表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/46

卒業パーティ(9)

会場のざわめきは、なかなか収まることはなかった。


 エレノアが壇上に上がった今も、貴族たちは動揺し、ひそひそと何かを話し合っている。これまで彼女を平民だと見下していた者たちは、特に強い衝撃を受けていた。


 ――そして、その中でも最も荒々しく動揺を示したのが、ヴァニエルだった。


「嘘だ!!」


 彼の絶叫が、静けさを取り戻しつつあった会場を再び乱す。


 人々の視線がヴァニエルに集まるが、そんなことなど気にする様子もなく、彼は壇上のエレノアを指さして叫んだ。


 「お前、そんなこと……一言も俺に……!」


その瞳は信じられないものを見るように、大きく見開かれていた。


「それに、髪の色が違う!王族の色ではない!地味な…なんの変哲もない茶色じゃないか!」


 ヴァニエルの顔は青ざめ、彼の取り巻きですら彼の突然の言動に動揺しているようだった。


 不敬極まりない発言に、国王は表情を引き締め、彼を一喝しようと一歩前に出た。


「陛下」


 静かだが、はっきりとした声がそれを遮る。

 エレノアだった。

 壇上に立つ彼女は、毅然とした表情で国王を見上げ、そっと片手を挙げる。


「私の方で対処させていただくこと、お許しいただけますか」


 国王は一瞬だけ彼女を見つめた後、静かに頷いた。

 許可を得たエレノアは、まっすぐにヴァニエルを見つめ、説明する。


「……ノエルもそうですが、私たちは学園に在学中、自らの正体を明かすことを禁じられていました」


 ヴァニエルの眉がピクリと動く。


「禁じられていた?」


「決して正体を公言することができないよう、厳しい制約魔法がかけられていたのです。これは王家が決めたことであり、学園の関係者、そして私たち自身も、それに従うしかありませんでした」


 事実を淡々と告げるエレノアに、ヴァニエルは言葉を失ったように口を開けた。

 しかし、すぐに食い下がる。


「だとしても……! 髪の色が違う! 王族の髪色はプラチナブロンドで……!」


 エレノアは一つ、肩をすくめてみせた。


「……染め粉よ」


「……なに?」


「王家の血筋が、何の変装もせずに学園生活を送るとでも思って? 髪の色を変えるくらい、むしろ変装としては少ない方だわ」


 ヴァニエルはぐっと息を詰まらせた。

 確かに、王族が素顔をさらして学園生活を送るなど、ありえない。

 もし本当に王族ならば、それ相応の対策がなされているのは当然のことだった。

 ヴァニエルの顔色がさらに悪くなる。


「嘘だ……」


 呆然と呟くヴァニエル。

 それを見下ろしながら、エレノアの唇がゆっくりと弧を描く。


「……先ほどの騒動も含めて、あなたが今まで私に向けてきた数々の不敬な言動。責任は、きちんと取ってもらう予定よ」


 その言葉を聞いた瞬間、ヴァニエルの顔は完全に青ざめ、拳を強く握りしめていた。


 だが、そう簡単に屈するつもりはないらしい。数秒間、必死に呼吸を整えた彼は、顔を上げ、次にノエルへと視線を向けた。


「……ノエル・ウィンチェスター殿下」


 その呼びかけに、ノエルはわずかに眉をひそめる。


「先ほどは大変失礼を致しました」


 ヴァニエルは、いかにも誠実そうに頭を下げる。


「まさか、あなたの姉妹が王家のご息女であられたとは思わず、軽率な振る舞いをしてしまったことを深くお詫び申し上げます。これからは決してそのような非礼を犯すことはございません」


 一転して殊勝な態度を見せるヴァニエルに、周囲の貴族たちはざわめく。

 しかし、彼はここで終わるつもりはなかった。

 顔を上げると、その瞳には決意の光が宿っていた。


「――そして、私はこれから、あなたの伴侶として、王家に誠心誠意仕える所存です」


 言葉を区切りながら、堂々と宣言するヴァニエル。

 会場は一瞬、静寂に包まれた。

 だが、その沈黙を破ったのは、ノエルの何とも言えない反応だった。


「……え?」


 首を傾げ、困惑したようにヴァニエルを見つめるノエル。


「……すみません、今の話、何かの聞き間違いでしょうか?」


 わずかに微笑みながら、あくまで丁寧に尋ねるノエルだったが、その声色には明らかに「とぼけている」意図が込められていた。


 ヴァニエルの顔が引きつる。


「なっ……! い、いや、今言った通りだ! 私は、あなたの伴侶となる者――」


「なるほど、なるほど」


 ノエルは頷きながら、さらに首を傾げる。


「でも、それって一体、何の話でしょう?」


「……!」


 ヴァニエルは愕然とした表情を浮かべる。

 周囲からも、小さな笑い声が漏れ始めていた。

 焦ったヴァニエルは、苛立たしげに胸元を探り、取り出したのは――金の封筒。


「これだ! これを見ろ!」


 ヴァニエルは封筒を高く掲げ、会場中に見せつけるように振りかざした。


「これは王家から私に宛てられた正式な手紙! ここにはこう書いてある! 『王家にふさわしい人間であることを証明するなら、王家のご息女を嫁がせる』と!」


 周囲がどよめく。


「私はそれに相応しい人間になった! 先日、正式に魔法剣士の試練を受け、王家に剣を捧げることを許された! これで証明は十分なはずだ!」


 ヴァニエルは息を荒くしながら続ける。


「まさか王家が約束を違えることはないよな?」


 言葉の端々に、わずかながらも脅すような響きがあった。

 それを聞いたノエルは――ただ、ゆるりと目を細めた。


ノエルの煽りスキルの高さは姉譲りです。いや、姉以上かも?笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼▼▼こちらも是非ご覧ください!▼▼▼

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!
 →【短編】サクッと読める、婚約破棄ざまぁ

”シンデレラ” のその後の話 〜あの子に王妃は荷が重すぎない?!
 →【短編】シンデレラの義姉が、物語終了後のシンデレラを助けるために奔走する話。ギャグコメディです!

シナリオ通りにはさせませんわ!!
 →【短編】自分が悪役令嬢モノの主人公だと自覚しつつも、ゆるふわ物語に騙されず、現実を切り開く令嬢の物語

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ