第9巻、二色の新武装起動、銃よく剣で制す
前回のあらすじ3行。
「雪の女王の根城でアイスオーガとなっていた元マシンオーガ族のゾーコは正気を取り戻すと脱出」
「ゾーコは雪の女王との再戦に燃えるアルジと出会うが、共通の敵が出来たことで各々の仲間のために結託」
「作戦によりアルジは女王らを根城から誘き出し、ゾーコと人魚デヴィガイオはキネシスの救出に成功。いよいよ戦いが始まるのであった」
「さあ、ここからは実験の始まりだ!」
アルジはキャストパスからアプリを起動すると、『近中距離対応銃剣変形型武装・チェンジスラスター』がアルジの目の前で光子状態から剣装状態で実体化した。
青く発光する半円型スキャニングボードから伸びる青白いエネルギーラインが銀の剣身を走る。
そのスキャニングボードに合わせるように同じ半円型のジョイントパーツを挟んだ先にあるグリップを握り締める。
「カイを……「やなこった!」
雪の女王は右腕を氷の剣へと生え変わらせ、アルジのチェンジスラスターと鍔迫り合いになる。
「ちぃ……!」「………………!」
互いに互いを得物で押し飛ばし、その度に何度も刃をガキンガキンとぶつけ合う。
「あっぶねえな!」
背後から伸びてきた氷の剣山を躱すべくアルジはその女を刀身で押し飛ばすと、刃と柄を繋ぐ中央上半分にある読み込み部分にキャストパスを読み込ませた。
「ラストアタックチェンジ・スラッシャー」
エネルギーラインを中心に刀身が青白く激しく輝くと、そのまま女王目掛けて斬りかかった。
「カイを返せ!」
再び刃が交わるが、今度はアルジが弾かれ距離を空けられる。しかし、
「飛ぶ斬撃って見たことあるか?そぉーら!」
雪の女王の要求を無視してグリップ部分にあるトリガーを引いて対象へ向けて剣を再度振り下ろすと同時に、刃のエネルギーラインからその軌道を縫うように光子でエネルギー波が生成され、そのまま発射される。
油断した雪の女王は飛ばされたエネルギーの光刃を防ぎきれず、氷剣化していた右腕を切断された。
「………………」
リアクションも無いまま、断面から右腕が生え変わる。
(再生するタイプか。多彩な攻撃手段といい、こりゃ厄介だな……)
女王の腕が再生するところを見ていたゾーコは両肩の女子を降ろし、右手で握っていた物語改変光線銃を構えた。
「――やらせないナスよ。この裏切り者め」
「こっちこそ、ですよ」
ゾーコに攻撃を仕掛けてきたアイスオーガのナスの氷爪にデヴィガイオが三叉槍のトライデントで応戦する。
「何だよ、この人魚の小娘め。力の差を思い知らせてやるナス!」
爪が槍の間に引っかかっていることを利用して、そのまま自身の元へ力任せに引き寄せようとする。
「もうやめるんだぞ、ナス!お前はあの雪の女王に操られているんだぞ!」
見てられなくなったゾーコが割って入り、槍が掛かっている左手にチョップを決めて外したところですかさず肘打ちのような形で体当たりを仕掛けた。
「助かったになったよ、ゾーコ」
「礼には及ばんぞ、デビ子。だが、腐ってもワシとあの二人は企業のれっきとした戦闘部隊だぞ。頭じゃもうアイツらは憶えとらんかもしれんが、戦い方は肉体がまだ記憶しているようだぞ」
倒れているキネシスを操られているアイスオーガ達から守るように背中を任せ合う形となったデヴィガイオとゾーコだったが。
「うう…………、何でわたしこんなところに……。あれ…、デビ子ちゃん、それに見張りの……?」
「目が覚めたか嬢ちゃん。ゾーコだ、訳あって今は雪の女王ではなくアルジらの味方だぞ!せいやッ!」
「お姉ちゃん、話はあとあと、にするよ!はい、トライデントー!」
両側からの攻撃を受け、それぞれトライデントと爪&体術で対応する二人。
「ごめんなさい、デビ子ちゃん、ゾーコ…さん。こんなに迷惑かけちゃって……」
目覚めたキネシスは割座の姿勢になると、二人を見上げながら謝罪する。
「そんなこと気にすんなよ嬢ちゃん!――ソイヤ!」
「そうだよ!迷惑にはなってない、よっ!」
「二人とも……」
女王側のアイスオーガらを押し退けながら二人はキネシスを元気付ける。
「――――今、聞こえたぞ。カイの声が。今度こそ、カイに、成れ」
「えっ……、――――お姉さまが苦しんでる。助けなくちゃ……」
またしても瞳が紫色に濁っていく。立ち上がると、その『お姉さま』の元へ走り出した。
「おいキネシス!オレだ!目を覚ませ!」
「わたしはキネシスではない……。カイだ」
「ふふふふ……。それでこそ、カイ。レロっ……。――姉のためにその男を始末しろ」
無表情だった雪の女王が急激に歪んだ笑みを見せると、カイの右頬を美味しそうに嘗めた。
「はい、お姉さま!―――殺してやる……」
悦びでも感じているかのような顔から一変、アルジに視線をやった頃にはその表情は消えていた。
カイは再び、腹を刺してきた短剣を生み出してアルジに迫るが、前回とは異なりチェンジスラスターで襲い来る刃のことごとくを弾く。そしてアルジは語りかける。
「聞いてくれ!お前はカイではない。オレ言ったよな!冬将軍と戦ってた時、一瞬で巨大な滑り台みたいなのを氷で作ってて思わず超能力だろって言ってさ!名前がどうのつってたから、そこからキネシスって名付けたんじゃないか!キネシスなんか急にアルくんとか呼び出したし、オネショタものの作品によくいる近所の年上のお姉さんかよって内心突っ込んでたからな!」
「黙れ!――黙れ黙れ、黙れ!うわあああ!!」
カイは頭を大きく横に振って否定する。
(効いてるのか……?)
「アルジ!熱だ!手遅れになる前に体温を上げられれば、ワシのように催眠が解けるかもしれん!」
「あの裏切り者の声……、余計なことを!!!!!!」
交戦中にナスの身体へオートカイロを押し付けるも効果が無いと判断したゾーコだったが、その助言に雪の女王は過去一に感情を昂らせ、流氷の上を僅かに浮いてリニアカーのような速度で飛んでいく。
「おう!(体温を上げる方法は……)――ドラァ!」
「くっ……」
持っていた短剣へ思い切りチェンジスラスターを当てて弾き飛ばすと、カイの前へ持っていた武器を突き刺した。
「好きだ、キネシス!」
「……!?突然、何を言って…」
目の前で急に何を言うのかと困惑して停止する。
「雪だるま対決とかでオレの悪ノリにちゃんと付き合ってくれたり、雪とか氷とか巧みに使いこなしてて色々凄いし、初対面の時から身に着けてた着物の柄とか髪飾りが雪の結晶で雪女らしいセンスも堪らないし、それに今の水着も銀髪にハイビスカスの髪留めとか似合ってるし、フリフリ付きの水色のビキニとか着こなしててガチで可愛いし、時々重そうなこと言うけど可愛いからなんか許せるし、砕けた口調になってから気さくな感じがして話しやすいし、まだ出会ってから二日経つか経たないか程度だと思うけどなんか近くにいるだけで落ち着けるし、それにそれに……」
「黙れと言って…、は、え。なんで、わたし、いま……」
困惑が止まらない水着の女を前に、アルジは間髪入れずまだ続ける。
「――まだオレの知らないキネシスをもっと見たい。もっと知りたい。もっと隣で一生感じていたい。だから、さ」
(オレの思いついた体温を上げる方法)
「帰ってこい、キネシス!」
「――――――アル、くん。……すごく、あったかい」
瞳から涙を溢れさせながら、それは澄んだ青色に戻っていた。
「おかえり、相棒」
「ただいま、アルくん」
少しの間だけ、戦場に静けさが訪れていた。
(もう一度『好きだ、キネシス』って言って?脳内再生用にまた聞きたい)
直接脳内に語りかけてくる雪女。目にはアルジの顔以外は映っていない。
(実はその時点から催眠解けてただろ)
(ハーフ&ハーフ、だね)
(すまん、相変わらずのバカだわキネシス)
「そっちこそバカだよアルくん!あんな長々と聞かされて恥ずかしすぎて全身溶けるかと思ったよ!」
思わず声が出てしまう雪女。
「知るかよ!キネシスが心配になり過ぎて国語力がイカレただけだろうが!二度と言うかよあんなの!」
罵り合いながら楽しそうに惚気ている二人。
「カイ……、カイ……、嘘…よ…」
ゾーコまで向かっていた雪の女王だったが、二人の会話にやられたのか脳震盪でも起こしたように動きを止め、その場で力無く蹲る。
「――今だ、物語改変光線銃発射ァ!!」
隙を見たゾーコはナスに片足を上げて蹴り飛ばすと、精神的に身動きが取れないでいる雪の女王へ銃の照準を瞬時に合わせて真っ黒な光線を発射し、これを見事に命中させた。
「グァァァァァァーーーーーー!!!」
見た目に似つかわしくない悍ましい叫びを上げている。
「成功、だね。ゾーコ!」
「けっ、それ見たことか雪の女王!射撃訓練十三位の実力舐めんなぞ!」
見た目は変わらなかったが、あの光線を浴びたことで悶絶してのたうち回っている様子に何かがあの体内で起きていると確信したゾーコとデヴィガイオは、アイスオーガ達をよそにハイタッチをしてみせる。
(斜めに切れている、剣の青く光っている上半分の根元を下半分のジョイントパーツを押しながら回転させてブラスターモードに移行して……)
(早速だね。アルくん、任せて)
地獄耳な雪の女王に聴こえないよう、アルジは身体が密着していることを利用して目の前の突き刺した武器の使い方をキネシスに精神会話で伝達させる。
キネシスは早速、アルジの肩に片手を回しながら伝達通りにチェンジスラスターを操作した。
「アタックチェンジ・ブラスター」
銃装状態に変形したそれは、青白く発光していたスキャニングボードとエネルギーラインが真紅に切り替わる。
形を変えたところでそのまま銃を引き抜き、そこへ同じく片手を肩に回しているアルジが今のキネシスの顔ぐらいに赤く発光する読込面へキャストパスを翳した。
「ラストアタックチェンジ・ブラスター」
(下から支えるから、狙いを定めたら引き金引いちゃって)
(うん!――あの女、目にもの見せてやるんだから!)
赤いスキャニングボードから剣先へ真っ赤な稲光が伸びて赤い弾を生成し始め、エネルギーラインも呼応するように輝きを増していく。
「「いっけぇぇぇーーーーーーーーーー!!!」」
アルジとキネシスが支え合いながら剣先から放たれた赤く大きなエネルギー弾が雪の女王目掛けて飛んでいく。
「くっそ…、女王様ぁぁーーー!!」
デヴィガイオの前にいたクールが女王の前にギリギリで飛び込み、弾を全身で受け止めるとその目の前で爆散し、煙を上げた。
シュウウウ…と音が上がるとともに煙が晴れると、そこには着弾跡と粉々の鉄片、バネ、歯車、ネジの数々。
「身代わりか……」
アルジは悔しくなり、思わず呟く。
(すまん、クール……)
ゾーコは破片となった元同僚の側で偲んでいた。
「よく知らぬが、何かからの肉壁になったものが居たようだな…。まあ、役に立ったとだけ褒めてやろう」
「なんだ、お前」
「なんだとは何だ…。そんな奴よりカイを返し「お前の身代わりになった仲間を『そんな奴』呼ばわりか。本当にカイとやらの事しか考えていないようだな、百合同人作品『雪の女王・カイを寝取ってコレクションにしてみた』の主人公こと雪の女王さんよぉ!」
辺りが一瞬静まり返る。
「あの、すまん、アルジ。同人なんちゃら…てのはどういう事だぞ」
沈黙を破ったのはゾーコだった。
「お前さっき偽デヴィガイオに物語改変光線を命中させて今の姿に変化したって話していただろ」
「そう…だが」
「あのとき疑問に思って、キャストパスのデータベースから調べてたんだ。たぶん同じ作者繋がりで人魚姫姿のアイスドールが別作品に登場する雪の女王に変異したんだろうけど、原作では主人公のゲルダという少女とカイという名の少年の物語で、作中の雪の女王はあくまで少年カイを攫う悪役でしかなかった。つまり、主人公ポジションになり得るとすれば、その可能性は二次創作……!」
もし原作寄りの雪の女王であれば、この世界は今頃消滅していた筈だった。だが、割れ目すら出ていない。
「知った口を。わたくしはそう望まれて描かれたのだ。ああ、早くカイを寝取りたい。目が視えないことがこんなに悔しいことがあるか。意中の人を奪われて絶望する人間の表情を見たい。想像だけでは足りぬ。此の世界に奪うカイと奪われるゲルダがおらぬというのなら、いっそこの世界ごとわたくしのものにしてしまいたい……」
二度目の改変光線を受けた影響か感情が表出しだしている百合の女王に気圧されかけたアルジだったが、かえって冷静さを取り戻した。
「キネシス。一旦オレの精神内に入っててほしい。中で応援とかしてもらえるとやる気になるかもしれない」
体温維持のために行動制限があるようでは動き辛いこと、もうキネシスを失いたくないという想いの両方を呑みこんで提案した。
「良いよ。頭ん中でめっちゃドンドンパフパフ鳴らしたげる」
そう言った途端にキネシスのアイスドールは崩れ、普段の着物姿に戻った半透明のキネシスが視界に現れた。
「ドンドン~!パフパフ~!」
「いや口で言うのかよキネシス」
(でもな……、やっぱこれなんだよな。この喧しいのがいてくれて今は安心感がヤバい)
(もう中にいるから全部聞こえてるよ。いやぁ~わたしには永遠に褒め言葉だけイメージしててくんないかな~!)
「もういいってばキネシス!後で幾らでも考えてやるから、今は戦いに集中させてくれ!」
(ドンドン、パフパフ)
「分かったって!応援ありがとうな!」
「アルジのやつ、嬢ちゃんが消えたと思ったらさっきから何一人で叫んでるんだぞ……」
「発情期で重い妄想癖が出来上がってる人になってる、アルジ……」
今のアルジは傍から見れば独り言がかなりうるさい危険人物である。
「せっかくだからコイツも試してみるか!って、ファッ!?」
銀のベルト帯に取り付けていた黒い端末を外すと顔の横で起動……。
「へっ!頂いたナスよー!」
「…ナスのやつ、いつの間に!」
2m超の体格からは想像もつかないような身のこなしでアルジが握っていたものを瞬時に奪い取っていた。
「この野郎……、ブラスターでも食らえ!」
何発か赤いエネルギー弾を発射するも軽い身のこなしで全弾回避されてしまう。
「返せ返せー!になってます」のデヴィガイオの声をよそに飛び回るナス。
「へへ、あとはコイツを握り潰してやれば……」
――――突然響き始める、流氷の上を駆け抜けるエンジン音。
それは氷の坂に乗り上げると宙を舞い、
それは釣り糸を飛ばしてナスの手からアイテムを奪取し、
それは、「カメェェーーーーーーーーーーーーン!!!!」
「遅くなったな、アルジ!」
「おいおい……お前は!」
木の幹の色をそのまま衣服に落とし込んだような質素な着物と草履を身に着け、顎鬚を生やしたアルジと同い年に見える外見。そして木の棒から削り出したような釣り竿。
アルジとデビ子はその名を叫ばずにはいられなかった。
「「浦島太郎ー!?」」
「一日振りだな~みんな!ってお前の伴侶はどこ行った。それにこの氷の鬼みたいなのとそこの変な女は誰なんだ!というかあの白い砂浜と蒼い海はどこ行っちまったんだぁぁぁ~!?」
「カァメェェーーーーーーン!!」
まさに浦島太郎状態。カメのバイク、カメーンも耳をつんざくぐらいの驚嘆の声を上げている。
「あっそうだ。アルジのだろ、これ」
「いや急に落ち着くな。まあそのすまん、助かった」
釣り糸を解いたそれをアルジに手渡す。
「なぁにがカメーンだ!わたくしの耳もどうにかなりそうだったではないか」
(それはそう、とキネシスも同情してやることにした)
「あれだ、例の玉手箱開けようかと思ったんだが決心が付かず、それにまた皆に会いたくなってしまってな。せっかくカメーンも居ることだし、すっ飛んできちまったわけだ」
「いやいや……。というかそっちの世界壊れかけてたろ、いいのか来てしまって」
浦島の世界へ渡り竜宮城から地上へ帰ったあと、地上はところどころヒビが入り始めていたことを思い出していた。
「こうして抜けている間にもまた崩れ出しているだろうし。そんなわけだから早くそいつら倒してさっさと帰らせてくれ」
この浦島という男、自由人過ぎる。今の状況を一番楽しんでいるのは間違いなく彼だろうと確信を持って言えるだろう。
「また見せてくれよ。お前の変身をさ」
「カァ~メェ~~ン」
コイツらにそんな催促されてしまったので返事をした。
「そんじゃ、見せてやるよ。アレ以上の変身をさ!」
今度こそ黒いアイテムを右手に握り締めて自身の顔の横に持ってくる。
背面で縦に並んだ『VV><』の金字を見せつけ、親指でスイッチを押す。
「ダブルクロスコネクター!!」
悪意への期待と絶望感を二重に裏切るようなテイストを思わせるロックなBGMが短く流れたと思うと、その金字のうち、下の><を上のVVと同じ向きに揃えて再び起動時のスイッチを押す。
「ダブルダブル!」
起動音声を確認したところで左手でキャストパスを横向きに突き出すと、それを目の前でコネクターに差し込んだ。
「エンチャント!」
此方の視点からは半分カバーを被せたような状態になる。
「金太郎!(金太郎!)」
二重に響く機械音声。
「何だ。何が起きているのだ……!」
音だけでは何が起きているのか分からない雪の女王。
そんな声も気に留めず、キャストドライバーにエンチャント状態のまま翳す。
「ダブルキャストチェンジ」
「――――二重変身!」
「いや~無事に帰ってこれて何よりだよアルくん!」
「キネシス。せっかくだから、自由になれたことへの感想をどうぞ」
「シャバの空気は美味い!!」&(フンスなどと鼻息)
「刑期を終えたばかりの元受刑者かよ」
「んじゃ気持ちよくなったところで、次回もよろしくね~!」
「みんな、また読みに来いよ~」




