十月二十一日
カーテンの隙間から微かに朝日が溢れ出ている。
まだ六時五十三分だ。肌寒い室温のせいで温い布団に留まっていたい欲望が微睡む私を飲み込む。
電車で三駅のところにある高校まではさほど時間がかからないので、目覚ましのアラームは七時に設定してあるのに、早く起きてしまってなんだか損した気持ちだ。
やっぱり、僅か五分ほどだけどもう少し布団の中に潜っていようかな。時間を確認するのに起動させたスマートフォンを手に取り、掛け布団を肩の上まで引っ張り上げる。
「ふうん、変なニュースもあるものね」
布団に包まった私が慣れた操作で画面をスクロールする最中に目に留まったネットニュースの記事は、大手の新聞社が書いたものにしては奇妙な内容だ。
今年の十月二十五日に世界中が世紀の大災害に陥る?デマも甚だしいでしょう。そもそも誰がそんなことを言い出したのかと文字を目で追っていくと、取材先はカタルシス=アポカリプスとなっている。ふざけた名前なこと極まりない。
大の新聞社がどんな悪ふざけで書いたのだろうか。あからさまなデマを書くのはエイプリールフール、せめて来るハロウィンくらいにして欲しいものだ。
ネットニュースなんか見るんじゃなかったと憤慨しつつ再び時間に意識を向けると、ちょうどアラームが鳴った。七時、起きないといけない。
私は恋しい布団を払いのけて朝の支度へと向かっていった。
ググッとネットの手前に落ちてくるバレーボール。体育館の床に落ちるギリギリのところで滑り込みレシーブ。アンダーで打ち上げて味方に繋ごうとしたのに、私の願いは通じないようで相手コートに入ってしまい、一転ピンチに。
気合いが入った声を発した相手選手は高くジャンプしてスマッシュを打ち込む。頭の後ろに引かれた右手、綺麗に折り曲がった両足、完璧なボールとの間合い。フォームが綺麗だなんて悠長に構えていたら、足に強い衝撃が走る。
「痛っ」
思わず漏れてしまう声。
ピーッと吹かれたホイッスルに、その声はかき消されてしまう。
「こら、ピンチを招いた本人がぼんやりしていてどうする」
「はい!すみません」
あのスマッシュは私如きにレシーブできたものじゃない。確かに一瞬ぼんやりしていたから顧問の先生の注意も理解はできるが、それでも不服だ。
「どんまい、あれはキツイよ」
「顧問厳しすぎ笑」
部活終わりに何人かのメンバーが励ましてくれる。でも私は分かる。こんなバレーが下手くそで、対して愛想も良くない私を誰も本心から気にかけていないことを。みんな社交辞令として声を掛けているだけなのだ。痛がっていた私に声を掛けないと、薄情な奴だとしてお仲間からの評価が下がるからね。
現に私を励ましにきたのは、二つのチームに分かれて練習していたうちの私が所属していない方、つまりスマッシュを当ててきた側のメンバーだけである。この事実がなによりの証拠だ。
それでも悲しいなんて思わない。
こんなつまらない日常に、何も期待をしていないから。