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オタク

26話


 某中学校の廊下。


「あの子、映画オタクなのよ。黄音(きね)先生に恥をかかせたのよ」


「映画オタクよ」


「映画脳が感染るわよ」


 最近、クラスの女子だけでなく、他のクラスにも、変なウワサが広まっている。


 映画オタクで、悪いか。誰にでも好きな物がある。


 クラスのあの女子はスイーツオタクだ。

 テレビで美味しいとやれば、どんな値段でも買いに行って食べてる。


 化粧品オタクやダンスオタク、中華まんオタクも居るのに、なぜか映画オタクのボクが、ボクは悪いことなどしてない。


 あ、前から体操服姿で歩いて来るのは。


「あ、有楽くん!」


 学校一の美少女。宝田明(たからだあき)先輩だ。


「こんにちは部長」

「有楽くん、一推しの『燃えよドラゴン』観たよ。面白かったわ。わたし、ブルース・リーにハマったわ、部活のときに詳しく教えてね」


 宝田先輩はボクが入部した映画部の部長だ。

 先輩のような人と同じ部だなんて、ボクは映画オタクで良かった。


   ☆ ☆


 放課後、映画部部室。


「有楽くん、スマホでブルース・リーの作品を調べたの。有楽くん的にはどれが……」

「やはり、日本公開順で観た方がイイと、で、リー師匠の香港映画でボクが一番好きなのは『ドラゴンへの道』です。この作品はリー師匠が監督もしてます」

「あ〜ドラゴンだぁ。君は、映画部の部長さんにブルース・リーの映画なんか勧めてるのか格闘技映画なんて低俗な作品だよ」


 隣のクラスの新宿春斗(あらじゅくはると)だ、同じ映画好きだけど趣味がまったく違うのは入部時の自己紹介で知ってる。


「部長、僕は部長に『ゴッドファーザー』をオススメします」


「タイトルは知ってるけど古い映画よね、観てないの面白い?」

「はい、僕はDVDをパート1〜3と持ってます、コレをご鑑賞下さい」


「はぁ〜お前、そんなの持ち歩いてんのかぁ」


「ああ、いつでも観せられる様にな」


「お前さっき、リー師匠の映画を低俗と言ったな、『ゴッドファーザー』なんて、イタリアのヤクザ映画じゃないか!」


「バーカ、格が違うんだよ、アカデミー賞、オスカーとってんだよ。低俗なカンフー映画と一緒にするな!」


「やめなさい、ブルース・リーもゴッドファーザーも両方観るから、ケンカしないで!」


   ☆ ☆


 帰宅したわたしはお隣の月島聖子さんのトコに。

 彼女はわたしの映画の師匠だ。


「どうしたの(あき)ちゃん?」


「今日、部活で……。ということが」


「映画ファンにありがちな事ね。作品の価値は人によって違うから、ナニが良いとか悪いとか言ってもね。そんなんで争うのはバカげてるわ。ウフフ。子どもね……。あ、でも大人でも居るわね。困ったちゃんたちね。駄作を観たとか文句言う人も居るけど、私はすべての映画を愛してるから、そういうコトはないわ」


「さすが師匠です。そんなコトは、中々言えません。『すべての映画を愛してる』か……」


「ただ、私は映画が好きなだけ。どんな作品でも、人が好きになるというのは、それなりの良い所が有るからなのよね。たとへ他人が理解できなくても」


「聖子さん、わたし感動しました。ありがとうございます」


   ☆ ☆


 映画部室。


新宿(あらじゅく)くん、ありがとう。観たわよ、中々の作品ね、オスカーとるだけあるわ」


「ですよね、カンフー映画とは……」

「あ、有楽くん。ドラゴン、三作観たわよ。やっぱりブルース・リーは良いわよね。亡くなってからのは観てないけど『死亡遊戯』のメイキング映像まで観たわよ」


「さすが部長です」


 なんか、目が赤いな、けっこう無理して観たんだなぁ部長。


「でも、あなたたちのオススメ作品の中に、わたしが不快と思ったトコも有りました。こんなトコは観たくないと思ったトコも、でも両方の作品は好きよ。あなたたちのおかげでイイ作品に出会えたわ」


「だから……オスカー作品は」


「ねぇ新宿くんは、賞とった作品しか好きじゃないの? それに観ないの」


「いや、そんなコトは……。観て失敗だと思った作品も有りました」


「ソレは当然だ。自分が観た映画がみんな面白くてハズレがないなんてありえない!」


「有楽くん、ところが有り得るのよ。観た映画をみんな好きになればイイんじゃない。ソレが映画好きが映画を愛するってコトよ。すべての映画を愛せよ、少年たち」


「言いたい事は……」

「わかります部長……」


「でも、かなり難しい……」✕2


   ☆ ☆


 廊下で。


「有楽、このまえ借りた『香港レディコップス』は凄くおもしろかったぞ。僕な、主演の女優に惚れたよ」


「ジョイス・コウですね、先生も知ってるサモ・ハン・キンポーの奥さんになった女優さんです」


「そうなんだ。ジャッキー・チェンとか、ジェット・リーの映画しか知らなかったよ。凄いな昔の香港映画は」

「あの頃の香港映画があったから今のハリウッドのマーシャルアーツアクション映画があるんですよ」


「ホントに詳しいなぁ有楽は、もっとおもしろい香港映画見せてくれ」


「先生、実は用意してきました。ムーン・リーの『天使行動』シリーズまとめて三作、お貸しします。こいつはパート1だけ、日本から西城秀樹が主演ですけどヒットして仲間の女優ムーン・リーでシリーズ化しました。美人度もアクションも高い上物ですよ」


「おおソレは楽しみだ。ありがたく見せてもらうよ。でも、僕でもよく知らないぞ西城秀樹って歌手じゃなかったけアクションしてるのか?」


「ボクは西城秀樹は、『まる子』で知りまして、この映画で本物を見ました」


 黄音先生ファンの女子には嫌われてるが、僕と先生とは香港アクション映画の同志なのだ。


            つづく

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