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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第三章【多摩川ダンジョン】
21/48

7

 現れるモンスターは多種多様であった。


 巨大な蝙蝠(こうもり)、目の無い人型のモンスター、瘴気(しょうき)(まと)った甲冑、さまざまなモンスターが奥に進むにつれ姿を現す。遥か昔に刻み込まれた記憶の片隅に、そして古くから語られる物語として受け継がれてきたであろう姿形で(たつき)達に襲いかかる。


 幸い、このダンジョンは初めに倒したナーガがトップクラスの強さだったようで、アーティファクトを装備した五人は難なく倒し進むことが出来た。


 樹は精一杯剣を振ったが、奮闘もむなしく早い段階で戦力外とみなされていた。

 装備も並み以下、アーティファクトによる特殊技能も無し、魔法も使えず、エルトルによる基本的な身体強化もままならない。戦闘では危なっかしく剣を振るだけの戦闘方法に、あるみ判断でストップがかかった。


 次々と倒されるモンスター。樹は、自分にできる最低限の仕事として“ドロップしたアーティファクトの採取役”となっていた。


 滝壺で死んだ男以外のウォーカーの姿は見る事が無かった。到達したと思われる人の痕跡(こんせき)も、その頃には見る事も無く、ただひたすらに五人は道を進んでゆく。


         ◆


 十時間以上は経過したであろうか、全身に疲労が感じられる。


 銀慈に渡された袋は、アーティファクトや希少金属と思われる鉱石で一杯になっていた。

 樹に、それらの価値(レアリティ)は分からなかったが、物知りな鉄が、ギルド間の共闘として、公平に取得アイテムを分配した。



 ――そして、ついに五人はダンジョンの最深部に到着した。


 目の前には、ダンジョンで見かける文字が羅列(られつ)された巨大な扉が堅く閉ざされている。


 (てつ)が扉を調べる。


「と、と、特に仕掛けは無さそう」


 樹はおもむろに、扉に手を当てる。

「くっ………………。はぁ、はぁ、とてもじゃないけど押しても開かないな」


 巨大な岩を思わせる扉。ピクリとも動かなかった。


「――まかせな」


 一角の鬼が扉の前に立つ。

「一人じゃ無理ですよ!」


 晴士朗(せいしろう)は不敵に笑うと、扉に両手を添え、全身に力を加えた。

「――うぉぉぉぉぉぉ! うぐぐぐぐぐ……ックォォォォ!」


 地盤は足の形に陥没(かんぼつ)し、洞窟の岩盤と扉の接地面からはバラバラと小石が落ちる。

 樹はその光景に、言葉が出なかった。


 鈍く、小石をすり潰す様な音と共に、扉がゆっくりと開く。

 力担当の晴士朗。アーティファクトの力と、体内のエルトルを全身に注ぎ恐るべき怪力を発揮する。


「――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 両膝をついて、晴士朗は息を整える。


「さー開いた開いた! 行くわよ!」「い、行きましょう」


 (ねぎらい)いの言葉もなく、りぼんと鉄、あるみは、スタスタと通り抜ける。

「――……あ、あれ、ひどくね?」



 扉の奥は、明らかに人為的に作られた空間であった。

 内部は、藍色(あいいろ)の金属で作られ、地面、壁に至るまで文字が刻印されている。三十メートル四方のドーム状の空間。


 中央に、丸くうずまる塊が見える。


「ねえ、あれ何?」

 りぼんが塊を指差す。


「な、な、なんでしょうか……」


 あるみは言葉一つ出さず、既に戦闘状態に入る。

 そんなあるみの姿を見て、樹も剣を構える。


 足元の文字、壁の文字は突然青く輝き、部屋全体を照らす。


 中央の塊は、全身を軋ませながら、ゆっくりと立ち上がる。

 体長は四メートル程、人型のシルエットで巨大な腕と足がアンバランスにその巨体を支えていた。


「ロボット!?」


 りぼんが叫ぶ。そう思わせるのも無理は無いシルエットだったが、ファンタジー的には、巨像やゴーレムを思わせる風貌(ふうぼう)であった。

 最深部を守る“番兵(ばんぺい)”。起動されるように両目が鈍く光る。


 番兵は狙いを定め、垂直に両腕を伸ばす。


「みんな! 離れて!」


 あるみの一言とコンマ数秒の差で発射される巨大な腕。


 見切れる速さではあったが、唐突な攻撃。寸前でかわす。


 巨大な腕は壁に激突。ホール内に衝撃音が響き渡った。腕は繋がれた鎖によってジャラジャラと音を立てて回収される。


「「「ロ、ロケットパンチ?」」」


 樹、あるみ、鉄は思わず叫んでしまう。

 古典的な技。しかし破壊力は抜群。それが無尽蔵(むじんぞう)に繰り出されるとなると言葉を失う。


 番兵は更に、ロケットパンチを発射する。速度は速くなくとも、並みの装備では全身の骨が砕けてしまうだろう。


 更に、腕伸びた腕を回転させ鉄球のように遠距離攻撃を仕掛ける。

 番兵のコンビネーション攻撃に四人は近づけない。


 しかし、黒い残像が巨大な腕の前に立ちはだかった。


「――ぐぉぉぉらぁぁぁぁっっ!」


 黒い一角の鬼は全身を使い、ロケットパンチを受け止める。


 ストッパー代わりに立てた足の爪が、火花と不快な金属音を発生させる。

 地面に刻まれたレールにも似た(あと)は十メートルはあった。


「――がっ……はっ。どうだ……」

 晴士朗は息も絶え絶え、番兵の片腕を受け止め封印する。


「さっすが! 晴士朗! 鉄、バックアップ頼んだわよ!」


 りぼんは黄金の鞘から剣を抜き取ると同時に、地面を蹴り、擦るように素早く接近する。


 剣からは微かに気の揺らめき(オーラ)が見える。

 鉄は後方で、りぼんの剣に火の魔法を付与(ふよ)する。火の力を取りこんだ黄金の剣は赤銅色に変化。


「えぇえええぇいっ!」


 掛け声と共に振りかぶる。残光を残しながら垂直に下ろされた一太刀は、軽快な音と共に、本体と腕を繋ぐ鎖を断ち切った。


 張り詰めた鎖が断ち切られ、番兵は体勢を崩し後ろに倒れる。


 ――その背後には機会をうかがっていたあるみが待機していた。

 七本の剣の一つであろう、日本刀に似た白い刀。脇構えで集中する。


 巨大な体が影を作り、あるみに迫る。

 番兵が完全に覆いかぶさる寸前、放たれた一閃。


 刃斬(はざん)は番兵の胴を真っ二つに切り裂き、斬撃は天井に大きな爪痕を残した。


 半分に切断された番兵。中央に立ち尽くすあるみ。


「やった! やったー!」

「や、や、やりました」


 鉄とりぼんは飛び上がり喜ぶ。


「……回復……してくれ」

 巨大な腕に潰されたままの晴士朗が微かに呟く。


「い、い、今向かう」


 りぼん、鉄、晴士朗はダンジョン攻略の喜びに浸っている。戦闘は全然であったが、樹も生還した喜びに包まれていた。


 しかし、ダンジョン攻略を一番望んでいたあるみの表情は硬く、どこか曇っていた。


「弐城さん……?」

 番兵がドロップしたアーティファクトを拾いながら、樹はあるみの表情が気になる。


「……――ゲートが開くわ。戻りましょ」

 普段通りの表情。それでも、どこか悲しげな、胸に刺さる表情であった。

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