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アルジキミヒト  作者: ユッキング加賀
第1章、旅立ち編「オレは、全ての世界で主人公になる男だ」

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第1巻、時に彼の者、道往くもの

 本が降る世界「ブックワールド」から、改変された数多の「物語世界」へ。

自作の『変身キャストドライバー』とともに、てんっさい発明家アルジ・キミヒトの旅が始まる。

――「オレは、全ての世界で主人公になる男だ」。祝え!変身系異世界SFファンタジー、開幕の瞬間である。

「ちょろっとハッキング仕掛けただけじゃねーかよぉぉーーーーーー!!」


 てんっさい発明家であるこのオレ『アルジ・キミヒト』は酔った勢いでうっかり社内の最重要機密に触れてしまい、文字通り鬼の形相をした警備員らと現在進行形で夜中の高層オフィスビルにて追いかけっこ状態だ。


何故、こうなってしまったのかというと……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「乾杯〜!!」


 弊社、エネルギー開発企業『エネルジオプティマス』での小型タイプの光子変換(フォトナイズ)型生物転送装置の開発プロジェクト成功を祝い、そのリーダーにして現状社内唯一の変身種族チェンジノイドであるアルジ・キミヒト…つまりオレだな。それとプロジェクトメンバーであるマシンオーガ族の同僚らと商品開発ルームにてちょっとした祝勝パーティーを楽しんでいた最中のことだった。


「う~い、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「りょーかいリーダー。ついでに、倉庫に余ってるガソリン酒があったら欲しいっす。はい」

お手洗いがてら、生意気な後輩ことゴリブンのお使いのため通りがかった倉庫室に立ち寄ってみる。

「相変わらず埃被ってるじゃん…、アゼルバイジャン……」


薄暗い中、油臭い酒を探しながら乱雑に放り込んでいた開発途中の商品や失敗作を掻き分けながら倉庫の奥へと突き進む。これが何と夢のないジャングル探検隊なことか。


「――これか。冷え冷えの一杯を直ぐに呑みたいとか言うから休み一日掛けて飲食物専用アプリまで作ってやったというのに、上司の心部下知らずってか。ダルいな」

原因は不明だが、この『ブックワールド』では()()()()()()()()のである。

内容はどれも異世界の言語ばかりで満足に読むことも出来なかったので、かつてはレンガのように積み上げて住居にしたり、ページを数枚千切っては燃料その他諸々に利用されるばかりであった。

日夜降り続ける数多の書籍も、空を覆うように導入されたフォトンネットによりあっという間に電子書籍へと即変換。

極めつけは、最近の衣食住はもっぱらエネオプの技術力(とオレの才能と)で何でもかんでもAI生成だ。

元々創作意欲が終わっていたチェンジノイドだったが、突然の技術的介入から十数年間で尚のこと腑抜けてしまっているように思える。むしろ発明好きなオレは同族からは異端扱いという始末だ。

……何というか、求めていたものがすぐさま用意されてしまう現状にオレは内心飽き飽きしていた。

(今すぐにでも、あの装置の次元跳躍機能でつまらない日常を抜け出してみたい)


「……何だこの写真」

そんなことを思っていた矢先、無造作に置かれた酒瓶の隣りに蜘蛛の巣と埃がベタついた写真立てを見つけた。

「見たところカプセルハウス普及前の豆腐本時代。しかも被写体はチェンジノイドの若い男女……」

――オレは或る日を境に孤児となった。

昔、両親は此処で研究者として共働きだったのだが突然行方不明に。

ガキだった当時のオレ一人では実家のセキュリティロックを解除出来ず、御守り代わりに縮小して持ち歩くことに。

当時は『棄てられた』などと内心淋しさと恨めしさを抱えながらゴミ拾いで駄賃を頂き、その辺の雑草と泥水で飢えを凌ぐような生活を送っていたのだが、満足に働ける歳になってからは日中ゴミ処理業をこなしつつ夜中に趣味で廃材や電化製品のジャンクパーツを用いた独学のメカ作りに励んでいた。

その趣味が高じた結果、ジャンク由来のアームロボットを出品したエネオプの発明コンクールでまさかの優勝。

それを此処の上層部に目を付けられたことで今日の職場に至るわけだ。

「いや、まさかな」

……だからといってこんなところに放置するかよ、普通。


「今日はありがとうございましたー!!ところで、リーダーはこの後の二次会行きますよねぇ~?」

「あぁ~悪い悪い。実はこの後、開発データの整理とお前らのシフト調整せんとだし、皆で行ってこいよ」

「ウッス。全く、部長もいつも大変すね。……んじゃお前ら!今から近くのオイッキング行くぞぉ~!!」

ゴリブンら4~5名のグループは会社近くのオイルパブに向かうらしい。

「全く、元気なヤツらだな。――――さて、と」


静寂。このフロアにはもうオレ以外居ないらしい。

……好奇心の羅針盤は案の定、あの方位を指し示していた。

明日は定休日なもんだからって同僚どもは呑む気満々だなあと見送った後、早速先ほどの写真を倉庫から持ち込んだオレはデスクで今日の開発内容に関するコピー作業を行いながら例の写真を観察していた。


「オレが創作でよくいる親だったら、ああいう如何にもな写真の裏に導入でメモか何か残すよなっと」

()()のつもりだった。


『HK1EM1LH9PT』


何とも意味深なアルファベットとアラビア数字。

デスクの脇に置いていた発泡酒の残りで()()()()()()でエンジンを掛け、PCで真っ白な意識高い系の社内用データベースにアクセスしてみる。

開発のため過去の研究内容を漁ることが大抵の使い道だったが、今回は違う。


「こんなオープンなとこにわざわざパス要求するわけないよな……。ならば」

早速ページの隅に侵入用バックドアプログラムを慣れた手つきで作成。

次に、更なる内部情報を回収目的でパーティー中の記念写真とも言えないような飲み食い中の適当な写真に自作したトロイの木馬を用意。

プライベート用のモバイルPCに木馬から情報を送り込むように仕込んでおいたので、あとはそれを読み取りつつ入力画面が検知されるのを待つだけ。


「……こんなことバレたらしょっ引かれるどころじゃ済まないな」と理性がそう判断したところで、結局チェンジノイドとしての知識欲が追随を許さなかった。

その間、有事を予期して私物と個人の開発品を光子変換して手のひらサイズのキャリーカプセルに仕舞っていく。

「こいつは…、手荷物の方がいいか」

趣味で発明したオレの最高傑作である銀のベルトは手元へ。


「見つけたか」

ピーと小さく検出通知を知らせる音が鳴ったのでデスクへ駆け寄ると、そこには不安を煽るような真っ黒な背景、中央に赤い入力フォームが映っている。

通知音を切ってデータ抽出の完了したモバイルPCを繋いでいたコードを外し、社内PCのその画面に『HK1EM1LH9PT』を入力してみた。……しかしログインは失敗。

「(このまま入れても効かないなら並び替えか…ん?_)」

交互に文字を入れているのか、と少しずつ抜き出してみると。

『HELP KMHT 119』

「怪しいと思ったらアナグラムだったか。どれどれ……『助けて、キミヒト、119』……?」

オレの名前?それと、119は以前読んだ救命系の小説で読んだことがある。

確か、エマージェンシーコールに使われる緊急連絡先の電話番号だったか。

……せっかくなので、先ほどの順番に並べ替えた文字列のまま入力してみることにしたわけだ。

開いた。開いたが。


『ブックワールド掌握計画』


開口一番に表示されたファイル名に衝撃を受けてしまった。

動揺のあまり目をかっぴらいたまま言葉も出ず、かといって手は止まらず。

恐る恐るファイルを開く。ポツンと無題のPDFデータが一つ入っていた。

ダブルクリックするとパスワード設定も無いのかそのまま開いてしまい……。


『ブックワールド掌握計画書


記載事項          内      容

作業概要       場所、ブックワールド全域。

           作業内容、光子技術の定着化及び自動化の推進による住民の思考等与奪。

           開始年月日…                           』


「何なんだよ、これ…」

想定よりもヤバい文書が発掘されてしまった。端的に言えば、エネルジオプティマスは今後『このブックワールドの住民を洗脳し、資源化する』つもりのようだ。


『不正アクセスを検知、直ちに警備員は68フロアの商品開発室に向かってください』

プオオオオオオンとやかましいアラート音がフロア中に鳴り響いた。

「やっべ」

下にまだ続きがあるようだったが……、今はそれどころじゃない!


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ちょろっとハッキング仕掛けただけじゃねーかよぉぉーーーーーー!!」

「逃がすな!追え!殺せー!」



 エレベーターは停止しているのでフロア中央の機能していないエスカレーターを全力で駆け上がっている。そしてその後ろを図体のでかいマシンオーガ族の警備員が大体8名ほど棍棒片手にドテドテと追いかけてくる。


「75階の非常口から上に行けば屋上へ出られるが、行き止まりな上にバリケードも組めないな……。そうだ、会議室ならワンチャン立てこもれるか?」

72階まで登ったところでエスカレーター横のカフェスペースを抜け、その向こうの会議室に向かうことに決め、実行に移した!

天板の丸いハイテーブルの上を跳び箱のように飛び越えると、先頭の警備員に赤いカウンターチェアを投げつけてやった。

「野蛮なチェンジノイドめ」

「マシンオーガも大して変わらねえだろが、よぉ!」

吹き抜け沿いのガラス周りにあった植木鉢を牙剝き出しの顔面に投げつけたり、回し蹴りで近くのウォーターサーバーやらを薙ぎ倒して後続の足止めを図り、急いで目の前の会議室のドアに飛び込む。

「はぁ…はぁ……。足止め、しねぇと……」

灯りのない中、大急ぎでキャスター付きオフィスチェアの背もたれをドアのレバーハンドルに挟み、チェアの下ハンドルをガンガン押して上に伸ばす。

次に会議用テーブルをドアハンドルと椅子の座る部分に挟み込んだ。

そしてそれを囲うようにひたすらテーブル、椅子、観葉植物、ホワイトボードに横倒しにしたキャスター付き液晶モニターまで押し付けると、一息入れてから銀色の()()を腰に巻いた。


『変身キャストドライバー!!』

警備員がドアをガンガン殴る音、そして例のアラート音がすっからかんな会議室内に響く。

「やるしかねえ……。オレはこんなところで…死んでたまるか!」

もはや選択肢も、時間の猶予も残されていなかった。


一抹の不安と迷いを、何かを飲み込むようにして振り切った。


――――覚悟は、決まった。――――


オレはドライバー右側にあるチェンジスロットから如何にもスマートな通話機器風の端末ことキャストパスを取り出すとブラックホール風に模したアプリアイコンに触れてみる。

『ディメンションゲート』


僅か後、何もないガラス張りの前には障子に拳でも突っ込んだかのような穴が出現した。

「社員番号077-164931、開発部部長アルジ・キミヒトォ!最高機密に触れた罰を受けてもらうぞ!」

背後から備品をぶちまける大きな音と共に、機械的なのに感情のこもった野太い声が隔てなく聞こえた。

「うるせえ!黙ってろコーポの犬どもが!」

キレながらチェンジスロットへとキャストパスを差し込む。

『座標不明、ランダムディメンション』

「おい、アイツ別次元へ逃げる気だぞ!さっさと首を刎ねちまえ!!」

このまま飛び込んでも状況は変わらないだろうが、

「そういやお前のデスクにこんなモノが……」

「〇uck!」

急ぎでモバイルPCを置いてきてしまっていたか!

(アレを失うのは流石に不味い。しかし、幸いにも無傷のまま奴らの手中にある。なら…()()()()()()()


「ちょっくら、雑魚狩りと行こうじゃねーか」

チェンジスロットからパスを抜き取ると、上半身と顔部分に?と表示された青いアイコンをタッチする。

「雑魚だと?!チェンジノイドのくせに生意気なことを!」

『キャストサーチ……』

警備員の一人が此方に向けて匕首(あいくち)を投げようとし始めた。

『……牛若丸』

差した月明かりが端末を(かざ)される六角形の銀パネルを曇りなく照らした。

『キャストチェンジ』

鋭利な短刀が飛ん「……変身!」できた瞬間、チェンジスロットに迷わず挿入した。

体を捻じるように右回転を掛けながら回避しつつ、ソレを横目に前進していくと、


今まで何者でもなかったオフィスカジュアル姿のオレは気付けば小柄な緑の水干姿、――――牛若丸へと変貌していた。


刹那、飛んできた匕首の(つか)を掴み取ると急激に加速。

鞍馬流(くらまりゅう)――八艘剣飛(はっそうけんび)

右手に持ち替えて柄の底に掌を当て、下駄の歯が片足カーペット床に着地した瞬間――――――――、

音が置いて行かれた。


「は…、はへ……?」

一陣の風が過ぎていくような影の動きを感じた気がしたのも束の間、ガシャンとの金属音と共に自身の胴体と仲間の転がる首が7つ見えていた。


「よーし、回収したっと……」

オレはゲートの前に着地すると切り取ったマシンオーガの腕からモバイルPCを抜き取ると、腕を会議室内に適当に放り投げる。

キャストパスを抜き取り変身を解除(キャストアウト)したことでいつものオレに元通り。

「実験は成功だ!」と内心興奮気味であったのだが、未だ響く警報音のせいであっさり現実に引き戻される。

「腹、括るか……」

追手が追いつけないよう、すぐさま空間の穴へと身を投じることとなった。


「行けるとこまで…、行っちまえぇぇーーー!!!」


通過した時空の穴から元の世界を覗こうと一瞬背後を見るも、瞬く間に黒いモヤに飲み込まれて消滅してしまった。


『へっ!クマ公。今日で相撲は俺様の三十連勝ってところだな』


『おいおいお前ら、亀を虐めちゃだめじゃないか』


『今日もわたしは雪山で独りですか。……晩御飯の氷柱(つらら)でも採りますか」


――――今の声、誰だ?


……何処でもいい。

兎にも角にも、今すぐにでも逃げ込める世界さえあれば。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一方、とある物語の世界では……。


むかーしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんが川辺の家に住んでおりました。

ある時、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。


お婆さんは手持ちの大きな桶に川の水を汲み、中で洗濯板で着物を洗濯していた時のこと。

ドンブラこ、ドンブラこと川上から大きな桃が流れてくるではありませんか。

お婆さんは洗濯に使っていた桶に洗濯物、その上にはみ出してしまうほどの巨大な桃を乗せて帰りました。

しかし見かけよりは軽い。ただ、それにしては変に重いと妙な感覚に襲われていました。


「ただいま帰りましたよ。おや、お爺さん丁度帰ってきていたのねえ」

「おかえり婆さん。いや…、何じゃその大きな桃は!」

「さっき洗濯しておったら川で流れていたのよ」

「そうかそうか。にしても美味そうな桃じゃのぅ。早く切り分けとくれや~婆さん」

「はいはい」


大きな桃に包丁を入れた瞬間、元気な産声とともに桃の中から1人の赤ん坊が姿を現しました。

お爺さんとお婆さんは腰を抜かして驚いてしまいましたが、桃から生まれたのでこの男児に『桃太郎』と名付け、2人で大切に育てることにしたのでした。

[TARGET : LOST / NEXT ESTIMATED DESTINATION ―― ………]

(ターゲット : 消失 / 次の予測目的地 : ―― ………)

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― 新着の感想 ―
Xの企画から来ました。 「本が日常的に降るブックワールド」という世界設定の独創性と、特撮ヒーロー的な変身ギミックの組み合わせが楽しかったです。会社の闇を偶然暴いてしまい追われる展開はスピード感があり、…
「おおおおお」で終わるセリフの時は最後の方の2文字を小文字にするか「!!」をつけると良いかな?と思います。 アゼルバイジャンの部分はダジャレかな?と思いましたがいい意味で裏切られました。 仮面ライダー…
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