欠席者
十四年前の中学二年C組の同窓会の案内が、実家に届いた。
母から送られてきた画像には、校章と、懐かしさを装った定型文が並んでいる。
『ぜひご参加ください』
画面を閉じた。
今さら、という気持ちしか湧かなかった。
実家から離れて暮らし、仕事も忙しい。今の生活は、昔よりずっと整っている。
特別に会いたい人がいるわけでもない。楽しくなる保証のない集まりのために、移動の時間と費用を使う理由が見つからなかった。
母に電話をかけ、欠席の意思を伝えた。
「もし出欠の確認が来たら、欠席って言っておいて」
母は少し間を置いてから、分かったと言った。
それで、この話は終わったはずだった。
同窓会から二週間ほど経った頃。
仕事の合間に、母から電話がかかってきた。
「良かった……繋がった」
第一声に、安堵が滲んでいた。
「なに? どうしたの」
「あなた、同窓会、参加してないんだよね?」
「欠席ってお願いしたでしょ」
「ああ……良かった」
吐き出すような声だった。
「何が良かったの?」
「……あなた、何か聞いてない?」
「何を」
「同窓会の会場ね、火事になったみたいなの」
一瞬、意味が掴めなかった。
「……え?」
「私も後から知ったのよ。地元の新聞に載ってて。
あの学校、統合で使わなくなったでしょ。今は多目的ホールみたいにしてたところ」
母は、淡々と続けた。
木造建てだったこと。
その日は乾燥していたこと。
火の回りが早かったこと。
「……生きていたの、二人くらいだったかな」
数字だけが、耳に残った。
「クラス、三十二人いたはずだけど……」
「あなたが無事で、本当に良かった」
その言葉は、どこか現実から浮いて聞こえた。
「……なんで、今頃教えてくれたの」
「お父さんと旅行に行ってたのよ。一週間くらい。
あまりテレビも見てなくて」
「そっか」
それで電話は切れた。
しばらくして、今仲のいい友人から電話が来た。
「ニュース見た?」
軽い口調だった。
「何の」
「中学の同窓会の火事。原因がまだ分かっていないけど、一人だけ助かったって。地元そこでしょ? 何か知ってる?」
「ついさっき母から教えてもらったよ……」
「ふーん そっか……でさー……」
友人の声は、すぐに別の話題に移った。
通話が終わっても、しばらくスマートフォンを手に持ったまま動けなかった。
その夜、知らない番号から着信があった。
出ると、なんか電波悪い……?
少し歪んで聞こえた。
「……来なかったんだね」
「誰?」
「……ああ、覚えてないか」
短い沈黙のあと、校舎の名前が出た。
断片的に、出来事だけが語られる。
誰かが笑っていたこと。
誰かが黙っていたこと。
そして、誰かが、そこからいなくなったこと。
名前は出なかった。
顔も、思い出せなかった。
何か言わなくてはいけないと思うのに、声が出ない。
「君は、毎日だったよね」
その一言だけが、胸の奥に残った。
通話は切れた。
気づくと、そこに立っていた。
焼け焦げた校舎の中。
壁は黒く、床は軋んでいる。なのに匂いは十四年前の校舎の匂いと日当たりの良い暖かさ。
扉はいくつもあった。
どれも、開かなかった。
ここが、火事のあった場所だと分かった。
ポケットの中で、スマートフォンが震えた。
画面には、着信表示。
知らない番号。
呼び出し音が鳴り続ける。
電話は、もう切れなかった。




