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第五十六話 響石

エレミア大神官との対決まであと三日、エルミナから来たソフィアとオリビア、そして同じくヴェルデン研究室の研究生であるリリアは、マナ波動検出装置に不可欠な響石を調達するため、魔法化学院の東棟へと足早に向かっていた。ヴェルデン教授の研究室を出て間もなく、三人の足音が大理石の廊下に軽く響き、午後の講義が終わったばかりの学生たちとすれ違った。


「この時間なら、オルデン准教授は鉱物庫にいるはずよ」ソフィアは計画を確認するように言った。「でも、彼を説得するのは簡単ではないでしょうね」


三人は東棟の階段を下り、地下への狭い螺旋階段へと向かった。階段を下りながら、オリビアが小声で話し始めた。


「オルデン准教授は保守派の中でも特に頑固で知られているわ。ヴェルデン教授の理論には強い反感を持っているの」彼女は一瞬躊躇いを見せた。「私が短期視察生として学院に来てから、彼の授業を何度か聴講したことがあるけど、マナ波動理論に関する質問をした学生を公然と叱責したこともあったわ」


ソフィアは頷きながら答えた。「でも響石は必ず必要よ。他の材料は代用できても、響石だけは...」


リリアは二人の後ろを無言で歩いていた。彼女の灰色の瞳は古い石造りの廊下や装飾に興味深げに向けられ、時折天井の魔法的な照明装置や壁に刻まれた紋章に視線を留めていた。研究生として学院の建築や設備に関心を示しているようにも見えた。


螺旋階段の底に到着すると、そこには青銅の重厚な扉があった。「鉱物庫」と刻まれた表札が掛けられている。オリビアが静かにノックすると、中から「どうぞ」という老人の声が聞こえた。


扉を開くと、そこには数え切れないほどの鉱物標本が並ぶ広い部屋があった。壁一面に設置された木製の棚には、様々な色と形の結晶や鉱石が整然と並び、それぞれにラベルが付けられていた。部屋の中央には大きな作業台があり、白髪の老人がそこでルーペを使って小さな結晶を観察していた。


「おはようございます、オルデン准教授」オリビアが丁寧に挨拶した。


老人はゆっくりと顔を上げ、三人を見た。彼の鋭い灰色の目は疲れを感じさせたが、その眼差しには若々しい知性が宿っていた。顎まで伸びた白髪と整えられた口髭が、彼の威厳ある雰囲気をさらに強めている。


「おや、オリビア嬢か」彼の目は一瞬驚きを見せた後、厳しさを増した。「君がヴェルデン研究室に通っていることは聞いていたが、こんな時間に私を訪ねるとは...」彼の視線がソフィアに移った。「そして君は...ヴェルデン教授の下に来ている短期訪問者だったな」


「はい、エルミナ王国から来たソフィア・レスコーです」ソフィアは礼儀正しく挨拶した。「以前もこちらの学院で学ばせていただきました」


オルデン准教授の視線がリリアに向かった。リリアは軽く頭を下げただけで、特に言葉を発しなかった。同じ研究室の一員として同行しているが、寡黙な性格のようだった。


オルデン准教授は眉を上げた。「ああ、あの貴重な古代魔法書を持参していた学生か。その噂は聞いている」彼は再び結晶の観察に戻りながら言った。「で、何の用だ?まさかあの老いぼれヴェルデンの実験の手伝いをしているとでも?」


オリビアとソフィアは視線を交わした後、ソフィアが一歩前に出た。リリアはわずかに身を寄せ、オリビアとの距離を保った。


「私たちは、ヴェルデン教授の実験のための響石をお借りしたいのです」ソフィアは率直に言った。最初から本題に入る方が良いと判断したのだ。


オルデン准教授の手が止まった。彼はゆっくりとルーペを置き、三人を見つめた。顔色が変わるのが見て取れた。「響石か...」その声には警戒だけでなく、何か深い痛みのようなものが混じっていた。「何のために必要なのだ?」


「マナ波動を検出する装置のためです」オリビアが答えた。「三日後の円形劇場での実証に向けて、私たちは...」


「断る!」


オルデン准教授の声は予想以上に激しく、三人を驚かせた。


彼は立ち上がり、背筋を伸ばした。その姿は年齢を感じさせないほど威厳に満ちていたが、同時に何か深い傷を隠しているようにも見えた。


「響石は単なる鉱物ではない」彼の声は低く、震えていた。「それは...古代から伝わる聖なる遺物であり、実験道具ではない」彼の目に一瞬、懐かしさと痛みが交錯した。「特にあの妄想的な『マナ波動理論』のような、四元素神聖説を覆そうとする危険な実験には協力できん」


ソフィアは心の準備をしていたが、それでもオルデン准教授の感情の深さには一瞬戸惑った。彼の拒絶は単なる学術的反対以上のものを感じさせた。ソフィアはその微かな感情の揺らぎを見逃さなかった。


「准教授、響石の重要性は十分承知しています」ソフィアは落ち着いた声で言った。「だからこそ、適切な実験で、その真の特性を理解したいのです。これは破壊的な実験ではなく、科学的な観察です。物理と魔法の関連性を解き明かす可能性がある研究なのです」


交渉は膠着状態に陥った。オリビアが何か言おうとした時、部屋の奥から若い男性が現れた。彼は薄い茶色の髪を持ち、穏やかな表情をした青年だった。


「お茶の準備ができました、教授」彼は丁寧に告げた。


「ありがとう、エーデル」オルデン准教授は頷いた。彼の顔には疲労の色が濃くなっていた。「申し訳ないが、今日はこれ以上話す時間がない。後学期の講義の準備がある」彼はほとんど逃げるように作業台に戻った。


オリビア、ソフィア、リリアは失望しながらも、礼儀正しく挨拶をして部屋を後にした。扉が閉まると、オリビアは小さく舌打ちした。


「予想通りの反応ね」彼女は廊下で立ち止まり、ソフィアを見た。「でも、彼の反応には何か...個人的なものを感じたわ」


ソフィアは考え込むように視線を落とした。「ええ、オルデン准教授の態度には単なる学術的反対以上のものがあるわ。彼は深い心の傷を隠しているように見えた。『30年前』と言いかけたのも気になるわね」


「何か他の方法を考えましょう」オリビアは言った。「時間がないわ」


その時、鉱物庫の扉が再び開き、先ほどの青年エーデルが廊下に出てきた。彼は周囲を見回して三人に近づくと、小声で言った。


「すみません、お三方に少しだけお話を...」


エーデルの声は控えめだったが、その目には真剣な光があった。


「オルデン准教授は厳格な方ですが、悪い人ではありません。ただ、彼には誰も知らない深い理由があるのです」


「理由?」ソフィアは興味を示した。


エーデルは再び周囲を確認してから、さらに声を落として言った。「准教授は昔、革新的な研究をされていました。30年前、彼は全く異なる立場にいたのです」


「革新的な研究?」オリビアが目を見開いた。


「はい。詳しくは言えませんが...」エーデルは唇を噛んで言葉を選んだ。「古文書室の第三書庫、北側の棚の最下段に、彼の初期の研究が保管されています。『源素結晶の共鳴現象と魔法増幅』という論文です。公式には発表されていませんが...」


「エーデル!どこだ?」オルデン准教授の声が鉱物庫から聞こえた。


「すぐに戻ります!」エーデルは声を上げてから、三人に向かって「それだけです」と言い、急いで鉱物庫に戻っていった。


ソフィアとオリビアは意味ありげな視線を交わした。リリアは静かに二人の判断を待っていた。


「古文書室に行きましょう」ソフィアが決意を込めて言った。


---


魔法化学院の古文書室は、学院の中でも特に古い建物の一角にあった。幾重にも重なる魔法的な保護と、厳格な入室規制によって守られている。


「訪問研究者として登録されていれば、基本的な閲覧権はあるはずよ」ソフィアは古文書室の入口で身分証を示しながらオリビアに言った。


管理人の老婦人がソフィアの証明書を確認し、特別な印が押された入室許可証を渡した。オリビアは学生証を示し、同様の許可証を受け取った。リリアも研究生としての身分証を静かに提示し、無言で許可証を受け取った。


「第三書庫は...」


三人は古文書室の奥へと進んだ。部屋全体が魔法の光で薄暗く照らされ、空気中には古い羊皮紙と魔法的な防腐剤の香りが漂っていた。大小様々な書庫が迷路のように配置され、各書庫には特定の分野や時代の文献が収められていた。


やがて「第三書庫」と記された扉に到着し、中に入ると、天井まで届く書棚が何列も並んでいた。


「北側の棚...最下段...」


三人は書庫の北側へと進み、最も壁に近い書棚の前で膝をついた。ソフィアが最下段を調べ始めると、オリビアも隣で手伝った。リリアは少し離れた位置から、二人の作業を見守っていた。


「あった!」オリビアが声を上げた。彼女は古い革表紙の論文を取り出した。表紙には「源素結晶の共鳴現象と魔法増幅」と書かれ、著者は「H・オルデン」とあった。


三人は近くの閲覧テーブルに座り、慎重に論文を開いた。冒頭には若き日のオルデン准教授の情熱的な言葉が記されていた。


「魔法現象は神秘的であるが、それは理解不能を意味しない。むしろ、適切な物理的手段によって、その本質を明らかにできると信じる。本研究は、物理的相互作用による魔法エネルギーの増幅と測定に関する新たなアプローチを提案するものである。」


ソフィアは夢中になって論文を読み進めた。そこに記された理論は、30年以上前のものながら驚くほど先進的だった。オルデン准教授は「物理的手段による魔法現象の測定」という革新的なアプローチを提案し、特に「源素結晶の物理的配置による共鳴効果」について詳細に分析していた。


「この理論...ヴェルデン教授のマナ波動理論とは異なるけれど、根底にある考え方は似ているわ」ソフィアは興奮を隠せなかった。「物理と魔法の関連性という点では、二人は共通の認識を持っていたのね」


論文の後半には、実験の詳細な記録があり、特に響石を含む複数の源素結晶の配置図が描かれていた。最後のページには、実験の結論が手書きで記されていたが、その部分は何者かによって一部墨で塗りつぶされていた。そしてページの余白には、震える筆跡で「忘れろ。二度と蒸し返すな。」という言葉が書き込まれていた。


「これは...」オリビアは言葉を失った。彼女は塗りつぶされた部分と余白の言葉をじっと見つめた。「何かとても重大なことがあったのね」


ソフィアは論文の発表予定日を確認した。「この日付...ちょうど30年前よ。ヴェルデン教授がマナ波動理論を発表したのと同じ時期じゃない?」


三人は互いを見つめた。何か重要な歴史的出来事が、この時期に起きていたことは明らかだった。


---


オルデン准教授を再び訪ねたのは、その日の夕方だった。ソフィア、オリビア、リリアは論文を手に、鉱物庫へと向かった。今度はエーデルではなく、准教授自身が扉を開けた。


「また君たちか」彼は疲れた様子で言った。「今日はもう取り合う時間が...」


彼の言葉は、ソフィアが掲げた古い論文を見た途端に止まった。オルデン准教授の顔から血の気が引いていくのが見て取れた。彼の手が震え始めた。


「どこで...」彼の声は震えていた。その目には恐怖と怒り、そして深い悲しみが交錯していた。


「古文書室です」ソフィアは真摯に言った。「あなたの若い頃の研究に感銘を受けました。特に物理的手段による魔法現象の測定という発想は革新的です」


「入りなさい」オルデン准教授は静かに言い、三人を部屋に招き入れた。彼の手は震えながらも、扉をしっかりと閉め、魔法の封印を施した。「誰にも話さないでくれ」彼の声は低く、切実なものだった。


彼は重い足取りで作業台まで歩き、椅子に腰を下ろした。その姿はもはや威厳ある教授ではなく、重い過去を背負った老人のように見えた。


「これは30年以上前の話だ」彼はようやく口を開いた。「私の...最大の過ちでもある」


「過ち?」ソフィアは静かに尋ねた。「この研究は素晴らしいものだと思います。あなたが考案した『源素結晶の配置による共鳴増幅』は、私たちが今必要としている響石の配置に重要なヒントを与えてくれます」


オルデン准教授は黙って天井を見上げた。彼の目には涙が浮かんでいた。「あの頃、私も情熱的な若者だった。魔法を科学的に理解できると信じていた」彼の声には懐かしさと苦さが混じっていた。「同じ頃、ヴェルデンは彼のマナ波動理論を発表した。私たちのアプローチは異なっていたが、根底にある「物理と魔法の関連性」という考え方では共通していた」


「彼の理論的アプローチと、私の実験的手法の組み合わせは、学院内で大きな支持を集め始めていた。私たちの研究会には若い教授や学生が集まり、伝統的な教えに疑問を持つ者が増えていった」


「それで問題が?」オリビアは興味を示した。


オルデンはわずかに首を振った。「学問的な議論が政治的な問題に発展したのだ。大神官は私たちの研究会を『秩序への挑戦』と見なした。実際の発見や内容よりも、伝統的権威が揺らぐことへの恐れが彼らを動かしたのだ。そのため、当時の大神官は危機感を抱いた。彼は私たちの研究を『神聖なる魔法の堕落』『秩序への反逆』と見なした」


彼は手で顔を覆った。「ヴェルデンは学術的地位が高かったため、単に彼の理論が無視され続けただけだった。しかし私は...」彼は言葉を詰まらせた。「私の家族が脅迫された。娘が突然『病気』になり、治療には『協力』が必要だと言われた」


部屋に重い沈黙が落ちた。ソフィアは言葉を失った。彼女はオルデン准教授の深い傷の原因をようやく理解した。


「そして、あなたは研究を放棄したのですね」ソフィアは静かに言った。


「私は公式に自分の研究を否定し、四元素神聖説を強く支持する立場に転向した」オルデンは苦々しく言った。「家族を守るためだった。娘は『奇跡的に』回復した。そして私は保守派の中心的な人物として、以前の同志たちの研究を否定する側に立つことになった」


彼は窓際に歩み寄り、外の景色を見つめた。「最も苦しかったのは、ヴェルデンの目を見ることだった。彼は私の立場を理解していたが、その目には深い失望があった。私たちは二度と親しく話すことはなかった」


「それから私は周囲の目から逃れるように、鉱物庫に閉じこもるようになった」彼は続けた。「表面上は伝統派として振る舞いながら、密かに独自の研究を続けていた」


オリビアが勇気を出して言った。「准教授、ヴェルデン教授の実験が成功すれば、30年前の脅迫者たちは間違っていたことが証明されます。あなたの研究も間違いではなかったと」


オルデン准教授は振り返り、オリビアをじっと見つめた。その目には複雑な感情が浮かんでいた。「君はセントラリアからの視察生と聞いているが...本当の身分は何だね?」


オリビアは一瞬言葉に詰まり、ソフィアと視線を交わした。


「私は...学問のために来ました。それだけです」


オルデンは深く息をついた。「私にはわかっている。君の立場も...」彼は言葉を選ぶように少し間を置いた。「しかし、若い君たちにはわからないだろう。世の中は論理や正義だけでは動いていない。権力と恐怖が真実を曲げることもあるのだ」


彼は作業台に戻り、古い木製の椅子に再び腰を下ろした。「君たちの情熱は理解できる。だが、響石の力は危険なものでもある。それが私の懸念なのだ」


「だからこそ正しい理解が必要なのではないでしょうか」ソフィアは慎重に言った。「准教授、この30年間、あなたは心の奥底では真実を求め続けてきたのではありませんか?」


オルデン准教授の表情が和らいだ。彼は長い間黙っていたが、やがて決心したように立ち上がった。「来なさい」


三人は彼に従い、鉱物庫の最も奥にある小さな扉の前で立ち止まった。オルデン准教授は懐から古い鍵を取り出し、扉を開けた。中は薄暗い小部屋で、壁一面に特別な保護装置が施された棚があった。


「これが私の個人コレクションだ」彼は言った。「30年間、誰にも見せたことがない。家族のためとはいえ、真実を裏切った罪滅ぼしとして、私はこの研究を密かに続けてきた」


棚には様々な種類の響石が、特別な配置で並べられていた。それぞれの響石には細かいラベルが付けられ、特性や採掘場所が記録されていた。部屋の中央には、小さな実験台と精密な測定装置が設置されていた。


「私は表向き研究を諦めたように見せて、密かに続けていたのだ」オルデン准教授は静かに告白した。「響石の共鳴現象について、独自の理論を発展させてきた」


彼は特に美しい青い光を放つ響石のグループを指さした。「これらは『共鳴度の高い響石群』だ。私が世界中から集めた最も反応性の高い標本たちだ」


ソフィアとオリビアは息を呑んだ。その響石は通常のものより遥かに強い光を放っていた。


「准教授...これらは」


「ヴェルデンの実験に必要なものだ」オルデン准教授は静かに言った。彼の目には決意の色が宿っていた。「30年前、私は家族のために友を裏切った。今、私の娘は遠くで幸せに暮らしている。もう恐れることは何もない」


彼は慎重に響石を特別な容器に収めながら言った。「しかし、一つ条件がある」


「何でしょう?」ソフィアが尋ねた。


「実験が成功したら、物理的手段による魔法測定という基本概念について、私の30年前の貢献にも言及してほしい」彼は真剣な表情で言った。「私の研究も、魔法科学の歴史の一部として記録されてほしいのだ。もちろん、これはヴェルデンが成功した場合の話だ」


彼の声は震えていたが、その目には久しぶりの光が灯っていた。「私はもう老いた。残された時間は長くない。せめて、真実のために立ち上がる勇気を、もう一度持ちたい」


「必ずそうします」ソフィアは約束した。彼女の瞳には深い理解と尊敬の色が浮かんでいた。「あなたの研究があってこそ、私たちの今の実験が可能になるのですから」


オルデンは震える手で共鳴度の高い響石群を収めた箱をソフィアに手渡した。「これを使いなさい。そして私が捨てた勇気を、君たちが受け継いでほしい」


オリビアは箱を見つめながら言った。「准教授、あなたは勇気を捨てたのではなく、家族のために別の形の勇気を選んだだけです。そして今、また新たな勇気を見せてくださっています」


オルデン准教授の目に涙が浮かんだ。「オリビア嬢、君は...」彼は言いかけて言葉を飲み込んだ。「セントラリアからの短期視察生として学院に来ているが、もし君が考えているほど安全ではないことを知っているなら、くれぐれも注意してほしい」


オリビアは一瞬驚いたように見えたが、すぐに微笑んだ。「ご心配ありがとうございます。私は自分の信じる道を進むだけです」


リリアの瞳に、一瞬鋭い光が走った。オルデン准教授の警告は、単なる杞憂ではないかもしれない。彼女は無言で周囲への警戒を強めた。


ソフィアは響石の入った箱を大切そうに抱え、オルデン准教授に深々と頭を下げた。「あなたの信頼に答えます。そして、この響石が持つ可能性を正しく示すことをお約束します」


「そして、エレミア大神官には気をつけなさい」オルデン准教授は警告するように言った。「彼は30年前の大神官の甥だ。叔父と同じく、彼も真実より秩序を重んじる。彼は単に学術的論争を超えた目的を持っているのかもしれない」


ソフィアとオリビアは意味深長な視線を交わした。リリアは表情を変えなかったが、その身体に微かな緊張が走るのを感じていた。この実験は単なる学術的証明以上の意味を持つようになってきていた。それは長い間抑圧されてきた真実への挑戦、そして学問の自由を求める戦いでもあったのだ。


「さあ、皆に報告しましょう」ソフィアは言った。「準備を始めなければ」


三人は響石を手に、急いで研究室へと向かった。三日後の公開実証に向けて、準備の時間は限られていた。しかし今、彼らの手には最も重要な材料が揃った――そして、30年前に封印された真実を解き放つための鍵も。


オルデン准教授は窓際に立ち、去っていく三人の姿を見送りながら呟いた。「ヴェルデン、これが私からの最後の贈り物だ。君こそが正しかったのかもしれない」

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