帰路(1)
国王陛下が締めの言葉を述べる。
「これにて、本日の式典を終了とする。卒業生たちの未来に幸あらんことを」
その言葉と共に、式典としての公式な場は終わり、会場は一気に歓談の雰囲気へと移り変わった。
だが、貴族たちはただ歓談を楽しむどころではなかった。
先程の発表により、貴族たちは我先にと王太子であるノエルへと殺到し、王女とその婚約者であるエレノアおよびセドリックへ挨拶しようとする。
「ノエル殿下、ぜひ今度お話の機会を……!」
「エレノア殿下、これまでお目にかかれず、大変失礼いたしました。ぜひ改めてご挨拶を……!」
「セドリック様、これを機にハウフォード公爵家との交流を深めさせていただければと!」
四方八方から貴族たちの声が飛び交い、それぞれが必死に己の存在を示そうと躍起になっていた。
特にノエルは、王太子としての正式なお披露目となったことで、これまで以上に注目を集めていた。
エレノアとセドリックも、同様に貴族たちの挨拶を受けながら応対していたが、次第にその数が増えてきて、ほとんど休む暇もない状態になっていた。
それでも、エレノアは優雅な微笑みを崩さず、セドリックも堂々とした態度で一人ひとりに対応する。
だが、どれだけ社交の場に慣れていても、これだけの人数と次々に挨拶を交わし続けるのはさすがに疲れるものだった。
やがて、パーティはお開きの時間となった。
「まだまだ話したいことが……!」と名残惜しげな貴族たちが後を絶たなかったが、エレノアとセドリックは適度に切り上げ、会場を後にすることにした。
二人は、なおも話しかけようとする貴族たちをうまく躱しながら、馬車へと向かった。
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馬車の中に乗り込むと、ようやく二人きりの空間が訪れた。
エレノアは座席にもたれかかり、そっと息を吐く。
「……疲れたわね」
素の感想を漏らしたエレノアに、セドリックはくすっと笑いながら頷いた。
「同感だよ。今日一日で、何年分の社交をこなした気がする」
「まったくね。これからはきっと、さらに忙しくなるのね……」
「でも、君と一緒なら、どんなに忙しくても乗り越えられる気がするよ」
セドリックが優しく微笑むと、エレノアもつられるように微笑みを返した。
しばらくの間、馬車の揺れに身を任せながら静かに過ごした後、エレノアがふと真剣な表情を浮かべた。
「……セドリック、改めてだけれど」
彼女はそっと彼を見つめる。
「私の正体をずっと隠していたこと、本当にごめんなさい」
「……」
セドリックは一瞬目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「もう何度も言ったけど、気にしなくていい。君が言えなかった理由は、よく分かっているから」
そう言いながら、セドリックはエレノアの手を優しく握った。
「これでようやく、正式に婚約者の実家に挨拶ができるね」
「……ええ、本当に」
エレノアは少し照れくさそうに微笑んだ。
「それに、これからは……魔道具の開発も一緒にできる」
「そうね。私たちの作るものが、国の未来をより良いものにできたら素敵だわ」
「もちろん。君の知識と、僕の技術が合わされば、きっとどんな難題も解決できるさ」
未来への希望を語りながら、二人はお互いの手をしっかりと握りしめた。
まだ少し続きます!