再犯
人類の大半が右利きなのは、相対する人類の心臓を拳銃で仕留めるためかもしれない。包丁でも良かろう。いつからか、その引き金を引く事、手にしている刃を突き立てる事を躊躇う心、もしくは理性とやらを失っていたに違いないのである。
もう失うものがない私には、なんの造作もないことであった。朝食によって蓄えられたエネルギーを少し費やし、たった少しの筋肉を動かす事によって、私の意図した世界が、目の前に誕生するに過ぎない。それは、彼の絶命を以って、初めて果たされる事であった。
彼は、顔を歪めながら、か細く、薄く、浅い呼吸を維持していた。彼は既に、全てを悟ってしまったのだろうか。もしくは、悟ることを諦めてしまったのか。少なくとも、私より頭が悪そうな彼が、それらしい言葉を紡ぐ素振りなどない。しかしながら、既に消えていてほしかった微かなノイズのような呼吸音が、私の耳には断続的に聞こえる。
そうだ。私は躊躇う心、理性とやらと同時に、もう一つ、失っていたことがあった。私の利き手は、左である。
私は、正常な判断能力を取り戻した。確かに、呼吸に支障を来すまでの致命傷を負わせた筈である。あと一時間も経たないうちに、彼の人生は確かに終わる。しかし、たった一時間足らずの余命すらも、私の望む世界のためには惜しい。中途半端な同情ほど、人間を精神的に殺めてしまうのである。毒で蝕まれた人間に、毒を与え続ける行為を、私は善人の所業と思えない。
躊躇いなどない。すぐさま、持っていた凶器を右手に持ち換え、再び。
念の為、作者に前科はなく、殺人犯でもない。なんなら右利きである。




