メガネでロン毛
6話
うっ、熊の親子のドキュメント映画だけど泣けるわぁ。やはり、日本には居ないシロクマだからかなぁ。
「うっくくくく……チーンッ」
ひとつあけた席のオジさん。ハンカチ出して鼻かむほど。
泣いている。
前髪下ろした。金髪よね、縁無しのメガネだ。
フレームが
あると映画観るとき邪魔なのよね。
あの人、けっこうなマニアかしら?
涙を拭いてメガネを。あれ、ドコかで見たようなぁだれだっけ。
おっと、おっさんはいいわ。映画、観ないと。
上映が終わってロビーに出ると。
「あら、木根間ちゃん」
「会長も観てたんですか。シロクマくん」
「ええ、ドコに居たの木根間ちゃんは? 気がつかなかったわ」
あら、トイレから出てきたあのおっさんは。
クシで金髪をバックに。
そして縁無しメガネをとり、細い真っ黒なサングラスをかけた。
「あ、数寄屋橋さんだ」
「あらホント」
「おお、会長と副会長」
「じゃ、仕事中なんで」
と、わたしたちよりさっさとシネコンロビーから。
あ、パンフ買ってる。
もしかして、隣の隣の泣いてたあの、おっさんは。
☆ ☆
永田野みずほさんが、シネマディクトの会に興味があるからというので、お茶会に連れてった。
千葉の田舎からだと電車でけっこうかかるから、一人で行くより良い。
お茶会は、有楽町のカフェで午後6時から2時間ほど映画話に花が咲く。
「ねぇアミちゃんは、映画のサークルで、どんな話をしてるの」
まだ、東京に向かう途中の車内。
「どんな話かなぁ……。アミもまだ初心者だからみんなの話聞いてるだけだからなぁ……」
「そうなの、私なんかアミちゃんより、もっと映画知らないから大丈夫かしら」
「でも、そこで得た情報で、映画観るとハズレないです」
「そうなんだ、ときどきあるわね〜大金払って劇場で見たのにトイレが流れないような映画が、カネ返せーって言いたくなるわ」
「みずほさん、トイレが流れないような映画って?」
「クソつまんない映画よ」
「みずほさん、クソつまんないのなら、流れるんじゃないですか」
「あ、そうね……」
☆ ☆
お茶会って言っても二次会は、お酒飲む人で居酒屋さんへ移動。
人によっては、はじめのカフェで帰る人も。
いつもは、アミも二次会は行かない。
みずほさんは、お酒が好きなので飲めないアミも付き合うコトに。
そこへ遅れてきた有楽さんが。
「一本観て来たんだ。うまく時間が合わなくてね。遅れた……」
「あれ、あんたドコかで見たことあるわねぇ」
みずほさんが、有楽さんにビールの入ったコップを持ち。
「ん?! キミ、僕とドコかで会った? 木根間さん。誰、この人。新入会員の人?……。あれ、どこかで」
「思い出した、私を『臭い臭い臭い』と言ったメガネのロン毛オヤジだ!」
そうなんだ、アレは有楽さんだったんだ。
「僕も思い出した! バター醤油味のポップコーン女」
「私のドコが臭いというのよ、このクソオヤジ! あんたの方がジジィ臭いわ!」
「あ〜言ったな、バター醤油女、僕はまだ若い。加齢臭なんかしない!」
「みずほさん、ゲストで来てるのだからぁ」
「アミちゃん、コイツよ私のコト悪臭女呼ばわりしたのは」
「悪臭女呼ばわり?! んなことするか、僕はただ小さい声でバター醤油臭いと……」
☆ ☆
「アミちゃん、私。シネマディクトの会に入るのやめる」
「え、やっぱり有楽さんのせい?」
「いや、違うよアミちゃん。二次会まで居てわかったんだけど……」
次のお茶会で。
「シネマディクトの会には、いい男が居ないからだって」
「いい男が居ない。なるほど、たしかに。アミちゃん。永田野さんは正しいわ」
「でも、会長さん。ソレって映画サークルに入る理由として動機が不純じゃないですかぁ。永田野さんにはアミが……」
「アミちゃん、大学のサークルとか入ってないの?」
「あの、アミは高卒です……」
「そうなの……。まあねえサークルとかはね、男女の出会いを望んで入る人って当たり前なの」
「会長、わたしもシネマディクトの会はいい男が居ないと思います。コレから面接していい男だけ、入れましょ」
「そうね木根間ちゃん」
☆ ☆
「君のおかげで助かったよ!」
「そんなコトは、ないわ」
うわぁ おかしな人の隣の席、選んじゃた。
移動しようにも満席だし、我慢するしか。
渋谷のカフェ。
「その男、始めから最後までずっと声だして字幕読んでたのよ。反対側の人が、注意してたけど無視よ。女性のセリフは裏声まで使ってた」
「居るのよねぇそういう変な客。私があったのは、カップルの客で、男性が、その映画を一度観てたので待ち時間あらすじを彼女に」
「会長、その男。もしかしてオチまで話したとか」
「ええ、映画観る人間として、サイテーよね」
「その男かは、知りませんけど東京各地の劇場に現れては近くの席の人にオチをしゃべくりまわるネタバレ男の都市伝説があるそうよ」
「まあ怖い男ね」
つづく




