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Dungeon Walker【ダンジョンウォーカー】  作者: 荷獣肋
第二章【サングラスと次元】
11/48

3

 銀慈(ぎんじ)に起こされ、樹はボックス席に座らされた。 

 新しいとも古いとも言い難いソファーであったが、(ほこり)っぽさを除けば座り心地は上々。


 興奮冷めやらぬ(たつき)は、未だ落ち着かない様子であった。

 

 あるみは外の自動販売機から、あったかい缶コーヒーを買って戻ってくる。

 穏やかなコーヒーの香りに樹は少し落ち着きを取り戻した。


 あるみは、銀慈の取った行動に苛立ちを覚えたのか機嫌が良くない。どこか呆れた様子で、脚を組み座っている。



「俺は罪運(ざいうん)銀慈(ぎんじ)。さっきは試して悪かったな。その~……なんだ、心意気ってやつを見たくてな」


 悪びれた様子も無く、銀慈は低く重いトーンで軽快に自己紹介する。


「僕は、桃寺(ももでら)(たつき)……」

 銀慈の雰囲気がガラリと変わり樹は困惑していた。


 樹、あるみの沈黙に話しずらそうな銀慈。


「――いやぁ、すまんすまん……まぁ、見た瞬間から素人ってのは分かった。挙動、(たたず)まい、呼吸、心音。それでも、ダンジョンウォーカーである事には間違い無い。とにかく人手が欲しくてな。根性を試させてもらった」


 銀慈の独断で決行した芝居に、あるみは鼻でため息をつく。


「おいおい、その態度は無ぇんじゃねぇか? お前も調査不足だろうよ。もしこの男が回し者だった場合どう責任取るつもりだったんだ?」


「……僕、回し者なんかじゃないですよ?」

 すでにリアクションに疲れていた樹は、突然の回し者疑惑をさらりと否定する。


「そりゃ見れば分かる、もしもの話だ。所で、お前さんギルドにもフォースにも所属してないんだって?」


 フォースとはダンジョンフォースの事だろう……ギルドとは? 樹は疑問に思っていた事を銀慈に聞く。


「……ギルドってなんですか?」


 銀慈は少し首を傾げながら、


「本当に何も知らないんだな。スカウトがあった時に説明を受けなかったのか? まぁいいが……ギルドって言葉くらいは聞いたことがあろだろう。ギルドってのは、企業で考えるとフォースが大手。ギルドは零細。デカイ組織と小さい組織。どっちもウォーカーが集まる団体には変わりないが、フォースは世界公認のギルドだからな、そりゃ優遇もされるし福利厚生(ふくりこうせい)もしっかりしてる。通常じゃ受けれないダンジョンでの死亡保険も特別に適用されてるらしい……」


 銀慈は一呼吸置く。


「だが、フォース以外のギルドはギルドマスターに委ねられる。税務署に書類を提示すれば誰でもギルドを開設する事が出来るが……ギルドを運営するには面倒くせぇ書類。月々の納税。ダンジョンで入手した貴重品やアーティファクトの申請。まぁ誰も守ってねぇが貴重なアーティファクトの提供義務なんか、まぁ、七面倒くせぇ事だらけだ」


 なるほど、と頷きながら樹は話を聞く。


「それじゃあこのギルドのマスターは」


 銀慈に目線を向けるが、

「――俺じゃない」


 銀慈は、機嫌の悪いあるみを顎で指す。


「えっ、弐城(にじょう)さんがギルドマスター?」


「形だけ。名義は私で登録してるけど、取り仕切ってるのは、この男よ」


 銀慈は不気味な笑顔(スマイル)を作り上げる。


「訳があってな。それはそうと、お前さんに依頼したい話しだが」


 どさくさに紛れて言い放った“事故物件”や“拳銃”を忘れた訳ではなかった。

 恐らく“そっち系”と繋がりがあるのであろうと樹は推測した。


「い、依頼ですか」


 忘れてたと言わんばかりに取り繕う。あわよくば断わりたかったが、勢いで行動してしまった事もあり、後には引けない状況になっていた。


「アーティファクトは分かるか?」


「……わ、分かります」


「アーティファクトは分かるのか……なら、話は早い。俺たちはあるアーティファクトを探している。そいつを見つけるために少しばかり手を貸して欲しい」


 またアーティファクトの話し? 聞きなれた単語に少しばかりの嫌気を感じる。

 そんなに重要な物なのであろうか? ダンジョンの中で使う事が出来たとしても、こちらでは単なる装飾品。多少の珍しさを考えればコレクターが存在する事も分からなくもないが……。


「どうして、そんなにアーティファクトが必要なんですか?」


「ふむ、なぜ必要か、か……」


 銀慈は席を立ち、カウンターに置かれていた黒い本を手にして戻ってきた。


「いわゆる“預言書”ってやつだ。詳しいことは忘れたが……数百年前にアフリカのシャーマンが残した預言書だったはずだ……」


 銀慈から手渡された黒い装丁の本。

 一度、燃えた跡があり、全体的に煤け、ページの端々は茶色く変色している。後半のページは焼失していた。

 筆記体(ひっきたい)とアラビア文字を混ぜた様な見た事も無い文字であった。


「予言書……?」


 銀慈はゆっくりと大きく頷いた。


「俺が昔、海外で用心棒として雇われていた頃。オークションで落札された大量の骨董品を輸送している時だ。トレーラーが急に襲われてな……荷台に乗っていた俺はギリギリで助かった。――何がブチ込まれたのか分からんが、爆発で運転手もろとも運転席は吹っ飛び、荷台にあった骨董品のほとんども焼失してしまった。犯行理由は分からん。闇取引だったからな。情報が漏れて、競り落とせなかった買い手が怒りにまかせて襲撃したのだろう思うが…………その爆発事故の時に、偶然手に入れた物だ」


 昔を思い出す様に銀慈は滔々(たんたん)と語る。


「――意味を解読し、理解するのに十年以上かかった。この預言書に書かれてある事実が本当かどうかは分からん。だが俺は信じる価値はあると思っている、書かれてあるのは主にダンジョン関連の事についてだ。レッドドラゴンの襲来も予言していたし、それに近年乱立するダンジョンの数々、そしてどうして俺たちがそのアーティファクトを手に入れなきゃならねぇかって話だが――」


 樹は息をのむ。



「――世界の破壊を止めるためだ」


「……えっ?」

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