憂慮
「大人になるってどういうことなんだろう。」
隣で凛がつぶやく。
俺たちはまだ、16歳、世間的にみれば十分子どもだろう。まだ、一人では生きていくことができない。
「大人…か。」
一人で生きてゆけたら大人なのだろうか。
そしたら、大人になりきれてない大人だって世の中には沢山いる。
凛がつぶやいた言葉、それは俺の心に石をなげこんだようにひびいていた。きっと本人はなんも考えていないだろうが。
生きるってのは想像以上に難しい。苦しいこと、悲しいことも多い。でも、そんなときは誰かが守ってくれる、学校、親、沢山の大人たち
そーやって、俺たちは守られて生きている。
優しい場所にいるのだ。
じゃあ、大人になったら?
なにをしても誰も責任なんてとってくれない、すべて自分で背負わないといけないのだ。
身震いがした。これから、自分達がおかれるだろう状況に、いかに自分達が甘いところにいたのかということに。
「佑…?」
凛が俺をのぞきこむ。
黒く澄んだ目が俺の瞳を見つめている。
「全てを背負わなくちゃいけなくなったら。
それが大人になってことかもね。」
不思議そうな視線を返してくる。
さっきのことなんぞ忘れていたのかもしらない。
でも、多分大人にっても、一緒にないて、悲しんで、喜んでくれる人はいるはずだ。
そこまで世界は俺たちに厳しくないだろう。
そして、その人達との未来をつくるのも自分なのだ。
ただ、まだ俺たちは子どもで、
子どもであることを許されている。
ちょっとくらい悪いことをしてもきっと誰かが俺たちを叱ってくれる。
その安心感に浸りながらおれは凛にほほえみかけた。
そして凛の柔らかそうな頬に手をかけて、そっと唇を寄せた。