甘いお誘い…
幹彦がベティに誘いを受けているちょうど同じ時、心美は雫と話し合っていた。
「雫さん、お願いします。新しいライフルを出してください!幹彦君が危ないんです!」
「落ち着いてココちゃん。相手は話し合いを望んでいたのよ?殺したりしないわ」
「でも、あの女絶対危険です!」
「冷静に考えてココちゃん。幹彦君の位置まで18キロあるのよ?どんなライフルでも、たとえ射手の腕が良くても当たらないわ」
「現実世界なら絶対に無理です。でも、ここは違う世界なんです。ゼロ・グラビティライフルなら当たります。」
心美の言う「ゼロ・グラビティライフル」とはその名の通り、無重力の狙撃銃。重力を無視して狙撃が可能なライフルなのだ。重力を無視する…つまり対象に命中することがなければ永遠と飛んでいく狙撃銃なのだ。この狙撃銃は最近購入したのだがやはり、心美以外は使うことが出来ない高難易度の狙撃銃なのだ。(幹彦も使用を試みたが結果的に使用不可能だった)
「で、でもあれはバレットのような威力はないのよ?アクティブスーツの装甲を貫けるかどうかもわからないわ…」
「やってみなきゃわかりません。それに奴は頭をさらけだしています。そこを狙えばいい話です」
「わかったわ。でも、撃つのは極力避けてね?せめて話し合いが終わってからとにしてよ?」
「………わかりました」
「ベティ、それは俺に仲間になれってことか?」
ベティからの誘いを受けた幹彦はそう聞き返す。
「そうよ。ミキみたいな強い人が隣にいてくれれば私も安心できるわ。それにアクティブスーツを使いこなす人なんてほとんどいない。アクティブスーツを使いこなせれば全国の学校を占拠することも容易いわ」
「あぁ、その通りだな…」
「ねぇ、ミキ…私の仲間にならない?どうせ貴方の方も強い人がいなくて困ってるでしょ?皆貴方に頼っているだけでしょ?そんな人達守ってもメリットがないわ。だから、私の所に来て、お願い」
「そうだな、確かに皆俺や戦闘部隊に頼りきっているし、守っても何のメリットもないな」
「じゃあ…」
ベティの言葉を遮るように幹彦は続ける
「だが、それでも守る。」
幹彦はキッパリ言った。
「な、なぜ?」
動揺を隠せないベティ
「同じ学校の生徒だからだ」
「た、ただ、それだけのために命かける意味ある⁉︎ミキ、貴方そんなバカじゃなかったはずよ?それに、今のうちに手を組んだ方が利口よ?いずれ私達のいた特殊作戦立案部隊の頭脳とも言われた雫の学校とも戦うだろうし、狙撃の天才、サウザンドハートも高校生だったはずよ?それを相手にしても貴方は勝てるの?」
「ベティ、お前は勝てるのか?特殊作戦立案部隊の頭脳と狙撃の天才・サウザンドハートに。」
「わからないわ。だから貴方の力が必要なのよ!」
「そうか…ならベティ、うちに来い。」
「それは無理、転校は出来ない事になってるもの」
「どうゆうことだ?それならなぜ、俺にこっち側に来ないかと聞いたんだ?転校出来ないのがわかっているならそんな事聞く必要ないだろ?」
「その通りよ。貴方にはまず、捕虜になってもらってから学校の一員になってもらうつもりだったの。」
幹彦の顔が険しいものになる
「つまり、俺以外全員殺すつもりだったのか」
「まぁ、そうなるわね…」
「なるほどな。じゃあベティの仲間を根絶やしにしたらベティは嫌ずと俺らの一員になってくれるのか」
「フン、やれるもんならやってみなさいよ。ここで貴方を取り押さえてあげるから」
「残念だが、それは無理だと思うぞ?」
「な、なぜ?」
「それは、お前はしばらく動けなくなるからな」
「?」
ベティが首を傾げた瞬間、足に一発の弾丸がめり込む。そして筋肉を破壊し、筋を切り、血管を破裂させて弾丸はベティの足から出て行く。その事に気が付いたベティは驚愕の表情を浮かべていた。
ベティは二つの事に驚いている。一つ目は足を撃たれたこと。二つ目は18kmの距離で狙撃された事。
幹彦はベティに近づき、足を止血する。そして無線を使い心美に話しかける。
「よくやったな心美、いや、サウザンドハート。」
「ありがとう幹彦君、ゼロ・グラビティライフルなら余裕よ」
「あぁ、そうだな」
ベティがまた驚いている
「サウザンドハートが狙撃したの…だったら納得だわ」
「ベティ、うちに来るか?俺とサウザンドハート、ベティがいれば生き残れるぞ?」
「選択肢はないんでしょ?」
「その通りだ」
キッパリ言い放つ幹彦
「そう…でも私も含めて皆死ぬわよ…」
少し悲観顔でベティが呟く
「どうゆうことだ?」
「おそらく、うちの学校は私が作戦に失敗した事に気が付いているはずよ。その時は戦略兵器、B-2戦略爆撃機で街ごと破壊するように命令してあるわ」
それを聞いた幹彦は驚かずにはいられなかった。
「なんだと⁉︎戦略兵器だと?そんな物まで手に入れていたのか!」
「ええ、そうよ。私達一人でも戦術級の力を持っているのにそれが2人いたら勝ち目なんてないでしょ?だから私ごと抹消するのよ。」
「これは困ったな…今の俺たちに爆撃機を迎撃することは出来ない。」
「どうするの、ミキ?このままだと皆死んじゃうよ?」
幹彦は左手の操作パネルを操作し無線をオンラインにする。そしてこう続ける。
「どうしますか?高村少佐?」
「その呼び方久々ね…」
「たまにはいいじゃないですか」
高村少佐、ベティの元上司だ。ベティは目を点にして幹彦をみている。
「そうね。それより爆撃機だけど、今の装備じゃ無理ね。」
「でも、一つだけ方法があるわ…かなり危険なんだけどね…」
暗い声で雫が幹彦に無線越しに話す。
「聞かせてください」