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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第二章【サングラスと次元】
14/48

6

 三人から驚きの声が上がる。


 銀慈は、驚きと苛立ちを交えた声で、

「おぃ、どういう事だ!」


 テーブルを激しく叩く。


「知らなかったんです! ホントに!」

 樹は恐怖に身を守りながら答えた。


「大丈夫よ。あたし達、責めてるわけじゃないから。銀慈もそんなに詰め寄ったら話しずらいでしょ。何があったか説明して」


 ローゼが銀慈を鎮める。あるみは初めから樹の話を聞く姿勢をとっている。


         ◆


 説明に時間はかからなかった。


 話を聞き終わった三人は、事件現場に集まった刑事の様な表情を浮かべていた。

「ダンジョンが次元を越える前に、ピンポイントで予想するなんて……そんなに正確にダンジョンの出現場所を特定できるサーチャーが存在するとは到底思えん……」


 サーチャーとしての力。

 それは、生体や物から発生するエルトルを感知出来る能力。


 太古の昔に、到達したヴォイル派の種族から受け継がれた力であった。

 異次元では当たり前に使用されているエルトルも、樹達の住むこの次元では極端に少ない。このエルトルの少ない環境に適応するために、進化した一つの種族が現在の人の姿である。


 しかし今現在、魔力周期の高まりによる“魔力の余波”を受けた人類は先祖返(せんぞが)りのような現象が起こっていた。


 体内で少量エルトルを生成出来るようになった人類。エルトルの生成が多い人間はダンジョンウォーカーへ、生成量が少なくダンジョンへ潜る事は出来ないが、霊感にも似た鋭い感覚を持った人間はダンジョンサーチャーとなった。


 ダンジョンサーチャーは発生源を包み込むようなオーラとして可視出来るらしいが、通常のウォーカーには見ることが出来ない。

 次元を超えるほどのエネルギーを持つダンジョンの周辺には、多量のエルトルが溢れる。それをサーチャーは感知して行動に移すのだそうだ。


 ゆえに、発生前まで予測して行動する事は不可能とまでは言えないが、銀慈は聞いたことがなかった。


「その男は何か言ってなかったのか? 他に、……こう、重要な事に結びつきそうな話とか」


 数日前の記憶を思い出そうとするが、ダンジョンと報酬の驚きが大きすぎて上手く思い出せない。


「うーん……男は名乗らなかったし、女の子の名前は確か……アリィ。それ以外話してた事は……王冠が必要ということと、詮索しない事、喋っ……あ」


 詮索しない事、喋らない事。

 今になって思い出され、思わず口を塞いでしまう。


「もう遅いわよ。ようは、釘を刺されたってことね」


 ローゼの言葉に、樹はこくりと頷く。


「――ゴスっ子を連れた白人か。個人で五千万って大金も異常だ、裏に組織があるのかもしれん……」


「まぁまぁ。こんな偶然でなんだけど、少しでも情報を手に入れる事ができて良かったじゃないの」


 雰囲気からして、Vシネのワンシーンを見ているかのような構図である。

 銀慈は思っても無かった結果に、策を巡らせている様子で、あるみも同じく考えに更ける。


 五千万という大金を払って手に入れたアーティファクトを手放すとは考えられない。市場に出回る事はまずないだろう。

 個人の仕業か団体での仕業なのか。そして、どうして王冠の秘密を知っているのか…………全ては謎のままに時間だけが過ぎる。


「桃寺くん、男の顔は覚えてないの?」

 あるみが不意に樹に質問する。


「すぐには思い出せないけど、見れば思い出せる。女の子は確実に覚えてるから、一緒に居ればすぐに分かるよ」


「……銀慈、この周辺で今、人が集まりそうなダンジョンって何所?」


「ん? そうだなぁ、神奈川の横須賀、その次が静岡……この辺りは、大型ダンジョンで攻略もされてない、希少金属や財宝目当てにギルドがわんさか集まってるらしいが」


 銀慈は現在あるダンジョンの数を正確に記憶している。

 国が運営するサイト、“ダンジョン出現マップ”。一般市民に危険地区への警戒を呼び掛ける災害マップのようなものだが、ギルドにとっては、現在どこにダンジョンが出現しているか分かる、言わば“クエスト表”の役割を果たしていた。


「もう少し近くで」


「それなら……最近出来た大田区と川崎市の境目、多摩川のダンジョンが一番近いな。まだ未開のダンジョンだからな、ダンジョンフォースもギルドも様子を見に集まってるらしい。それがどうかしたのか?」


「いえ……もしかしたら、大衆に紛れてその男も来るかと思って。とにかく少しでも手がかりになる情報を集めるなら同業者に聞く方が早いと思うわ」


「ふむ、確かに……目的はあるはずだ。個人、団体にしても、どこかで誰かと接点はあるはずだな。よし、そうなりゃしらみつぶしにダンジョンに出向くか」


 銀慈は樹に視線を向ける。

「えっ、な、なんでしょう」


「話しは聞いただろ? お前はあるみと協力して、ダンジョンに潜入するんだ。少しでも情報を手に入れたら報告。いいな」


「えっ! 僕もダンジョンに潜るんですか!」


 情報収集だけかと思っていた樹は驚きに声を上げる。


「あったりまえだろ? こうなりゃお前さんも同罪だ。死ぬ気で情報を持ってこい」


「えぇ~!」


「まぁ可哀想だけど、頑張って」

 血も涙も無い、正真正銘(しょうしんしょうめい)怪物の二人は冷ややかに樹を後押しする。


 助けを乞う視線をあるみに向けるが、

「頑張りましょう」

 巻き込んでしまった事、銀慈の非礼。それらを「大丈夫」と答えた樹の言葉をまともに受け取ったあるみの中で、樹はこの件のメンバーとして登録されてしまっていた。


「は、ははははは……」


 乾いた笑いがに響く。

 初めてダンジョンを攻略した夜“また、行ってみたい”というおぼろげな願いは、二週間もかからずに叶えられることとなった。

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