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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第三章【多摩川ダンジョン】
16/48

2

 日は沈み、空は夜の闇と茜色のグラデーションに彩られていた。

 銀慈の運転する黒い車は、目的地である多摩川沿いダンジョンまでやや速いスピードで公道を駆ける。


 現地周辺。河川敷(かせんじき)の野球グランドから天高くそびえるダンジョンが見えた。

 数日前に現れたダンジョンに地域住民は不安の色を隠せない様子で、数組の見物人が河川敷に集まっている。


 半径数百メートルを立ち入り禁止区域とし、ダンジョンの周りにはブルーシートが()かれていた。時折吹く北風にシートはためき、バタバタと音を立てる。

 一か所だけ開けられた入口には、数人の列が出来ている。


 到着した頃には周囲は暗く、数台のライトが発電機により稼働していた。

 車を止め、四人は入口を目指す。


「許可書は?」


 朱色のつなぎに帽子をかぶった男が許可書の提示を求める。

 あるみは許可書を提示し、四人は中に入る事が出来た。

 男の肩には、塔に雷のマーク。ダンジョンフォースを印すマークであった。


 ブルーシートの中に入ると、屈強な戦士の控室といった様子でジロリと樹達を睨む。どの顔にも、死線をくぐった独特の落ち着きとピリピリとした緊張があった。

 数名単位のグループでダンジョンの周囲を囲む。

 ざっと三十名ほどのウォーカーがその場には居た。


 しかし、銀慈とあるみの姿を見た人々はサッと目を逸らした。

 中には焦り、隅に隠れる者まで居る。


「なんか、萎縮(いしゅく)されてるんですけど……」

 樹はそっと、ローゼに耳打ちする。


「くすっ。そうね、銀慈とあるみちゃんはこのあたりじゃ割と知られてるのよ。“絶対攻略(ぜったいこうりゃく)あるみ”と“怪力銀慈”」


「なんですかそれ?」


「あるみちゃんはダンジョンを資源調達の場所として見てないの。だから手を抜く事なく一直線にダンジョンを攻略するスタイルから“あるみ現れる所ダンジョン残らず”って言われるほどよ。銀慈は銀慈で、威圧して周りを黙らせてる。だって、普通の人間じゃどうあがいたって銀慈に力では勝てないもの。そんな二人を、悔しそうに見る周りが面白くって」


 くすりと笑いながらローザは答えた。


「――どうだ、例の男は居そうか?」


 銀慈の質問に樹は辺りを見回す。


「――居ないみたいです」


「そうか、じゃあ次は内部(なか)だな」


 ダンジョンの入り口に向かって堂々と歩み寄る。

 しかし、ゲートは光を失い閉ざされていた。


「先客か……おい、どれくらい前に入ったんだ?」


 ダンジョンのゲート前に立つダンジョンフォースの男に問いかける。


「は、そうですね……かれこれ四十分くらい前だったかと」


 ダンジョンの入り口は侵入の度、一時間程度ゲートが閉まる。一度の侵入で入れる人数はおおよそ十人程であった。


「――あと二十分そこそこか。次はどのギルドだ?」



「次は、あたしたちよ!」


 四人の背後から声が聞こえる。

 樹以外の三人は、聞きなれた声に振り返る。

 目の前には、朱色のつなぎを着た三人組。


 ロン毛で猫背の高い痩せた男と、短髪でひどく身長の低い筋肉質な男。

 両脇を(いびつ)(かま)えた中央に、腕を組みをした仁王立ちの女の子。

 その他の屈強そうなギルドとは違い、思わず笑みがこぼれそうな……そんな三人組。サーカス団員を思わせる。


「なぁんだ……次は、りぼんちゃんの番だったのか。話しは早い! 次ゲートが開いたら一緒に入らせてくれよ」

 銀慈の声色が変わる。それに加えちゃん付け。樹は茫然(ぼうぜん)と銀慈を見た。


 声をかけてきた、中央に仁王立ちする女の子。

 ハーフなのであろうか、少し癖のある金髪ツインテールに輝くブルーの瞳。小さな鼻ときゅっと結ばれた口は人形の様な可愛らしさがある。しかし雰囲気は、どこか攻撃的で好奇心に溢れた、ライオンの子どもを思わせる。


「い・や・よ」


 結ばれた口から放たれた拒否の言葉。


「そんな事言わないでくれよ、お願い!」


 銀慈がこれほど下手に出ても、ツンとした態度は変わらない。


「あなたが行くわけじゃないでしょ」


 そう言うと、りぼんと呼ばれた少女はあるみを見る。

 身長差から睨んでいるように思えたが、間違いでは無さそうな空気が漂う。


「オラ、――あるみ」

 銀慈は肘であるみを突く。

 一瞬、不機嫌な表情をしたあるみは、


「…………おねがい」


 抑揚無く、冷ややかに頼む。


「はぁぁ? お願いし・ま・す! でしょ! コッチはあんたより年上なのよ!」


 怒りに声を荒げる。それよりも、年上という発言に樹は驚く。

 どう見ても、中学生だろ……と、言葉には出さずに心でつぶやく。


「おぉい~、お前のせいでりぼんちゃん、ぷんすかじゃねぇか。ごめんなぁウチの者が礼儀知らずで」


 親戚のおじさんか! 樹は心で突っ込むと同時に、銀慈のSAOのキャラメイクを思い出す。


「……どこか、似てるような?」

 銀慈の性癖について良からぬ邪推(じゃすい)を巡らせる。


 そんな樹にりぼんは視線を向けた。

 少し睨みつけたようなブルーの瞳。ずかずかとりぼんは樹に近寄った。


「あなた、誰?」


 突然の問いかけに驚く。


「えっ僕?」


「そうよ、アンタ以外に誰が居るのよ」


 驚くというよりは、詰め寄るりぼんの威圧感が凄かった。

 どこか圧倒され、心なしに体は後退していた。


「えっと、僕は……」

 ギルドのメンバーでもないし、請負人ってのは嘘だし、なんて答えればいいのか分からない。そんな樹を見かねた銀慈が口を開く。


「……そいつは桃寺樹って言ってな、その、あるみのアレよ」

 小指を立てる。


「「「えぇぇぇぇ!」」」


 三人の視線が、樹に移った所で、銀慈は立てた小指で鼻の穴に入れる。

 りぼんは驚愕の表情を浮かべ、両隣(りょうどなり)の男は怒りと嫉妬の表情に顔を歪ました。


「はぁ? それってホント! ねぇ!」

「し、し、信じられない……!」

「パッと出で、そりゃねぇッしょ!」


 三人に掴みかかられる樹を尻目に、銀慈は鼻くそを飛ばす。

 渦中の樹の表情を見てニヤニヤと笑う。

 あるみは、何が起こったのか分からない様子で頭にはクエスチョンマークを浮かべる。


「ちょ! イたた、離して! 違います! そんなんじゃないです! 単に高校が一緒だったってだけで」


 三人は納得していないようだが、一旦落ち着きを取り戻す。


「……ホント?」

「本当です!」


 三人は銀慈を睨むが、

「俺は何も、そこまで言ってねぇよ。アレって言っただけだ」


 銀慈のジョークに、怒りよりも、安堵(あんど)の色が強く、

「ま、ま、まぁ、りぼんさん。いいじゃありませんか」

「確かに、数が多い方が安全っしょ」

 どうも下心が見え見えな男二人はりぼんをなだめる。


「はぁ? あんた達ねぇ……わ、私は嫌だけどね! でも仕方ないわ」


 りぼんは樹をチラリと見る。

「アンタ、その、あいつの事はどう思ってるの」


 りぼんは腕を組み、ブルーの瞳で睨みながら樹に問いかける。


「えっ……」

 率直に、気にはなっているとは言えない。


「べ、別に、どうも思ってないですよ」

 あるみには聞かれないように、ひっそりと、それでいて毅然(きぜん)ぶった態度で答えた。


「ふんっ、そう。なら良いんだけど。――ほらっ行くわよ」

 三人はブルーシートの橋に戻る。


「なんだ、あの騒がしい子……」


 台風のような騒ぎであった。


「面白いだろ。金髪ツインテの子が角畑(かどばたけ)りぼん。ロン毛ノッポが案山子(かかし)(てつ)。ちびが虹裏(にじうら)晴士朗(せいしろう)だ」


 数十メートル離れた場所でも、騒がしく準備をする様子が分かる。


「ダンジョンフォースの……まぁ、“どべ”だな。ああいうチームは見ていて応援したくなる」

「どべって……」


「三人から四人一組で組まれる事が多い、ダンジョンフォースにはそれぞれ県や地区ごとに管轄(かんかつ)するチームが置かれてあるが、主に台東区を拠点としてるのが、りぼんちゃんのチーム、よく会う見慣れたチームだ」


 銀慈の話を聞いている最中にも、りぼん達はブルーシートの隅で何か言い争いをしていた。


「は、はは……なんとなく、最下位ってのは分かります」


 そうこうしている内に、ダンジョンのゲートは淡い輝きを取り戻した。

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