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興信所の映画好き

33話


 某興信所。


「流山さん、お茶を」

「あ、ありがとう。頑張ってね」

「はい」


「ああ……。流山さん」


「ナニか? 隼鷹(はやたか)さん」


 事務の彼女がそばに来て。


「わたしも新人のころ、アレ着さされたんだけど

……」

「着てましたね」

「なんで?」


「お答えしよう隼鷹くん」


「所長、聞こえました?」


「商売がら地獄耳(デビルイア)でね。お二人さん『ホテルニューハンプシャー』って映画見たことある?」

「オレは若いときに」

「私、知りません。その映画」


「まさか、所長。アレは……ナタ・キン」


「あの映画でねナターシャ・キンスキーが、ずっと熊の着ぐるみを着てるんだよね」


「主人公が?」


「イヤ、主人公はホテルの経営者家族で、特にはジョディー・フォスターなんだが。まあ、僕はナターシャ・キンスキー目当てで、だから熊の着ぐるみがあまりにも似合ってたんで……。僕、着ぐるみをとりあえず女性に着せたくなるんだ。着ぐるみフェチかな僕」


「なるほど、で新人の娘は皆、熊の……。事務所内ならイイけど。そういうやめません所長」


「所長、オレねぇ『天使とデート』って映画観てから、髪金で白い大きな羽のある女が居ないかと!」


「流山さん、それは居ません」


   ☆ ☆


「ヒカル、連休はナニを観に行くの?」


 気に入った部活がないので、わたしは帰宅部に。

 ヒカル、銀間久光(ぎんまくひかる)も帰宅部なんで下校中に。


「あ、宝田アキ。あのね、今度の連休に伯父が愛好家集めて自宅で映画祭するのよね。伯父のトコね客席まであるホームシアターあるの。で、私もそこに」

「え、家で映画祭ってスゴイマニアね」

「よかったらアキも一緒に。今回はスティーブン・キングの映画化大会なんだって絶版の作品も観れるのよ」

「スティーブン・キング、あっちょんぶりけ!  行くは!」

「あなたのそういう趣味好き」


   ☆ ☆


 ハリウッドの某映画会社。


「Mr.ホーガ、悪い知らせだ」


 なに、せっかく映画がクランクアップしたのに、悪い知らせって?


「『呪呪』劇場公開がダメになった。もうジャパニーズ・ホラーは客が呼べないとな」


 日本語の得意なエージェントのおっさん、ソレはないだろう。


「え、じゃ出来あがった作品は?」


「まあ、あわてるな。今はな、配信で観れる時代だ。多分お蔵入りにはならない。仕上げを頑張りたまえ」


 配信か。まあお蔵入りよりましか。


「へイ、Mr.ホーガ!?」


 え、誰だっけ? 見たことある外国人だ。まあこちらでは、皆外国人だけど。


 オレが外国人か。アメリカだもんなココは。


「ボク、クエンティン・タランチュラ。ハジメマシテ」


「え、あの『キル・ビルディング』の監督!」

「ハイ、Mr.ホーガ。ココニ居ルト。会イニ来タ!」


 クエンティン・タランチュラがオレに?


「ユーノ、ミューズ。アリス・クリスマスヲ、ボクニ、レンタル。ОK?」


 クリスマスって、栗妻アリスのことか。

 レンタルって、彼女はオレの持ち物でも女でもないぞ。


 まだ、近くに居たのでエージェントのおっさんに通訳をたのんだら、話はこうだった。


 タランチュラは、女性アクション映画のオムニバス物を作るそうで、それに栗妻アリスを出したいからオレに貸せという。


 栗妻アリスを「呪呪」で見て、自分の映画につかいたいと思ったそうだ。


 が、タランチュラさんよ、栗妻アリスはでんぐり返しもろくに出来ない運動オンチだぞ。


   ☆ ☆


 連休あけの某高校。


「どうだった? 伯父のはじめての映画祭」

「楽しかったよ、映画観るだけでなくバーベキューまで、みんなわたしたちのコト孫だとか言って可愛がってくれたし、イイ人たちだったからね。映画の話もいっぱいしたし、またやるんでしょ?」


「やるよ、年にニ三回やるわよ。伯父の都合だけどね。あ、伯父がねアキのコト、凄く気に入ったって。僕がニ十、若かったら結婚したいって」


「伯父さんイイ人なんだけどね、司会のときのコスプレは引いたわ」

「アレは悪いクセよねスキンヘッドにサングラスまでならね、セーラー服はねぇ〜。伯父はねぇ一族の恥だってお母さんが、六十独身だもんね」


「え、伯父さん六十なの、もっと若いと……。普段何してる人?」


「たしかね、興信所の所長だとか……」


             つづく

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