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中二病をこじらせた文学青年が、文明から逃げたつもりで山に入った結果、コンビニ物流と母親の声に敗北する話。


些細なことで警察から追われる羽目になった。

この国では柿の木どろぼうは重罪なのだ。


逃げるなら都会ではない。

そう思った僕は、家にあったテントと防災グッズ、本をリュックに詰め、山へ向かった。

薪を組んで火を焚き、熊対策をしてテントを張る。

冬山対策用のワークマンとモンペは最強だ。


朝起きると川で水をくむが、やがては水路をつくることになる(勝手に)。

テントには防災用ラジオと灯り。

これは太陽光から電気を生成する。


ラジオからは警察無線が聞こえてくる。

某通信会社の技術の賜物で、お空があればどこでも電波が届く。


三島由紀夫全集一を手に取り、ため息をつくと、焚火の前に座りページをゆっくりめくる。

見られていることを意識した文学青年の僕の思考に現代人はまだ追いついていない。


そのとき、どこからともなく音がした。

「いしやーき芋……」


田舎とはいえ、奥多摩地区は東京だ。


異様に腹が減ってきた僕は、おもむろにリュックからカップラーメンを取り出す。

文明の利器を使わずに、このカップ麺が食べられるのか。

そもそもこのカップラーメンこそ、文明の恩恵ではないのか。

僕の頭でアンチテーゼが顔を出す。


再びリュックにカップラーメンをしまい、防寒具を着込んで、僕は食料を探しにいった。


冬山をかき分けながら、ふと業平のことを思い出す。


「人や嗤はん業平が

  小野の山里雪を分け

   夢かと泣きて歯がみせし

     昔を慕うむら心……」


いつしか道を間違えたらしい。


仕方がない。

僕はコンパスを出して、方角を確認する。

そのときだった。視界に光が差し込んできた。


「世界の食卓」と書かれた有名コンビニのトラックだった。


僕はわずかな怒りを感じた。

そしてとどめだった。かすかに見える

「411号(青梅街道) 山梨方面」

の看板が、僕を現実世界に引きずり下ろす。


僕の中の民衆が怒っている。

ルサンチマンよ。立て!


文学青年から活動家に変わった僕を、寒さに震える猫が見ていた。


なんとかテントに戻ることができたが、なぜか猫がついてきた。

仕方がない。夏目漱石よろしく僕は招き入れた。

けして水がめなんかにおっこちるんじゃないぞ。


空腹が限界に達していた僕は、リュックからカップラーメンを取り出し、

カセットコンロでお湯を沸かす。


この行為の諸悪の根源は「世界の食卓」の某コンビニにあると思う。

僕は被害者だった。完全なる被害者だ。


そう思うと腹の底から怒りが湧いてきて、ラジオのボタンを押す。


「プライムニュースです。

 只今、逃走中の東京都港区在住の秋月泰平君のお母さんからのメッセージです。

 『泰平、どこにいるの? お母さんは心配……』」


僕は、ラジオのスイッチを切った。

胸の奥からあらゆる雑念がこみ上げてくる。

僕はこの汚い世の中で、生きていくしかないのか。

いよいよ怒りが頂点に達したとき、

心の炎が一気に燃えがる。


「僕は負けない」そう誓った瞬間だった。


そのとき、どこからともなく焦げ臭いにおいが漂っていた。

よく見るとカセットコンロで沸かしたやかんが燃えていた。

なんなら、テントに燃え移っていた。


そして猫はすでにどこかへ消えていた。


消防車の音がドップラー効果よろしくけたたましく鳴る。

大勢の人に見守られながら、僕は救急車に乗った。

誰かが、おせっかいにも消防車のほかに救急車も呼んだらしい。


僕の脳裏に「世界の食卓」の某コンビニのトラックがよぎる。

やはりあれは諸悪の根源だ。


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