタイミングがずれてしまえば、ゲートは一時間は開く事は無い。


 河の中は足場が悪く二人は何度も足を取られたが、若い二人は、なんとか体勢を整えながらも必死でゲートを目指す。



 ――その時であった。

 河の水が盛り上がり、水しぶきを上げアリィが水中から現れた。


「ア、アリィ!?」


 衣装を脱ぎ払い、下着姿のアリィ。

 目の前に現れるなり、業火を吐く。


弐城(にじょう)さん!」


 樹はあるみに飛びかかり、河の中に潜る。



「「――ゴボゴボゴボゴボゴボ……」」


 アリィの業火は水中を照らし出す。



「っ……ぶはっ!」

「……ッゴホ、ゴッホ、ありがとう……ゴホッゴホ」


 アリィの急襲。時間を取られている間に輪道はゲートに到着していた。

 息を切らし、二人を見下ろす。


「……はぁ、はぁッはぁ、ッはぁ、はぁッ……ふ、っふはははははは!」


 到達した達成感に、輪道は目を見開き笑いを漏らす。


 輪道は、周囲を見渡した。駆け降りた斜面は山火事のように火が燃え上がり、黒煙は月を隠す。

 対岸では二人の部下が戦闘し、河の中央を必死で追う若い男女をアリィが阻害し役目を果たしてくれている。

 どれだけ頑張ろうとも、命を削ろうとも、それらは空しく終わるであろう。

 対岸に映る景色を、理想する世界と重ね合わせながら、懐からゆっくりと王冠を取り出す。


「終わりだ。ッははは……っはははハハハハ! ッハハハハハ!!」


 高笑いと共に、輪道の姿はダンジョンの内部へと消えて行った。

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