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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第三章【多摩川ダンジョン】
17/48

3

 内部での情報収集、そしてダンジョンの攻略。出来れば希少金属やアーティファクトの採取。

 銀慈(ぎんじ)(たつき)に伝えた事は、この三つであった。


 黒く小さな腰袋を渡される。


「戦闘はあるみに任せとけ、手に入れた物は袋に入れて持ち帰ってくるんだ。気合い入れて行って来い」


 銀慈は、景気付けに樹の背中を力強く叩く。


「って、てて」

 樹はよろけながらも、入口に近づいた。


 すでに入口には、あるみ、りぼん、(てつ)晴士朗(せいしろう)が準備を済ませて待機していた。

 それぞれ自分の装備に応じたインナー姿で、河川敷(かせんじき)に吹く強風に身を丸めている。


 そして、やはりだが、その姿は注目を浴びていた。

 ほぼ下着姿に近い姿。周囲の野郎共の視線を集める。主にあるみに、その視線は注がれていたが、銀慈のような趣向の者も数名居るようで、鼻を伸ばし、りぼんの姿を眺めている。


 ダンジョンウォーカーの男女比としては、それほど差は無いであろうが、やはり危険な仕事であるため、女性を見かける比率は三割ほど。

 男女比の(かたよ)りが激しい現場でこのシーンを見ないわけにはいかないだろう。


「ちょっと! 寒いじゃない! 早くしなさいよ!」


 樹はりぼんにどやされ、急いで支度をする。


「す、すみません」


 背後では銀慈とローゼが見守る。


「じゃあ、行くわよ!」

 初めてダンジョンに入った時のように、全身を(まばゆ)い光に包まれた。


         ◆


 ――視界が開ける。


 河川敷の乾いた冷たさから、湿度を含んだしっとりとした冷たさに変わったのを肌で感じ取る。

 周囲は霧が立ち込め、幻想的な雰囲気であった。

 山岳地帯なのか、切立った岩が(そび)え、霧に(かす)んだ枯れ木は人の姿を思わせる。


 辺りの岩はどういう成分で構成されているのか分からないが、エメラルドグリーンの濃淡が鮮やかであった。

 頭上は曇り、周囲は岩壁と痩せた木々、そして奇妙な植物が自生している。


桃寺(ももでら)くん、アーティファクトを『コンバート』させて」


「コンバート……?」


 初めて聞く言葉だったが、すぐにピンとくる。

 樹はポーチに入れていたアーティファクトを取り出し装着した。


 腕輪は漆黒の煙となって身を包み、黒い鎧に変化する。初めて装備した白銀の鎧とは違い、どこかゴツさがあり赤い腰布が目を引く。

 しかし、黒い鎧は白銀の鎧より、“身を守られている感”が薄く、頼りなさを感じた。


 樹がそう感じたのもそのはずで、初めて装備したアーティファクトは“希少アーティファクト”であった。

 希少アーティファクトは通常のアーティファクトよりエルトルの供給が多い。(または奪う物もある)

 樹はその差を体感的に感じていた。

 初めのダンジョンで樹が“防御壁(シールド)”を張る事が出来たのも、希少アーティファクトの“特殊技能”からであった。


 残りの指輪を装備すると、輝きと同時に剣に変化した。

 感覚を確かめるようにしっかりと握りしめる。幅広で反りが無く重厚感のあるファルシオンに似た剣だった。

 『武 器 型(ウェポンタイプ)』としては最もスタンダードな刀剣。そして、この装備も特別な効果は無く見た目通りの重さが腕全体に伝わる。


 それでも樹は戦棍よりは気に入っていた。

 『剣の方がカッコイイから!』という単純思い。


 自身の力を数倍に高める時価数百万円の戦棍(メイス)は、何の効果も持たない数万円の刀剣に思い負けした。


「――出来たよ」


 樹はコンバート完了した自分の姿をまじまじと眺める。

 RPGだと物語中盤といった感じであった。


 樹の姿を確認したあるみは、アミュレットを取りだす。

 髪を後ろで束ね、アミュレットを首から下げる。

 

 アミュレットは輝きと共に白い鎧に変化した。

 あるみの髪の色も、根元からゆっくりとグラデーションを描きながら純白に変わってゆく。

 ゆっくりと目を見開き、あるみのコンバートは完了した。


 胸元から肩までは装甲で覆われ肩口はノースリーブのように地肌が見え、身体にフィットした、動きやすさと美しさを兼ね備えた装備であった。


「さ、行きましょう」


 樹は別人のようなあるみに動揺する。

「あ、あれ……武器はいいの?」


「もう出てるわ」


 背後に何かが浮遊していた。透明だが、光の屈折で形が分かる。

 数えれば七本の剣が、あるみの背後に浮遊していた。


 『武 装 型(アーマメントタイプ)』のアーティファクト。

 『武 装 型(アーマメントタイプ)』は一つ装備するだけで身体に影響する負荷が恐ろしく強い。その分、身体の向上、魔力値の上昇は見込めるが、防御面において防ぐ手段が少ない事が難点であった。


 その点、あるみのダンジョンに対するストイックな精神は、そんな『武 装 型(アーマメントタイプ)』の特質と合っていた。


「握れば実体として姿を現すわ。さ、ダンジョンを目指しましょ」



 山岳地帯に足を踏み出した瞬間、


「ちょっと! 待ってあげたんだから、待ちなさいよ!」


 霧の中からりぼん達が現れる。その姿は、未だコンバートしていない。


「……私達には私達の仕事があるんだけど」


「はぁ?」

 あるみの角が立つような言いように、樹が割って入る。


「まぁまぁ、一緒に入れてもらったんだから、待ってあげようよ」


 仕方がないといった様子で、あるみは三人のコンバートを待つ。


 りぼんは、腕輪を装備すると赤く輝き深紅の鎧に身を包まれた。金色の装飾は髪の色と相まって、相応しい装備のように思える。瞳の色も、ブルーから燃えるような赤に変化し、りぼんの燃えるような勢いに拍車をかけていた。


 もう一つ指輪を装備すると、黄金の鞘の剣に変化した。身長差からその剣は大きく、クレイモアを思い起こさせる。


 背の高い痩せたロン毛の男、案山子(かかし)(てつ)は腕輪を装備する。右腕から胴回りまでを守る半装甲の鎧で、更にはめられた指輪は黒い杖に変化する。見た目からして、魔術師のような風貌(ふうぼう)であった。


 『武 器 型(ウェポンタイプ)』としては数がそれほど多くない杖。それに加え(あつか)える人間の少なさから、魔術師タイプの人間は貴重な存在であった。


 背の低い小柄な男、虹裏(にじうら)晴士朗(せいしろう)は、インナー姿から鍛え上げた屈強な体を見せていた。


 取り出した首輪を装着すると、首輪は瞬時に全身を覆い、灰色の塊となった。

 二メートルほどの灰色の塊は、有角の人型に形成さる。『武 装 型(アーマメントタイプ)』でも武器を持たない格闘タイプのアーティファクト。

 アメコミのヒーローを思わせる風貌に形を変え、黒を基調とした色合いがにじみ出し変身の完了を伝えた。


 深紅の女戦士、装甲魔術師、異色の武闘家そんな三人と行動を共にすることとなった。

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